アルミ総合メーカー、日本軽金属ホールディングス(HD)は7月5日、アルミニウム製品を製造する子会社の日軽新潟(新潟市)が、日本産業規格(JIS)の認証の取り消し処分を受けたと発表した。岡本一郎社長はオンラインで記者会見し、「大変重く受け止めている」と謝罪した。不適切な行為は2007年のJIS認証取得直後から続いていた。
今回問題になったのは主に住宅建材向けのアルミ製品である。JIS規格と異なる試験を実施していたにもかかわらず、JISマークを付けて出荷するなど4例の不適切行為が確認された。件数は合計で1万件を超え、年間250トン前後出荷していたという。
日軽金グループは今年5月以降、品質管理体制の不備による処分が3件目となった。最初は子会社の日本軽金属名古屋工場(愛知県稲沢市)で、5月14日付で日本品質保証機構(JQA)からJIS認証を取り消された。名古屋工場では半導体装置などに使うアルミ板を生産している。不正があったのはアルミ厚板の引っ張り強度を確認する試験だった。規定と異なる方法で検査したにもかかわらず、JISマークをつけて出荷していた。
不正は1996年から続いており、生産性をアップする過程で検査方法が変わったことが原因だったとしている。2018年に同工場の品質管理委員会が不正の事実を把握した後も報告していなかった。取締役会が事態を把握したのは21年4月、JQAの臨時検査後だったという。
2件目はアルミ加工の日軽形材(岡山県高梁市)の岡山工場が6月30日付でJIS認証の一時停止処分を受けた。岡山工場ではJISマークを表示しない独自規格の商品も製造。このうちの一部アルミ製品についてJISマークを誤表記して出荷していた。出荷量は33トン。
20年12月、工場の生産性を高める狙いで新しい生産管理システムを導入。この更新手順のなかで不手際があった。日軽形材は5月18日にJQAに経緯を報告。「品質管理体制に不備がある」とされ、JIS認証の一時停止処分を受けた。
相次ぐ不正の発覚を受け、日軽金HDは6月、社内調査から外部の弁護士などで構成する特別調査委員会の調査に切り替えた。より中立的な視点で不正の実態解明を急いでいる。今後、調査結果と再発防止策を公表する予定だ。
経営責任について岡本社長は「原因を究明し、再発防止策を進めるのが経営層の責任だと判断している」と述べ、社長の椅子に留まる考えを示した。日本の素材産業では近年、生産現場での不正が次々と発覚した。2017年には神戸製鋼所や三菱マテリアルがJIS認証取り消し処分を受けている。これをきっかけに各メーカーは生産現場の総点検を行ったはずなのに不祥事が後を絶たない。
雨畑ダムの堆砂問題は令和の公害事件
日軽金HDは別の問題も抱えている。駿河湾産サクラエビの不漁をきっかけに雨畑ダム(山梨県早川町)の堆砂問題にスポットライトが当たり始めた。雨畑ダムは電気を大量に使うアルミニウム製造のための自家発電施設である。蒲原製造所(静岡市)で使用する電力の一部を雨畑ダムの発電が賄っている。19年8月と10月の台風で雨畑ダムの周辺地域に浸水被害が発生した。国土交通省は日軽金に「抜本的な対策」を求めて行政指導をした。同社は20年度からの5年間で700万立方メートル(東京ドーム5杯分)の土砂を搬出する計画を提示し、国に了承された。
これに伴い土砂除去費用として20年3月期に110億円、21年3月期に162億円の特別損失を計上した。年商4000億円規模で営業利益が250億円、最大でも300億円の日軽金HDにとって、この特損は大きい。毎年新たにダム湖内に流入する50万立方メートルから数百万立方メートルの土砂の対応については具体的に示されておらず、雨畑ダムの堆砂問題の解決への道筋は不透明といえる。
さらに、雨畑ダムは環境問題にかたちを変えてきた。地元紙の静岡新聞は、駿河湾産サクラエビの記録的な不漁を機に2018年末から「サクラエビ異変」と題した報道を続けている。駿河湾に注ぐ富士川の河川環境に着目し、アルミ製錬を終えた日本軽金属が戦時中からいまだに持ち続けている富士川水系の巨大水利権や上流部の雨畑ダムの著しい堆砂、砕石業者による凝集剤入り汚泥の不法投棄問題などを詳報した。
サクラエビは静岡県を代表する食材である。駿河湾産のサクラエビの年間漁獲量が近年、低迷している原因は何なのか。静岡新聞の長期企画「サクラエビ異変」は今年2月、公共の利益に貢献したジャーナリズム活動を早稲田大学が顕彰する「石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞」の文化貢献部門の奨励賞を受賞した。
高分子凝集剤入り汚泥の大量不法投棄
山梨県は7月26日、採石業者ニッケイ工業(早川町)が長年続けていた高分子凝集剤入り汚泥(ポリマー汚泥)の大量不法投棄で、「合計約22トンの凝集剤が、富士川水系雨畑川に投棄されていた」との調査結果を公表した。河川内への不法投棄は2009年から続いていたことも明らかになった。
ニッケイ工業は日本軽金属が10%出資している会社だ。雨畑ダムの土砂を浚(さら)い、砂利を採取している。日本軽金属の関係会社である。山梨県の長崎幸太郎知事と静岡県の川勝平太知事は7月27日、静岡県庁で覚書を交わし、「富士川の豊かな水環境の保全に向けた山梨県・静岡県協働プロジェクト」をスタートさせた。富士川水系のポリマー汚泥の残留の実態などを明らかにする。
阿部知子衆院議員(立憲民主党) の雨畑ダムの堆砂問題についての質問主意書に対し、政府は今年5月、答弁書で「すでに堆砂率(総貯水容量に対する堆砂量の割合)は120%に達している」ことを明らかにし、「必要ならダム撤去の指導を行う」との認識を初めて示した。
その上で、日軽金が堆砂除去を進めていることから、現時点でのダム撤去は否定した。雨畑ダムの上流では堆砂による洪水被害が発生している。日軽金は今後も継続的に土砂除去費用を計上する必要に迫られるかもしれない。令和の公害と呼ばれる雨畑ダムの堆砂問題は日本軽金属HDの体力を蝕(むしば)んでいく。
(文=編集部)