
東京2020オリンピックに続いてパラリンピックでも熱戦が続いている。新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けて、無観客で競技が行われるなど、多くの制約があるものの、選手たちは一世一代の晴れ舞台に臨んでいる。
そんななか、選手以外にもオリンピック・パラリンピックをアピールの場として盛り上がっている業界がある。それはカメラ業界だ。
これまで、オリンピックやワールドカップなどの世界大会では、キヤノンとニコンがシェアを2分していた。だが、今大会ではソニーが大きな存在感を示している。ある新聞社のカメラマンは、ソニーの躍進ぶりをこう語る。
「この大会は、ソニーのことを触れずにはいられないでしょう。個人的には“1強”に近い感じです。(今年3月に発売された)『α1』は瞳認識でピント合わせをしてくれ、1秒に30枚撮れる高速シャッターなど、フォトグラファーは写真を撮ることより、絵を狙うことに専念できます。いずれキヤノンの技術が追いつくかもしれませんが、逆転までは数年かかるでしょう。今回、キヤノンは発売前の『EOS R3』という製品をデモ機として貸し出していたみたいですが、ソニーの『α1』には追いつけていないという話でした」
カメラメーカーにとってオリンピック・パラリンピックは、もっとも重要なプロモーションの場となっており、世界中のカメラマンに新製品を貸し出してアピールするという。
「オリンピックのメインプレスセンターには、今まではキヤノンとニコンが大きくブースを出していましたが、今回はソニーもブースを出していて、多くの人が集まっていました。海外のフリーカメラマンは手ぶらで来て、借りる人たちが多いです。スポーツカメラマンが使用するのは、ほぼ日本のカメラメーカー製なので、海外のフリーのカメラマンは日本のカメラショップに行きたがります。最新機種は日本でしか手に入りませんから。修理も含め、メーカーはデポ(拠点、仮店舗)を出していますが、新製品を使ってもらうことが使命ともいえるので、熱心にアピールしていて、最新機種をみんな借りています」
メーカーもシェアを意識しているため、カメラマンには積極的に貸し出しをしているという。
「キヤノンとニコン、両方のカメラを借りて使い比べているフォトグラファーもいました。また、あるイタリア人のカメラマンがソニーのカメラ借りて、『撮れない』と騒いでみんなに助けを求め、カメラを確認すると、SDカードが入っていなかったというオチでした。中国人のカメラマンは、キヤノンの発売前のデモ機を現場で見つけると、興味津々で、カメラの写真をたくさん撮っていました」
オリンピックなどの大きなスポーツの大会で新製品を宣伝し、メディアやカメラマンに購入を促すのがメーカーの戦略ともいえるが、そう簡単に買い替えることはできないという。