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「山口組組員」だった異色の司法書士・甲村柳市氏に聞く「最近の刑務所事情」

元受刑者しか知らない刑務所での生活…入った瞬間から人権剥奪、続くコロナ大感染

構成=編集部
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東亜国際合同法務事務所代表の甲村柳市氏
東亜国際合同法務事務所代表の甲村柳市氏

 現在、岡山市内で東亜国際合同法務事務所の代表として司法書士や行政書士の業務に携わる甲村柳市氏は、1972年生まれの49歳。現在のやわらかな物腰からは想像がつかないが、なんとかつては山口組傘下組織の構成員で、服役の経験もあるという。

 異色の経歴を生かして活躍する甲村氏に、最近の刑務所が抱える問題について聞く。

20世紀の日本とは思えなかった光景

――甲村先生は、刑務所の収容経験もおありだそうですね。最近の刑務所の不祥事についてお聞きしたいと思います。

 まず、2月22日付けで、岡山弁護士会が岡山刑務所と管轄する広島矯正管区に対して「受刑者への不当懲罰は裁量権濫用」として是正勧告を求めたことが報道されました。報道によると、岡山刑務所で「差し入れられた書籍が汚れている」と訴えた受刑者に対して、刑務所側が「粗暴な言動」と判断し、独房で10日間の「閉居罰」を科しています。「不当な懲罰」とする弁護側に対して、刑務所側は「懲罰が不当とは考えていない」、管区側は「対応に問題はなかった」としています。弁護士会側と施設側で言い分が正反対です。

 この件は、どのように見られていますか?

甲村柳市氏(以下、甲村) 詳細はわかりませんが、私の経験から言うと、岡山刑務所側に問題があると言わざるを得ないでしょう。私が収監されていた30年近く前と変わっていないようです。

 私は少年刑務所への移送が決まるまで、岡山刑務所内の拘置施設に3カ月ほど収監されましたが、真冬でも戸外で洗濯をさせられていました。今は各施設に洗濯工場がありますが、当時は自分のものは自分で洗っていました。被収容者の中には、しもやけやあかぎれで両手のひらから血を流している者もいましたが、それでも自分で洗わなくてはなりません。当時は特に問題にならなかったのですが、とても20世紀の日本とは思えませんでしたね。

 私は少年院を含めていくつかの刑事収容施設を経験していますが、岡山刑務所は食事も最悪でした。

――それは、なぜなのでしょうか?

甲村 おそらく、岡山刑務所の被収容者が他の施設の事情を知らないからではないかと思います。岡山刑務所は、初犯で犯罪傾向が進んでいない(A指標)者で殺人など重い罪(L指標)の者が収容される「LA級」の施設です。初犯で他を知らない者がほとんどなので、ムショのメシがいくらまずくても、「こんなものか」と思って文句を言わないのではないでしょうか。

 もちろん、食事だけではありません。ちょっと刑務官に話しかけただけでも懲罰にするようなことも日常茶飯事でした。21世紀も同じとは、OBとしては呆れるというか、驚くしかありません。

「ビジネスホテル並み」の新設個室も

――岡山刑務所に限らず、刑務所をめぐるさまざまな問題が報じられています。国内の多くの刑務所で新型コロナウイルスの集団感染が起こっていますね。

甲村 そうですね。刑務所のような「密」になりやすい施設は、どうしても感染が広がってしまいます。まず雑居房ではソーシャルディスタンスは望めません。最近では新設された旭川刑務所や民間企業の資金を導入したPFI(Private Finance Initiative)方式の刑務所などは雑居房ではなく個室ですが、まだ5人以上が一緒に収容されている施設の方が多いです。

――新築された施設は「ビジネスホテル並み」といわれているようですが、まだ少ないのですね。

甲村 そうですね。私の若い頃とは隔世の感がありますが、個室はまだ多くはないようです。話はそれますが、「ビジネスホテル並み」といった報道が出るから、ムショに入りたくてわざと事件を起こす者がいるのかもしれませんね。でも、やめた方がいいです。確実に後悔しますよ。

 コロナの問題で言うと、もともと医者が少ないので、シャバ以上に診察は期待できません。コロナに感染したら高熱に何日もうなされ、死ぬことも覚悟しなくてはならないでしょう。

 というか、まず施設に足を踏み入れた瞬間から人権を剝奪されます。所持品の検査で全裸にされ、食事や入浴など生きるために必要なことが極端に制限されます。被収容者同士のいじめもありますし、刑務官の嫌がらせもあります。これでもかと屈辱を受けますから、更生はまず無理ですね。

 また、最近はようやく許可されているようですが、「被収容者の顔が確認しにくくなる」という理由でマスク着用も認められていませんでした。

――広くはない舎房内で、それは危険ですね。でも受刑者は外出できませんから、感染もしにくいのではないですか?

甲村 確かに懲役(=受刑者)は外出しませんが、刑務官たちは施設外の官舎から通勤してきますし、大半は家族と同居しています。また、食材や日用品の納入業者や郵便配達、差し入れ関係の宅配業者は常に施設に出入りしていますから、当然刑務官にも接触しており、そこから感染しているのだと思います。しかも、消毒薬は禁止されているようです。アルコールが入っているものは懲役が飲む可能性があるからです。

――消毒薬などを飲む人がいるのでしょうか?

甲村 はい。ムショではいくらお金を持っていても酒は飲めませんから、「アルコールは消毒用でもいいから飲みたい」と思う者がいることを想定しているのです。もちろん、厨房にも調理用の酒はありません。

 昨年3月には、大阪刑務所の懲役が「衛生面に問題がある」としてアルコール消毒液の設置などを求めて人身保護請求をしましたが、大阪地裁堺支部は十分な感染防止策が取られているとして請求を棄却しています。入浴は毎日できないし、衛生面の劣悪さから、今後もコロナなどの集団感染は増えると思いますよ。

飲酒運転、児童買春…多い刑務官の不祥事

――なぜ刑務所では医師が不足しているのでしょうか?

甲村 法務省では、EXILEのATSUSHIなどを起用して刑務所の医師を募集していますが、エリートである医師がわざわざゴロツキばかりの刑務所に行くでしょうか? ものすごく高邁な精神の持ち主か、不祥事を起こして刑務所くらいしか働く場所がないのか、どちらかでしょう。どちらが多いと思いますか?

――なるほど。一方では刑務官の不祥事も多いですね。

甲村 そうですね。最近では、宮崎刑務所の看守部長が飲酒運転で検挙され、停職3カ月の懲戒処分を受けていることが報道されていますし、児童買春なども相変わらずです。懲役に示しがつかない、とはこのことですね。

 また、私の「古巣」である佐賀少年刑務所も、昔から何かというと鉄拳制裁でしたが、2021年12月には刑務官が同僚に暴行を加えて10日間のけがを負わせ、罰金10万円の略式命令を受けたことが報道されています。受刑者ではなく同僚も殴るのは最近の傾向のような気がしますが、今まで発覚しなかっただけかもしれません。

 刑務官がこんなことでは、更生などできるわけはありません。ましてや、わざわざ事件を起こしてまで刑務所に行っても、何もいいことはないですよ。

(構成=編集部)

【プロフィール】甲村柳市(こうむら・りゅういち)
1972年岡山・美星町生まれ。ごく普通の子どもだったが、中学校に入った頃から不良に憧れて町でケンカも繰り返すように。少年院収容も経験。20代前半にスナックで“スカウト”されて五代目山口組の三次団体の組員に。恐喝未遂や公務執行妨害罪などでの服役を経て2018年11月、7回目の受験で合格。現在は、生まれ育った岡山市内で東亜国際合同法務事務所の代表をつとめ、不動産や商業登記のほか、遺言・相続、成年後見、入国・国際業務、債権整理、風俗業や建設業の許認可申請など司法書士・行政書士の業務をすべてこなしている。https://touakokusai.com/

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