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小林敦志「自動車大激変!」

販売台数日本一のミニバンに…「アルファード」がここまで売れる車になった理由

文=小林敦志/フリー編集記者
トヨタ「アルファード」(「トヨタ自動車WEBサイト」より)
トヨタ「アルファード」(「トヨタ自動車WEBサイト」より)

 トヨタの次期型「ノア」および「ヴォクシー」の情報がメディアで飛び交うようになった。本来ならば年内に発表予定ともされていたが、デビュー予定は2022年1月13日と、若干延びた形となっている。この背景には、世界的なサプライチェーンの混乱があるのではないかと考えられる。

 なお現行モデルでは3兄弟を形成していたが、「エスクァイア」の次期型はラインナップされない。現行ノアとヴォクシーが属するのは“5ナンバーハイト系ミニバン”などとも呼ばれるカテゴリーとなり、最近の日本車では珍しく、日産「セレナ」、ホンダ「ステップワゴン」というガチンコでキャラクターのかぶる他メーカーライバル車が存在し、日本国内では売れ筋クラスといわれている。

 そもそもは、「タウンエース バン」や「ライトエース バン」など、キャブオーバーバンの乗用車版として、「タウンエース ワゴン」「ライトエース ワゴン」、そして日産では「チェリー/サニーキャブ」、そして後継の「チェリー/サニーバネット」などを源とし、その後ミニバンスタイルを採用するノアやヴォクシー、セレナ、そしてステップワゴンも加わり、今日に至っている。

 しかし、次期ノア&ヴォクシーは、現行モデルでも一部3ナンバー仕様があるものの、次期型では全車本格3ナンバーサイズとなるとのことなので、セレナやステップワゴンも今後フルモデルチェンジを経て、それに追随するのかどうかも注目に値するところ。

 しかし、近年では、このカテゴリーは今ひとつ元気がない。グラフ1はヴォクシー、セレナ、ステップワゴン、そして、参考としてトヨタ「アルファード」の暦年(1月から12月)締め別の年間販売台数の推移を表したものであるが、アルファード以外はなだらかな下降線を描いているのがわかる。

トヨタ系ミニバン4車暦年締め販売台数推移
グラフ1

 そもそもコロナ禍前より、新車販売の世界では、世界的にもサイズの小さいモデルや小排気量エンジンを搭載するモデルへの“ダウンサイズニーズ”というものが顕著となっていた。そのなかで、ノア&ヴォクシーの属するクラスは一世代前のモデルでは2Lエンジンの搭載がメインとなり、実用燃費も7~8km/Lとなっており、「排気量が大きく、燃費も良くない」と敬遠する傾向が目立ちつつあった。

アルファードが日本一売れるミニバンに

 現行モデルでは、ノア&ヴォクシーはTHS(トヨタ ハイブリッド システム)、セレナはe-POWER、ステップワゴンは1.5Lターボやe:HEVをラインナップするようになり、ガソリンエンジン搭載車(セレナはスマートシンプルHEV)であっても、カタログ数値(WLTC値)では13㎞/L台までに改善しており、おおむねカタログ数値の燃費が実用燃費でも達成されているようである。

 ただ、ステップワゴンでは、排気量を1.5Lに小さくしたこともあり、ターボエンジンとすると、一部女性配偶者などから「ターボを搭載している」と大昔のスポーツモデルに搭載していたターボエンジンのイメージを持たれてしまい、販売面ではダウンサイズユニット搭載という効果を十分発揮できていないといった話も聞いている。

 このカテゴリーのミニバンユーザーのメインは現役子育て世代となるので、子どもがある程度成長すれば、このカテゴリーから離れるユーザーも目立ってくるが、逆に子どもができたからといって、このカテゴリーのクルマを選ぶユーザーが昔ほど多くないのではないかとも考えられる。

 新たにこのカテゴリーを選ばなかった場合は、軽自動車のハイト系ワゴン、トヨタ「シエンタ」やホンダ「フリード」といったコンパクトミニバン、トヨタ「ルーミー」やスズキ「ソリオ」といったコンパクトMPV(多目的車)、そして、最近では大型ラグジュアリーミニバンとなるアルファードへ流れているといえよう。

 グラフ2はアルファード、ヴェルファイア、ヴォクシー、ノアの暦年締め別年間販売台数の推移を表したものだが、ヴェルファイア、ヴォクシー、ノアが横ばいからやや下降を描いているのに対し、アルファードだけ右肩上がりになっているのがわかる。

人気ミニバン販売台数推移
グラフ2

 自販連(日本自動車販売協会連合会)統計によると、2020事業年度(2020年4月から2021年3月)締めでの年間販売台数では、アルファードは10万6579台を販売している。ヴォクシーより約3万台多く、トヨタだけでなく、ミニバンとしては日本一売れたモデルとなっている。2.5L直4ベースのHEVがあるものの、2.5L直4そして3.5LV6までラインナップする大型ラグジュアリーミニバンが、コロナ禍にありながらも、日本一売れているミニバンとなったのである。ダウンサイズニーズとは真逆の消費行動がコロナ禍で目立ったのである。

アルファードがここまで売れる理由

 アルファードがなぜここまで売れるようになったのかを、おさらいしておこう。現行アルファードはもともと人気が高く、納車待ち半年という日々が続いていた。そのなか、販売現場で聞いたところでは、コロナ禍直前に生産ラインの増強が行われたことにより、納期遅延が一気に解消されることとなった。そして、コロナ禍となったばかりの2020年5月にトヨタ系ディーラー全店でトヨタ全車の併売がスタートし、アルファードも全店併売となった。

 1回目の緊急事態宣言の解除直後となる2020年6月からは、兄弟車のヴェルファイアがあるにも関わらず、販売現場ではアルファード一本に的を絞ったかのような販売体制となり、新車販売の急速な回復の波にも乗って、まさに爆発的に売れるようになったのである。

 納車半年待ちが2~3カ月で納車可能となっただけではなく、販売現場には一時ディーラー在庫車まで登場するほど需給体制が極めて良好なものとなったことで、売りやすくなったことは間違いない。

 さらに、圧倒的なリセールバリューの高さがある。残価設定ローンを組むと、残価率は36回払いで60%近くに、60回払いでも40%近いものとなり、もともと全般的にリセールバリューの良いトヨタ車のなかでも高い水準を誇っていた。ただし、近年の設定残価率は控え目、つまり“安全マージン(確実に保証できる残価率)”を意識したものとなっているので、アルファードは残価率以上の高いリセールバリューを維持するとされている。

 さらに、値引き額もかなり拡大しており、複数のトヨタ系ディーラーで聞くと、サプライチェーンの混乱が起こる前は、50万円引きからスタートし、70万円引きもそう珍しくはなかったとのこと。サプライチェーンの混乱で、アルファードでも納車待ちは現状で半年ほど覚悟しなければならないのだが、それでも50万円引きぐらいはそう珍しくなく提示されるとの話もある。

 リセールバリューの良さと破格ともいえる値引き額が提示される結果、残価設定ローンを組むと、月々の支払い額がヴォクシーのそれに数千円ほど上乗せするだけでアルファード(特別仕様車や売れ筋グレード)が買えることとなり、当初ヴォクシー本命で商談を進めていたお客のかなりの数がアルファードに流れているのが現状となっている。

 アルファードは海外でも日本から輸出される中古車が大人気となっており、コロナ禍直前で海外への中古車輸出が盛んだった頃は、高年式のアルファードならば、下取り査定をすると新車時のメーカー希望小売価格を超えた査定額が算出されたこともあったそうだ。

 表現はあまり良くないが、納車後半年や1年でアルファードを“転がす”ユーザーが多数出現する事態にまで発展している。パールホワイトまたは黒系ボディカラーで、廉価グレードとエグゼクティブラウンジ(中古車では意外なほど人気がない)に手を出さなければ、ある意味資産価値の高い“財産”を所有していることにもなるのである。まるで、メルセデスベンツやポルシェなど高級輸入車に見られる購買感覚と同じようにアルファードを購入する人が、ここのところ特に目立っているようである。

 また、ノア&ヴォクシーのリセールバリューもかなり高いものとなっているのだが、それについては次回に詳述したい。

(文=小林敦志/フリー編集記者)

小林敦志/フリー編集記者

小林敦志/フリー編集記者

1967年北海道生まれ。新車ディーラーのセールスマンを社会人スタートとし、その後新車購入情報誌編集長などを経て2011年よりフリーとなる。

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