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『おかえりモネ』終了で蒔田彩珠の争奪戦が勃発か…圧倒的存在感を放つ演技力

文=上杉純也/フリーライター
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蒔田彩珠(「NHK連続テレビ小説『おかえりモネ』」より)

 いよいよ明日10月29日、朝の連続テレビ小説『おかえりモネ』(NHK総合)が最終回を迎える。ヒロインの「モネ」こと永浦百音役の清原果耶の絶妙な演技が光っていたが、その一方で一気に注目されたのが、妹の「ミーちゃん」こと未知役の蒔田彩珠だろう。

 だが、あまりに突然のブレイクで彼女のことをよく知らないという人も多いのではないだろうか。そこで今回は、最終回を前に改めて蒔田彩珠という女優の経歴や魅力、その凄さを紹介しようと思う。

 蒔田彩珠は2002年8月7日生まれの現在19歳。神奈川県出身で、身長は158センチと小柄な部類に入る。下の名前”あじゅ”と読み、本名である。その由来だが、”彩”の字は母が好きな川の名前から、”珠”は母の名前に真珠の”真”が入っているので、もう片方の珠の字を取って命名された。

 注目のデビューのきっかけは、子役としてテレビCMに出演している兄の存在だった。その姿を見ていて「私もテレビに出たい」と思い、芸能事務所に所属して子役デビューを果たすことになる。実にまだ7歳のときであった。ところが、当時は人見知りが激しく、緊張のあまりオーディションに受からない状況が続いた。そこで現場に慣れるため、大学の自主制作映画に何本か出演し、経験を積んでいったのである。芝居の勉強になったうえ、現場の人たちとコミュニーケーションが取れるようになった点は大きく、段々楽しくなっていったが、あまり”お仕事”という意識はなかったという。

 そんな彼女が本気で女優になりたいと思い始めたきっかけは2012年、10歳の頃に出演した連続ドラマだった。『ゴーイング マイ ホーム』(フジテレビ系)において、主演の阿部寛の娘役を演じたことで意識が変わった。それまでは”楽しいから現場に行く”という感覚だったが、この作品で半年間の撮影を通して自分の役と真剣に向き合う役者たちを間近で見ていた彼女は、「私も自分じゃない役を演じたい。女優になりたい」という気持ちが撮影終了後に芽生えたのである。

是枝裕和監督が演技力を絶賛

 さらに大きかったのは、このドラマの監督を務めた是枝裕和との出会いだった。「非常に柔軟性があって、勘もすごくいい。何も心配していない」と、その演技力を絶賛された。この作品をきっかけに、『海よりもまだ深く』(2016年)、『三度目の殺人』(2017年)、そしてカンヌ国際映画祭で最高賞となるパルム・ドールを受賞した『万引き家族』(2018年)と、たて続けに起用されて是枝映画の常連になる。

 映画での快進撃はこの後も続き、2018年には『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』で、ついに映画初主演を果たす。同作では同年齢の南沙良とのダブル主演となったが、蒔田は”音楽好きなのに音痴”というコンプレックスを抱える女子高生を好演。劇中で披露している「音痴の演技が上手すぎる」と一躍、話題を集めたのである。

 同作ではギター演奏にも挑戦するなど、その演技が評価され、南とともに第43回報知映画賞新人賞と第33回高崎映画祭最優秀新人女優賞を同時受賞した。

 彼女の女優としての高い評価が決定的となったのは2020年公開の準主演映画『朝が来る』での好演だろう。メガホンを執ったのは2007年に『嬪の森』で第60回カンヌ国際映画祭審査員特別大賞のグランプリを受賞し、今年開催された東京オリンピックの公式記録映画を指揮したことでも知られる河瀬直美監督である。世界的名匠である河瀬監督のお眼鏡にかなったことからも、その逸材ぶりがわかろうというものだ。

 本作の序盤でスクリーンに登場したときの彼女はまだ14歳の中学生で、ハツラツとしていた。同級生のバスケットボール部員と付き合い始めたが、親しくなるうちに一線を越えてしまい、妊娠、そして出産したことから歯車が狂い始めていく。

 少女の母親は娘の気持ちをろくに考えず、世間体を気にして出産自体をなかったことにしようとする。こうして生まれた赤ちゃんは、不妊に悩む夫婦の養子となったのだが、子供を授かったことをなかったことにできるはずもなく、心に深い傷を負ってしまう。そして少女は家を出てしまう……。

 この作品で蒔田は、ピュアな14歳の少女が世の中に絶望する20歳までを演じている。年齢も人格も変わる難役だったが、その熱演ぶりはまるでドキュメンタリーのようであった。

 そしてこの演技で彼女は映画賞を総なめにする。第45回報知映画賞助演女優賞を皮切りに、第42回ヨコハマ映画祭助演女優賞、第75回毎日映画コンクール女優助演賞、第44回日本アカデミー賞新人俳優賞、第94回キネマ旬報ベスト・テン助演女優賞、2020年度全国映画賞女優賞、そしてトドメは第15回アジア・フィルム・アワード助演女優賞受賞。その演技力は日本中の映画界の誰もが認めるところとなった。同時に、国境の垣根を超えてまで高く評価されたのである。

テレビドラマやCMでも格別の存在感

 ここまでみると、彼女は完全に”映画畑”の役者のようだが、そんなことはない。確かに代表作が映画に集中しているため、熱心な映画ファンを除いて、今まで”蒔田彩珠”という女優を知らなかった人も多いと思われる。だが、テレビドラマでも話題作に出演している。そのうちの1本が、2013年放送のスペシャルドラマ『ちびまる子ちゃん』(フジテレビ系)である。

 本作でまる子の姉・さきこ役を好演すると、2016年上半期の朝ドラ『とと姉ちゃん』(NHK総合)にヒロイン・小橋常子(高畑充希)の妹・鞠子(相楽樹)の長女・たまき役として、13歳で出演。実は『おかえりモネ』以前に彼女は朝ドラ出演をすでに果たしていたのだ。

 また、2018年には『おかえりモネ』の脚本担当の安達奈緒子が筆を取った『透明なゆりかご』(NHK総合)にゲスト出演。本作でドラマ初主演となった清原果耶と共演を果たしている。この『透明なゆりかご』は、高校の准看護学科に通う青田アオイ役を清原が熱演し、ギャラクシー賞を受賞するなど高い評価を受けた作品だったが、第2話に登場した蒔田も自分の生んだ赤ん坊を捨ててしまう女子高生・中本千絵役を熱演。観るものに強くその印象を残した。

 テレビCMでも、その存在感は抜群だ。2013年にはNTTドコモの『ドコモ田家』シリーズに”ショウガクドコモダケ”で出演したかと思えば、敷島製パン『Pasco超熟』のCMで個性的な少女を好演している。この敷島製パンのCMは好評で、2018年まで続く人気シリーズとなった。さらに、この年には若手俳優の登竜門として知られる大塚製薬『カロリーメイト』のCMキャラクターに起用されるなど、飛躍の1年となった。

 その多彩な演技力は、今回の『おかえりモネ』でも存分に発揮された。本作が描く最大のテーマは、”被災した人とそうでない人の心が通じ合えるのかどうか”。その代表例が清原演じるモネと蒔田演じるミーちゃんの姉妹であることは明白だ。この姉妹は仲が悪いワケではないものの、東日本大震災以来、関係にうっすらと亀裂が生じていた。このとき、モネは震災の直接的被害を免れたが、ミーちゃんは津波を見たうえ、その後、1週間も苦難の日々を過ごしたからである。以下は第20話での姉妹の会話だ。

「また普通に戻れるよ」(モネ)
「戻れるとか、よく簡単に言えるね。お姉ちゃん、津波見てないもんね」(ミーちゃん)

 このシーンでの蒔田の口調、表情、間の取り方、すべて完璧で文句のつけようのない”凄み”があった。決して怒気をはらんだ言い方ではなく、淡々と突き放した感じに背筋が震えたほどだ。とてもこのとき19歳とは思えぬほど、演技が成熟していた。

 ピュアな女性から陰のある女性、そして悪女と演じ分けられる役の幅が広いことも彼女の魅力のひとつだが、本作でも”闇落ち”したシーンがある。それは第76話でのことだ。モネと恋人の医師・菅波光太朗(坂口健太郎)の仲を壊そうとしたのだ。ミーちゃんは自分が好きな漁師の及川亮(永瀬廉)が、モネにしか心を許していないという事実に激しく嫉妬。そこで菅波に対し、こんなセリフを発してしまったのだ。

「あの2人は昔から通じ合ってる」

 普段は表情から佇まい、語り口まで優等生然としているミーちゃんが完全に自分を見失い、取り乱していた。見る側からするとこれ以上ない醜さだったが、そう思わせるぐらい、このシーンでの彼女の演技は光っていた。

 アングルによって印象の変わる個性的な顔立ちながら、透明感があるのも彼女の魅力だ。女優として心掛けていることが、「台本に書いてあることだけでなく、この人物はどういう性格で、どういう過去があるとか、なるべく掘り下げて考えるようにしています」と、まさに努力型のプロフェッショナルである。だからこそ、あの若さにもかかわらず、演技に深みと凄みがあるのだ。

『おかえりモネ』終了後、テレビドラマと映画を中心に蒔田彩珠の争奪戦の幕が開く。いや、もう始まっているに違いない。

上杉純也/フリーライター

上杉純也/フリーライター

出版社、編集プロダクション勤務を経てフリーのライター兼編集者に。ドラマ、女優、アイドル、映画、バラエティ、野球など主にエンタメ系のジャンルを手掛ける。主な著作に『テレビドラマの仕事人たち』(KKベストセラーズ・共著)、『甲子園あるある(春のセンバツ編)』(オークラ出版)、『甲子園決勝 因縁の名勝負20』(トランスワールドジャパン株式会社)などがある。

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