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永濱利廣「“バイアスを排除した”経済の見方」

日本、先進国のなかでワクチンブースター接種の遅れ突出…日本だけ景気回復遅れる

文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト
新型コロナウイルスのワクチンブースター接種が遅れる日本
「gettyimages」より

はじめに

 年明け以降、米国の景気指標は減速傾向が強まっている。代表的な指標の一つであるマークイットPMIは、2021年12月の57.0から22年1月には50.8まで低下し、米国の景気は明確に減速基調をたどっている。ただ、米国では希望者への新型コロナウイルスのワクチンブースター接種が進み、集団免疫獲得の期待の高まりを背景に、米国の景況感回復がぎりぎり踏みとどまっていることが推察される。

 一方の欧州では、オミクロン株の新規感染者数が急増したが、ワクチンのブースター接種が加速していること等を追い風に、ユーロ圏のPMIが改善を維持している。

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関係が深いワクチンブースター接種率と1月の景況感

 対照的なのは日本だ。オミクロン株の感染拡大に伴う消費者のリスク回避姿勢継続からサービス業の悪化が続いた結果、日本の総合PMIは主要国で唯一分岐点の50を下回っている。

 日本の総合PMIは21年10月に拡大・縮小の分岐点となる50を上回り、12月まで拡大を維持していたものの、1月は再び50を大きく下回っている。これは、日本の脆弱な医療提供体制に伴うまん延防止措置が全国で頻発しているだけでなく、国内で新型コロナウィルスワクチンのブースター接種が欧米に比べて遅れていることもある。つまり、主要先進国で日本だけがワクチン接種の遅れに苦しめられる構図となっている。

 GDP(国内総生産)や鉱工業生産指数などの経済統計の先行指標として注目されるPMIとワクチン接種率の連動性の高まりは、定量的にも示される。こうした構図を考える一つのよりどころは、単回帰分析である。これは2つのデータの関係性の強さを表す指標を計算し、数式化する分析手法である。そして、単回帰分析によれば、相関係数を二乗した決定係数が、回帰分析によって求められた目的変数の予測値と実際の目的変数の値がどの程度一致しているかを表している指標とされる。

 そこで、人口当たりブースター接種率を説明変数、総合PMIの水準を被説明変数として単回帰分析を実施した。これによると、少なくともG7諸国のうち現時点で1月分の総合PMIデータが公表済みの主要先進5カ国では統計的に優位な正の相関関係があり、ブースター接種率と景況指数に関係があることが指摘できる。つまり、ワクチンのブースター接種率が世界経済の格差を広げていることが示唆される。

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日本のブースター接種率は英国の20分の1

 特に筆者が、日本の総合PMIが諸外国に比べて劣後してきた理由は、脆弱な医療提供体制とみている。すなわち、人口当たり病床数などは世界トップレベルにあるが、いざコロナショックのような有事になると、当局がコントロールしやすい公営病院の割合が低いこと等から、諸外国より少ない感染者数でも医療がひっ迫してしまう。また、日本人の良い意味でも悪い意味でも慎重な国民性も影響していよう。

 このように、有事における医療提供体制の構築が遅れ、慎重な国民性の日本経済を正常化に近づけるには、諸外国以上に接種希望者に対するブースター接種の必要性が高まろう。しかし、人口当たりのブースター接種率の国際比較をすると、日本の接種率が圧倒的に低いことがわかる。医療提供体制の差がある一方で、ブースター接種率が圧倒的に遅いとなると、日本経済の回復が諸外国に比べて大幅的に遅れる可能性が高い。

 一方で、ブースター接種が進んでいる欧米諸国では、経済政策が出口に向かいつつある。そうなると、日本でも経済政策を出口に向かわせる議論が高まり、欧米経済と違って経済の正常化からほど遠いにもかかわらず、経済政策が出口の方向に向かうリスクがある。そして実際にそのリスクが顕在化すれば、日本経済は正常化に向かうチャンスを失うことになる。

 日本は他国と異なり、コロナショック前から景気後退下の消費増税等により、経済は正常化していなかった。これまでも日本は、バブル崩壊以降に経済が少し好転すると、経済が完全雇用に達成する前に金融・財政政策を引き締めてしまい、こうしたことが失われた30年の主因と筆者は考えている。

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日本と海外のK字型回復継続

 一般的にコロナショック後の景気回復局面でよく指摘されてきたのが、K字型回復だ。K字型回復とは、 人の移動や接触を伴う宿泊・飲食や運輸等のいわゆるサービス関連産業の回復が遅れる一方で、逆に人の移動や接触が減ることの恩恵を受ける情報・通信等に関連する産業は大きく回復するため、回復がK字のように二極化することを示す。

 しかし、ワクチンのブースター接種が進んでいる国や集団免疫が獲得されている国では、サービス関連産業も回復している。これに対し、これまでもワクチン接種が遅れてきた日本では、まだ人口の2.7%程度しかブースター接種が進んでいない。そのため、他国はすでにK字型回復を脱しているが、このままでは日本は当面K字型回復から脱却できないだろう。このため、世界経済はブースター接種が進んでいる多くの先進国が正常化に近づく一方で、ブースター接種が遅れる日本経済の回復が遅れるK字型回復が当面続くことが推察される。

 以上より、コロナショックは移動や接触需要を急激にシュリンクさせたことで業種や産業間でK字型回復をもたらしたが、今後もブースター接種率や集団免疫獲得率の格差により、国間でのK字型回復が当面続こう。そして、特に日本の現状を考えると、先進国の中で数少ないブースター接種が遅れる国であることから、他の先進国に比べて経済の正常化が大幅に遅れ、デフレ克服がより困難になるだろう。

(文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト)

永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト

永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト

1995年早稲田大学理工学部工業経営学科卒。2005年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。1995年第一生命保険入社。98年日本経済研究センター出向。2000年4月第一生命経済研究所経済調査部。16年4月より現職。総務省消費統計研究会委員、景気循環学会理事、跡見学園女子大学非常勤講師、国際公認投資アナリスト(CIIA)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、あしぎん総合研究所客員研究員、あしかが輝き大使、佐野ふるさと特使、NPO法人ふるさとテレビ顧問。
第一生命経済研究所の公式サイトより

Twitter:@zubizac

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