
「勤務している会社の管理業務が他社に代わることになったため、先日、会社の担当者が解雇通知を持ってきました。整理解雇です。受け取りを拒否したら、しつこくつきまとわれました」
こう話すのは、ビル管理会社に勤務するAさん(50代/仮名)。幸い、加入している労働組合が会社に団体交渉を申し入れてくれたため、当面の解雇は免れたものの、次の勤務先が提示される見込みは立っていないという。
首都圏や近畿などに発令されている緊急事態宣言が、ようやく全面解除の見通しと報じられるなか、Aさんのように、もしもの事態も想定した準備が必要になりつつある人も少なくない。とりわけ、コロナ禍で大きな打撃を受けた飲食・サービス業やイベント業などの業種に従事している人にとっては、先行きの見えない不安と決別するタイミングかもしれない。
そんなときに役立つのが、退職後の生活を支えてくれる雇用保険の知識だ。そこで今回は、退職した際に失業手当が増える、雇用保険の新型コロナウイルス感染症対策に関連した情報を紹介しておこう。
ここへきて、ようやく緊急事態宣言の対象地域で感染者数が減少傾向に転じつつあるものの、新たな変異株の出現や、ワクチン接種者も安全とはいえない“ブレイクスルー感染”、ワクチン接種後の抗体減少など、不安材料が次々とクローズアップされてきている。今後、冬にかけて再度感染者が激増し、第6波、第7波が到来すれば、緊急事態宣言が再度発出されることも想定しなければならないだろう。
そこで検討したいのが、退職のタイミングである。今後、退職するとしたら、緊急事態宣言が出る前がいいのか、それとも出た後がいいのか、さらに宣言期間中の場合は、それが明けるのを待ったほうがいのか――。結論からいえば、宣言が出る前に退職するケースが、もっとも有利である。
失業手当が60日分延長される
下の図を見てほしい。昨年6月に施行された雇用保険臨時特例法によって、新型コロナ感染症に関連して退職した人には、原則60日分の給付を延長(一部30日)してもらえるようになった。この特例の対象になれば、失業手当が日額5900円(平均月給30万円程度)の人ならば、トータル35万4000円も受け取れる計算だ。
もちろん、誰でもこの特例の対象対象になるわけではない。いくつかの要件をクリアしていなければならないのだが、宣言期間中かどうかによっても扱いに大きな差が出てくることに注目したい。
まず、宣言が出る前に退職し、転職活動中に宣言が出てしまった人のパターン。
平時に退職したのに、失業中に緊急事態に突入してしまったのは不運と思いがちだが、意外にも、これがオトクになる。退職後に宣言が出てしまった人は、特になんの条件もなく、誰でも60日プラス給付が延長される特典が得られるのだ。宣言発令時点で、すでに退職していて雇用保険の受給資格がありさえすればOKだ。
それと比べると、やや不利なのが、宣言後に退職したケース。こちらは誰でも特例適用とはいかず、解雇やリストラなど会社都合(特定受給資格者)か、契約更新を拒絶されるなどの限定された退職(特定理由離職者)に限って給付延長の特典が得られる。
つまり、宣言期間中に自己都合で退職したりすると、理由によってはこの特典は受けられないのだ。