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入管の闇…日本で最も過酷な社会的弱者・在留資格のない外国人の現実 医療受けられず死亡例も

文=林美保子/フリーライター
入管の闇…日本で最も過酷な社会的弱者・在留資格のない外国人の現実 医療受けられず死亡例もの画像1
出入国在留管理庁のHPより

 今年3月、入管施設に収容されていたスリランカ人女性のウィシュマ・サンダマリさん(33歳)が死亡した。半年間の収容の間に体調を崩し、治療を求めたが放置されたまま亡くなったのだ。これは、たまたま起きてしまった不幸な出来事とはいえない。民主的な国であるはずのこの日本で、在留資格がないという理由で医療を受ける権利を奪われている外国人たちが多く存在するのだ。

入管収容施設での死亡者17人のうち、自殺者が5人

 全国難民弁護団連絡会議の資料によると、入管収容中の死亡者は2007年から現在に至るまで17人いる。そのうち、見通しの立たない長期の収容生活などの理由から自殺した者が5人、ハンストによる餓死者が1人。職員による暴行致死が疑われるケースや、ウィシュマさん以外にも体調を崩して「死にそうだ」と訴えたが放置されたケースもある。収容中の待遇、医療体制ともに刑務所よりも劣悪で、人権が軽んじられているという実態がある。ウィシュマさんが書いたメモには、「なんで、私たち、動物みたいな扱いですか?」という言葉が綴られていたという。8月10日、出入国在留管理庁は、ウィシュマさんについて体制が不十分だったことを認める最終報告書を発表した。

 在留資格のない外国人は原則的には国外退去処分になるが、在留許可申請中は退去処分にできない。政府与党は3回目の申請以降は退去処分にできる内容を盛り込んだ入管法改正案を国会に提出したが、ウィシュマさんの事件が大きく取り上げられたことや、著名人による反対表明、支援団体による反対運動もあり、5月には事実上の廃案となっている。

 在留資格のない外国人でも仮放免が認められると日常生活を送ることができるが、就労は許されず、生活保護を受けることもできない。ほとんどの仮放免者は困窮し、友人知人や自国コミュニテイに頼って何とか生き延びている。健康保険資格もなく、病気になれば全額負担になってしまうため、体調が悪くても放置されがちだ。あらゆる社会的弱者のなかでも最も過酷な立場にいる人たちだといえるのではないだろうか。

十分な治療を受けられず、死亡した3時間後に在留資格カードが届いた例も

 6月4日、NPO法人北関東医療相談会は厚生労働省で記者会見を開き、仮放免者が病気を患った際の過酷な実態を報告するとともに、高額医療費の支援を求めた。

 南アジア出身の女性(46歳)は、日本人男性と結婚したが、離婚して在留資格を失い、2カ月間の入管収容を経て仮放免となった。その後、ステージ3の卵巣がんを発症。転移もあり、緊急手術となる可能性もあるが、手術代と抗がん剤投与で500万円かかるという。

 仮放免中の男性(54歳)は胆石性膵炎などにより致死率数十%と診断されており、胆嚢摘出手術費が200万円かかると推定される。難民申請中の南アジア出身の男性(42歳)は糖尿病が悪化、治療には300万円くらいかかるらしい。

 社会福祉法に基づき無料低額診療を行っている病院もあるが、コロナ禍の影響で利用者が急増したために、日本人優先で外国人お断りというところが少なくない。「このような状況から、可能な限り当団体で医療費を援助していくようにしています。ただ、さすがに、この3例の医療費をまとめると1000万円近くにもなり、当団体だけでは賄い切れないのが現状です」と、事務局長の長澤正隆さんは語る。

 北関東医療相談会では、非正規滞在者という制度の狭間にいる外国籍住民の「いのち(健康)」を守ることを心がけ、無料健康診断や医療費、薬代金などの支援を行っている。年間50人前後を支援しているが、今回は緊急を要する3人に絞って寄付を呼びかけることにした。

 今年初めには、同団体が支援してきた難民認定申請中のカメルーン出身の女性レリンディス・マイさん(42歳)が、2度の入管施設収容、仮放免、ホームレスという過酷な境遇の中で乳がんを悪化させて亡くなった。念願の在留カードが届いたのは、死後3時間後のことだったという。

在留資格のないことが、生きられない理由になってはならない

「どうしてこのようなことが起きるのかというと、いろいろな原因があるとは思いますが、国や入管のメンタリティが大きな原因のひとつになっていると思います。1960年代、ある法務官僚が『外国人は煮て食おうが焼いて食おうが自由』と暴言を言い放ったそうですが、いまでも入管にはそのような意識が根づいているのではないでしょうか」と、同団体のスタッフである大澤優真さんは語る。

 不法滞在と聞くと悪質なイメージがあり、強制送還すれば一件落着と考える人も少なくないかもしれないが、そう簡単な話ではない。戦争や迫害を逃れて日本にやってきて難民認定申請中の人がいる。認定NPO法人難民支援協会の資料によると、2020年における難民認定率はカナダ55.2%、イギリス47.6%に対して、日本はわずか0.5%にすぎない。

 そのほかにも、離婚によって在留資格を失うが子どもが日本で生まれ育っているとか、ウィシュマさんのようにDV男性のために学生の資格を失ってしまうとか、長く日本に住んでいるため自国に帰っても生活基盤がないなど、さまざまな事情がある。

「まずは、きちんと在留資格を与えてあげるべきだと思います。在留資格の有無が、健康のボーダーになっているのが現状で、これは入管庁の大きな間違いです。病気になったときには、短期でもいいから保険証を出してほしい」と、長澤さんは語る。

「在留資格があろうとなかろうと、治療を受けさせない、生きられない理由にはならないということを一番伝えたい」と、卵巣がんの南アジア人の代理人を務める高橋済弁護士も語る。

 この記者会見などの呼びかけにより、7月上旬までに700万円以上の寄付金が集まった。7月初めには卵巣がんの女性は手術を終え、2人の男性の治療の目途も立った。その後、卵巣がんの女性に在留特別許可が出たという吉報も届いた。今後の治療のためにも、同団体では、継続して治療費の寄付を募っている。

(文=林美保子/フリーライター)

【募金先】ゆうちょ銀行 当座預金:アミーゴ・北関東医療相談会

記号:00150-9-374623(通信欄に必ず「仮放免者への寄付」と記入)

林美保子/ノンフィクションライター

林美保子/ノンフィクションライター

1955年北海道出身、青山学院大学法学部卒。会社員、編集プロダクション勤務等を経て、執筆活動を開始。主に高齢者・貧困・DVなど社会問題をテーマに取り組む。著書に『ルポ 難民化する老人たち』(イースト・プレス)、『ルポ 不機嫌な老人たち』(同)、『DV後遺症に苦しむ母と子どもたち』(さくら舎)。

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