日本がクジラの資源管理を協議する「国際捕鯨委員会(IWC)」から脱退し、商業捕鯨を再開してから丸2年が経過した。もともと鯨肉を食べるのはごく一部の層に限られる上、新型コロナウイルス感染拡大を受けた飲食店の休業などが響き、需要は低迷の一途をたどる。「捕鯨にケチをつけられたくない」と考える二階俊博・自民党幹事長らのナショナリズムからIWCを脱退したわけだが、そこには緻密な戦略がなく、商業捕鯨の展望を描ききれない悲惨な事態に陥っている
食文化に文句言うな
「どうして他国の食文化に文句を言い、高圧的な態度で出てくる国があるのか。日本が他国にそんなことをしたことがあるのか」。この発言は2018年12月、捕鯨で有名な和歌山県を地盤とする二階氏によるものだ。同氏はIWC離脱について、「脱退も辞さないと警告してきた。並々ならない決意であることを理解してほしい」と語気を強めた。その半年後の19年6月、脱退が実現した。
IWCはもともと、クジラの持続的な利用を目指すために作られた組織だ。にもかかわらず、米国やオーストラリアなどはいつの間にか保護一辺倒に傾斜した。クジラには知能があるから食べることはかわいそうなど極端な主張も聞かれる。親捕鯨国と反捕鯨国の勢力が拮抗し、感情的な対立が影響してか、何も決められない機能不全に陥ったため、日本政府は脱退という切り札を使った。
ただ、脱退という選択肢には疑問点もつきまとう。脱退の議論は2010年代に入ってからくすぶっていたとされるが、いざ商業捕鯨が再開されるとなっても、日本周辺の漁場を把握しきれていないなど、準備不足の感は否めない。経営面では、捕鯨業者の足腰も弱いままだ。
脱退は間違い
国際社会では、米国のトランプ政権発足後、自国優先主義が台頭している。日本はこれまでも対話を重んじてきたが、「しびれを切らした政治家の意向で出て行ったにすぎない」(関係者)のが実情。本来なら、IWCに残って自国の主張を展開した上で、堂々と商業捕鯨を再開する手法が王道のはず。
業界関係者は31年ぶりの商業捕鯨再開に沸いたが、実は八方塞がりになっている。日本政府は捕獲できる頭数に上限(21年は295頭)を設けており、獲り放題ではない。このため、経営を安定させるためにも、業界側は政府に対し、上限の引き上げを強く求めている。鯨肉は給食で竜田揚げとして提供されるなど、かつては身近な食材だった。しかし、冒頭でも触れたように、食すのは高齢者が中心のため需要拡大は難しい。しかも、外食需要が激減しているため、状況はかなり悪い。
そうしたなか、果敢な挑戦に挑む企業がある。それは捕鯨大手の共同船舶。同社は今年5月、60億円を投じ、捕鯨母船「日新丸」の後継船として、南極海でも操業できる新母船を建造すると発表した。日新丸は19年に終了した調査捕鯨を担っていたが、同年以降は日本近海で商業捕鯨を行っている。
商業捕鯨は商売とうたいつつも、多額の補助金が費やされているのは疑いようのない事実。同社は建造する際、国の補助金には一切頼らず、自己資金でまかなうと説明している。クラウドファンディングや融資などが財源となる。
南極捕鯨、国際批判も
同社は将来的な上限の引き上げを当て込み、新母船の建造を決めた。逆にいえば、捕獲量を増やさなければ、経営状況の改善が見込めず、捕鯨ビジネスそのものが危機に瀕するというシグナルを発したことになる。商品開発を通じ、若年層もターゲットにしていく考え。ただ、多種多彩な食べ物が世にあふれるなか、供給を増やしても、市場が拡大していくかどうかは見通せない。関係者は「母船建造は一種の賭けのようなものだ」と指摘する。
新たな母船は、大型のナガスクジラを捕獲するため、南極海に出向く可能性がある。現時点では、商業捕鯨に対する国際的な批判はあまり起きていない。ただ、オーストラリアは南極海を自分たちの庭ととらえており、実際に南極海で捕鯨を行えば、日本は国際社会から厳しい批判を浴びそうだ。
見切り発車でスタートした商業捕鯨。鯨肉の需要減退と国際社会の厳しい目線にどう対処するか。明確な答えは出ていない。
(文=編集部)