師走には買い物で賑わっていた、上野のアメ横。数年前までは10枚1000円で売られていたアタリメが、今は3枚で1000円。3倍以上になっている。イカの不漁のせいだが、温暖化など気候が原因だとの説もあるが、日本の漁場に外国船が入り込んでいるという事実もある。
日本海の中央には巨大な海底山脈がある。渓谷によって分断され2つの山脈がある形で、北側が北大和堆、南側が大和堆と呼ばれている。スルメイカが多く生息する大和堆は、日本の排他的経済水域(EEZ)に入っている。つまり航行するのは自由だが、漁業などの経済行為は日本籍の船にしか許されない水域である。
ここに北朝鮮の漁船が入り込んでいることは、以前から問題になっている。水産庁によれば、昨年5月から8月5日の発表までに大和堆で操業した498隻の北朝鮮漁船に退去警告を発し、それに従わなかった121隻の漁船に放水を浴びせ、12件において漁具を没収したという。
こうした対処によって北朝鮮漁船の侵入は減っているようだ。しかし、スルメイカ漁で実績のある石川県漁業協同組合小木支所に訊くと、もっと大きな問題が起きているという。
「最近は北朝鮮よりも、中国の船が目立つんですよ。北朝鮮のは、簡単な刺し網というので漁をするんですけど、中国は虎網とか被せ網を使ったりするし、二艘引きもやっているみたいなんです。船自体も大きくて、こちらは200トン弱ですけど、中国のは500トンとか1000トンもあります」
刺し網というのは、遊泳を遮断するように網を張るものだが、虎網や被せ網は群れを覆ってしまう。2隻の船が対になって1つの網を引くのが、二艘引きである。
「二艘引きだと、根こそぎ持って行かれてしまうんです。資源の枯渇につながりかねません。漁獲量は減り続けていて、うちの所属船の一隻当たりの平均で平成29年度が325トン、一昨年が219トンですけど、昨年は11月時点で70トンと大幅に落ち込んでいるんです」
中国、国ぐるみの海洋戦略か
水産庁によると、中国船が大和堆に現れていることは事実だという。だが今のところ、その状況について公式発表する予定はないとのこと。中国船に対しても放水などで対処しているとのことだ。
「北朝鮮の船はすぐ近くいたりして、水産庁の取締船が退去命令を出したり、放水したりしているのは見ています。だけど中国船が出てくると、危険性があるからということで、うちらの船に出ていくようにと水産庁は指示するんですね。だから、中国船に放水しているというのは見たことはありません。出て行かされるので、その期間、操業もできないということにもなります。
北朝鮮の船が問題になっていた時は、国交がないから拿捕できないという話でした。中国とは国交があるので拿捕すればいいと思いますけど、一隻も拿捕していないです。取締船を増やしたり、人員を増やしていただいているのは確かなんですが、うちとしてはかなり厳しい状態ですね。このままですと廃業につながりかねません」
こうしたことは一部でしか報道されていないが、都会ではイカが高騰して、今や高級魚になってしまっていると感じるほどだ。
「弱っているのは私たち漁業者だけでなく、加工業者さんのほうはもっと大変だと思うんです。数年前の5倍くらいの価格になっている例もあるので、それで一般の方たちが理解して買ってくれるかどうか」
日本と北朝鮮のEEZは大和堆の北あたりで近接しているが、中国はそうではない。北朝鮮が自国のEEZ内の漁業権を中国に売ったと見られている。北朝鮮の場合、個々の漁民が脱法行為をしていると見ることもできるが、中国の場合、国ぐるみの海洋戦略の一環なのかもしれない。イカが高くなった、と嘆いているだけでは済まない問題をはらんでいる可能性があるのだ。
(文=深笛義也/ライター)