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千葉哲幸「フードサービス最前線」

パフェ2千円でも人気殺到…観音山フルーツパーラー、創業百年の果物農家の挑戦

文=千葉哲幸/フードサービスジャーナリスト
観音山フルーツパーラー
銀座店は、歌舞伎座近くのホテル1階にあり店の存在感をアピールする上で絶好の立地と言える(筆者撮影)

 コロナ禍でありながらよく売れている食べ物は「フルーツ」である。その筆頭は「フルーツサンド」。これらに新規に取り組んだところは、意外にも「居酒屋」が多い。夜の営業が限られ、また酒類が売れないことからこの商品に着眼した。また、シャインマスカットをはじめとしてブドウのバラエティーが広がったこともフルーツ人気を後押ししているようだ。ケーキ販売店のショーケースの品揃えが例年に増して華やかになっている。

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銀座店の店内では本部のある和歌山の果樹園の様子がプロジェクターで映し出されている(筆者撮影)

 このトレンドをさらに盛り上げる店舗が現れた。それは「観音山フルーツパーラー」。10月18日に東京・銀座、11月3日に表参道と相次いでオープンした。店の告知には「これが和歌山の実力!」と書かれている。商品力に絶大な自信があることが伝わる。これらの店を営んでいるのは和歌山県紀の川市の果物農家、農業生産法人有限会社柑香園である(銀座店は直営、表参道店は共同経営)。農家が直に営むフルーツパーラーとなると、さぞやおいしいのではと期待が募る。

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表参道店ではディナー帯にフルーツカクテルを提供するカウンター席が整っている(筆者撮影)

 メニューは旬のフルーツを盛り込んだパフェがメインで、「フルーツパフェ」1980円(税込)、「レモンパフェ」1890円が定番。そして旬のフルーツを単品で構成した季節メニューが圧巻である。今の季節は「いちじくパフェ」2390円、「柿パフェ」2390円を提供している。それぞれ熟したいちじく、柿が1個分使用されていて、まず見た目で驚き、食べてみて体全体が満足する。

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シンプルにまとめた定番メニューの「レモンパフェ」1890円(柑香園提供)
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今の季節メニュー「いちじくパフェ」2390円(柑香園提供)
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今の季節メニュー「柿パフェ」2390円。季節メニューは旬の果物をまるごと楽しむという趣向(柑香園提供)

六代続く果樹農家の奮闘とプライド

 柑香園の本部は和歌山県紀の川市粉河にある。本部は果樹園の真ん中にあり半径1キロ圏には民家が存在しない。広大な果樹園の中で農業生産法人を営んでいる。代表取締役会長の児玉典男氏は「五代目」、代表取締役社長の児玉芳典氏は「六代目」と名刺に記している。

 このようにトップが当代を名乗ることには、果物農家として歩んできたファミリーとして誇りが存在する。初代は吉兵衛氏。払い下げのあった官有地を開墾して、みかん農家を始めた。明治44(1911)年のことである。二代目、長次郎氏は雑木林を開墾して果樹園の拡大に努めた。三代目、正男氏は農業生産者であると同時に商才を発揮した。昭和元(1926)年より個人で出荷を手掛けた。付近の農家からみかんを購入して、国内での販売と並行して北米や朝鮮・満州へと海外での販売を広げた。

 四代目、政藤氏は出征先の満州より帰還。農地解放で所有農地の8分の5を手放すことになる。戦中・戦後のみかん園の荒廃は甚だしく、肥料不足によってその復興は困難であったが、昭和23(1948)年より始められたカナダ向けみかん輸出に参画して、その見返りの肥料を果樹園の回復にあてた。収入は増加したが所得税が重圧となり、それを合理化するために法人を設立、昭和37(1962)年11月に農業生産法人有限会社柑香園に組織替えをした。同時に果樹専業農家となり、農協や任意出荷団体には加入せず、あくまでも生産と直売に徹した。

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果樹園の様子。写真左が5代目の児玉典男会長、右が6代目の児玉芳典社長(柑香園提供)

 そして、五代目の(児玉)典男氏に引き継がれる。典男氏は三重大学農学部農芸化学科を1972年に卒業後、柑香園に入社した。以来50年間農業の現場に携わっている。

 典男氏が就農してから、海外産オレンジが輸入されることによってみかんの需要が低迷した。市場出荷を行っていたが市場価格が下がり始めたことから、スーパーとの直接取引を行うようになった。1990年代の半ば、インターネット黎明期のなかでホームページを作成、個人への直接販売を行うようになった。

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顧客に旬の果物の情報を提供し注文を受けて発送している。顧客データは現在30万件を擁している(筆者撮影)

個人客向け販売がフルーツパーラーの原点

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2018年に竣工した本部の建物。1階が集荷場と本部、2階が「観音山フルーツパーラー本店」となっている。ピーク時には200人、3時間のウェイティングとなる(柑香園提供)

 2018年に現在の本部である新社屋が完成。生産、加工、出荷、販売に加えてフルーツパーラーが一体となった施設となった。この「観音山フルーツパーラー 本店」は同年4月にオープンした。

「観音山」のブランドは西国三十三所巡礼札所に由来する。ここの特徴はすべての寺院が観音様を祀っていること。児玉氏は地元に三番目札所の「粉河寺」あることに常々縁を感じていた。ここの一帯には観音という地名は存在しないが、昔からこれらの山々を通称観音山と称していたことから、柑香園の商品に名付けようと考えた。こうして「観音山」は2003年に商標登録した。

 同社が代々注力してきたことは、個人向け直接販売ということ。そして五代目がインターネットに着眼して個人向け直接販売を全国ネットに広げたことによって、販路が拡大したと同時に、商品を購入した顧客からの声が直接届くようになった。これが果物農家としての生産意欲を高めていった。

「生産者にとって一番うれしいことは、自分がつくったものを消費者がどのような場所で、どのような表情をして食べているのかを見ることができるということ。『おいしかった』と言ってくれると素直に嬉しいし、『あれはもっとこうしたほうがいい』ということであれば、改善するための意欲が増す。それを消費者の状況がわからない流通に頼っていると、消費者の反応が伝わってこないし、価格も業者に決められてしまう」

 さらに、柑香園が個人向け直接販売に傾注していくなかで出来上がっていったことは、商品を1年間絶やすことなく販売するということだ。このために近隣の果物農家と連携するようになった。さまざまな産地とのネットワークが出来上がり、1年間のメニューをつくり上げていった。これが「フルーツパーラー」を運営するというアイデアにつながった、これらのメニューは旬で最もおいしい果物が使用されていて、それによって季節感を十分に味わうことができる。

人気ぶりからFC希望者が続々と登場

「観音山フルーツパーラー 本店」は店内40坪、テラス席10坪で60席の規模。フルーツパフェは1品目2000円前後となっている。連休ともなるとウェイティングが200人で3時間待ちということが珍しくない。自動車のナンバーは沖縄、札幌という遠隔地のものもある。和歌山県の南側に位置するリゾート地の白浜町の周遊観光で利用されている模様だ。

 柑香園の年商は6億円となっているが、そのうちこの本店と関連商品の売上で1億5000万円を占めている。

 個人向け直接販売の売上は増え続けている。現状、顧客情報は30万件を保有していて、商品情報をメールで送信して購入動機につなげている。商品は配送業者が届けるが商品の合計金額が5000円以上の場合は送料半額、1万円以上の場合は無料としている。

 顧客の増加に伴って栽培面積が不足するようになり耕作放棄地約8ヘクタールを借り受け、現在の果樹農園は14ヘクタール(東京ドームの約3倍)となっている。近隣の委託栽培農家は300軒となっている。

 さて、「観音山フルーツパーラー」は本店がオープンしてからその魅力がにわかに広がり、FCを申し出る事業者が現れるようになった。2019年11月、12月と京都店、神戸店がFCとしてオープン、20年6月南紀田辺店(和歌山県、直営)、21年3月河口湖(山梨県、FC)、8月和歌山市店(FC)とオープンが続いた。今年はさらに銀座店(直営)、表参道店(共同経営)がオープンし、来年は尾道店(広島県、FC)と駒沢店(東京都、FC)が控えている。これで11店舗となる。ますます店舗数が広がる勢いだ。

 児玉会長、社長の元には居酒屋からフルーツパーラーに商売を切り替えたいという相談事が増えてきているという。これはコロナ禍による飲食業界の現象である。焼鳥居酒屋を展開する鳥貴族ホールディングスがチキンバーガーショップの展開を始めたり、唐揚げの居酒屋がフライドチキンショップを立ち上げたり、酒類販売を得意としてきたところが非アルコールの世界に着眼してきている。これに関連して冒頭で述べた「フルーツ」のトレンドはこれからしばらく続いていくものと思われる。

(文=千葉哲幸/フードサービスジャーナリスト)

千葉哲幸/フードサービスジャーナリスト

千葉哲幸/フードサービスジャーナリスト

フードサービス業界の経営専門誌である『月刊食堂』(柴田書店)、『飲食店経営』(商業界、当時)とライバル誌両方の編集長を歴任。2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく、最新の動向もリポートする。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社、2017年)。

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