今日(28日)は年間でウナギが最も消費される土用の丑の日だが、日本でメジャーなニホンウナギの稚魚であるシラスウナギは希少価値が高いため、「白いダイヤ」との異名を持つ。密輸や密漁が横行し、暴力団の資金源とされる。不透明な取り引きにより流通した可能性のあるウナギが消費者の口に運ばれているかもしれない。
1キロ299万円
シラスウナギは日本から2000キロほど離れたマリアナ諸島付近で産卵し、潮の流れに乗って河口にたどり着く。生態が不明な部分が多く、資源量などもわかっていない。年によって極端な不漁に陥ったり一転して豊漁になったりするが、長期的には漁獲量は減少傾向にある。取り引き価格(1キロ当たり)は高止まりしており、直近で最も高額だった2018年漁期(17年11月~18年5月)は299万円だった。ここ2年ほどは比較的豊漁だったため、130万〜140万円台で推移しているものの、高嶺の花であることに変わりない。
消費者が土用の丑の日に食すウナギはほとんどが養殖物だ。河口で取ったシラスウナギを養殖池に入れ、約200グラムの大きさに育てたニホンウナギが飲食店や小売店などに出荷されている。
この超高級品であるシラスウナギの不透明な取り引きが横行していることはデータから読み取れる。20年漁期(19年11月~20年5月)の総漁獲量は17.1トンだったが、都道府県からの報告ベースは10.8トンにとどまり、差分の6.3トンは密漁されたものである可能性が排除できない。
気軽に密漁
シラスウナギの密漁に安易に手を出し、検挙される事例は後を絶たない。その背後には暴力団の影もちらつく。暴力団の主な資金源は、飲食店から脅し取るみかじめ料や、振り込め詐欺で高齢者からだまし取った金銭など多岐に渡る。しかし、社会が近年、暴力団に向ける視線は厳しく、これらの行為は組長の使用者責任も問われかねない。このため、暴力団組員が安易に密漁に手を染めているとの指摘が少なくないのだ。
「田舎の河口などは警備が手薄で、密漁はやりたい放題。建設業の日雇いより稼げる」。ある政府関係者はこう証言する。密漁が横行していることを受け、政府は2023年から罰金の最高額を3000万円に引き上げることを決めた。これは現在の300倍に当たり、罪としては極めて重い。
取り引き価格の高騰につながりかねないため、密輸も問題視されている。日本が輸入しているシラスウナギのうち、大半が香港産という。しかし、香港では漁は行っていない。違法操業などで漁獲した中台産が香港経由で日本に流通しているというのが実態。
不透明な取引を撲滅するには、トレーサビリティを確立し、流通経路を透明化することが待ったなしの状況。中国は前向きでない資源管理の保護強化も急務となっている。
ナマコ・アワビも密漁横行
密漁の標的になっているのは、何もシラスウナギだけではない。中華料理で重宝されるナマコやアワビ、伊勢エビなども密漁が横行している。これらの水産物も暴力団の資金源になっているとされる。今年3月には、ナマコを密漁したとして、漁業法違反などの疑いで、指定暴力団山口組系幹部らが北海道警に逮捕された。ただ、密漁は巧妙に行われているため、検挙に至る事案はそれほど多くないとみられる。
政府は、暴力団の資金源である密漁の根絶を目指し、ナマコとアワビを対象とした漁獲証明制度を創設すべく、有識者検討会で制度設計をまとめた。20年に公表した案では、「証明」という文言が入っていた。しかし、同年の臨時国会に法案を提出した際には、「証明」という文言が削られていた。
「漁業者の負担にならないよう配慮を」。こうした水産族の声に押され、制度が骨抜きにされたのだ。政府は流通の適正化を進めるとしているが、果たして市場から密漁品が本当に排除されるかどうかは不透明だ。
密漁品が世に出回ることを許していては、まじめに取り組む漁業者や加工業者の経営を圧迫する状況は到底改善できず、水産業の成長産業化の実現は風前の灯火となってしまいそうだ。
(文=編集部)