鳴り物入りで開始の住宅取得支援策「グリーン住宅ポイント」、消化率たった3%で予算未達の可能性
2019年10月の消費税引上げ、2020年からのコロナ禍で住宅市場が大きな打撃を受けているのに対して、政府は2020年度第三次補正予算によって、2021年3月末から「グリーン住宅ポイント」をスタートさせました。その予算枠は1094億円なのですが、途中経過をみると、とても期限内に予算を消化仕切れないままに終わってしまうのではないかという懸念が強まっています。
1戸当たり最大100万ポイントなどの大型施策
消費税引上げや新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、新設住宅着工戸数が大幅に減少、大きな打撃を受けています。国土交通省調査による近年の新設住宅着工戸数をみると、2018年の約94.2万戸に対して、2019年は約90.5万戸、2020年は約81.5万戸と2年間で約13.5%も減少しています。消費税引上げにコロナ禍が追い打ちをかけた形です。
それに対して、国は各種の住宅取得支援策を実施、景気刺激のために住宅需要を喚起しようとしています。そのひとつが、「グリーン住宅ポイント」制度です。2020年度の第三次補正予算で1094億円の予算を組んで、2021年3月からスタートしました。
1戸当たり最大100万円相当のポイントという大型の給付策であり、対象も新築、中古、リフォーム、賃貸と幅広く設定、住宅需要回復の決め手として鳴り物入りでスタートしました。
スタートから3カ月でも予算消化率は3%弱
しかし、フタを開けてみると、「まったく」といっても過言ではないほど、利用が進んでいません。国土交通省が2021年7月15日に発表した、2021年6月末時点の利用状況をみると、図表1にあるような結果でした。
3月末のスタートから3カ月が経過しているわけですが、累計の発行ポイントは約29億ポイントで、1094億円の予算枠に対して、3%にも満たない消化率です。ポイントの申請期限は2021年10月末ですから、これではとても予算を消化し切れません。
そのため、この数値の下には、「ポイント発行には、申請内容の審査を行うため、一定の期間を要します」と言い訳しているのですが、そんなわずかなタイムラグの問題ではないでしょう。抜本的な対策をとらない限り、とても予算に到達せず、住宅需要を喚起する効果は期待できそうにありません。
業界団体は早くも期限の延長を要望している
大手住宅メーカーを中心とする業界団体である住宅生産団体連合会では、2021年6月10日に、「住宅市場の現状と課題解決に向けた要望」を自民党住宅対策促進議員連盟に提出しています。そのなかで、グリーン住宅ポイントについては、「コロナ禍による景気低迷が回復に向かい、ウッドショックが沈静化して民間住宅投資が円滑に行われるようになるまでの当分の間、グリーン住宅ポイント制度を延長することとし、契約期限や入居・完了報告の期限を速やかに緩和されたい」と要望しています。
せっかく勝ち取った予算ですから、未消化のままに終わらせるのはもったいないですし、期限の延長要望はもっともなのですが、問題はそこではないでしょう。いくら期限を延長しても、現在のピッチではとても民間住宅投資の回復にはつながりません。もっと抜本的な制度の改正が必要なのではないでしょうか。
新築からリフォームまで幅広い対象を設定
このグリーン住宅ポイント制度の対象は、以下の4分野です。
(1)住宅の新築(持家)
(2)既存住宅(中古住宅)の購入(持家)
(3)住宅の新築(賃貸)
(4)住宅のリフォーム(持家・賃貸)
このうち、(1)の持家の新築や購入に関しては、基本ポイントが40万ポイントで、多子世帯、三世代同居などの特例の場合には最大で100万ポイントになります。しかし、いずれも条件がたいへん厳しくなっています。(1)の新築住宅は認定長期優良住宅などが対象ですが、2021年6月末時点で6786戸、約28億ポイントにとどまっています。長期優良住宅の認定件数は年間10万戸前後ですから、それに比べてもまだまだ少ない水準にとどまっています。
中古や賃貸はほとんど利用されていないのが現実
しかし、先の図表1をみれば分かるように、特に(2)の既存住宅(中古住宅)、(4)の賃貸住宅の利用がほとんど進んでいないのです。中古住宅の利用はわずかに29戸で、賃貸に至ってはゼロです。
なぜなのでしょうか――それは、条件が厳しすぎるからにほかなりません。たとえば、中古住宅については、(1)空家バンク登録住宅、(2)東京圏から移住するための住宅、(3)災害リスクが高い区域から移住するための住宅、(4)住宅の除却に伴い購入する既存住宅――となっています。
東京への一極集中を是正するために、地方に住宅を取得する場合や、災害対策、空家対策などの政策課題ばかりが先行して、ユーザーのニーズに対応していないのではないでしょうか。空家バンクというのは、かなりの田舎の、しかも老朽化した住まいが大半ですから、いかにコロナ禍で地方への関心が高まっているといっても、現実的にそうした住まいを求める人は極めて少数派です。
賃貸は全戸40平方m以上など高いハードルが問題に
賃貸については、省エネ性能の高い賃貸住宅であるとともに、全戸の床面積が40平方m以上であることが条件になっています。鉄筋コンクリート造のマンションならまだ省エネ性能の高い住宅は可能でしょうが、それでも全戸が40平方m以上となるとハードルは高くなります。木造の賃貸住宅、いわゆるアパートにとってはかなりの難関といわざるを得ません。そのため、賃貸住宅については、制度スタートから3カ月が経過しても、実績はゼロという状況です。
とはいえ、ジワジワと増えてはいるようです。図表1はポイントの発行実績ですが、その前段階のポイント申請申込み状況をみると、2021年6月末段階で、中古は168戸、賃貸住宅は624戸になっています。新築の2万戸以上、リフォームの1万戸以上に比べるとまだまだ少ないのですが、増えつつあるのです。条件の緩和などの抜本的な対策を行えば、いっきに利用が拡大する可能性があります。
ポイントの利用促進には条件の緩和も必要か
賃貸の場合には、「全戸40平方m以上」が大きな制約条件になっています。もちろんゆとりある住まいを増やしたいという政策の狙いはわかりますが、そのごり押しだけでは賃貸住宅経営者から見放されてしまいます。もう少し柔軟に、40平方m以上の住宅が一定割合あればOKに緩和するとか、性能基準にしても、「高い省エネ性能(賃貸住宅のトップランナー基準)を有する住宅」を、一段階引き下げるといった対応が必要なのではないでしょうか。
もちろん、住宅取得支援策に合わせて、わが国の住宅の性能基準などの底上げを図りたいという政策的な意図はわからないでもありません。しかし、現在の厳しい環境下では、何よりも住宅需要の喚起が先決でしょう。と同時に、住団連が要望しているように、申請期限を延長する、また手続きの簡素なものにして、申請しやすくするといった対応も欠かせません。
もちろん、いったんスタートした制度を途中で変更するのは簡単なことではないでしょう。しかし、コロナ禍にあっては、持続化給付金、住宅ローンの条件変更相談などに自治体、民間企業は柔軟に対応しています。国も、この際、先例にとらわれずに条件を緩和するなどの思い切った対応策をとってみてはどうでしょうか。
(文=山下和之/住宅ジャーナリスト)