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上司「それなら死んじまえ」ディズニーランド側が敗訴、キャストへの非情な言動が露呈

協力=山岸純弁護士/山岸純法律事務所代表
上司「それなら死んじまえ」ディズニーランド側が敗訴、キャストへの非情な言動が露呈の画像1
東京ディズニーリゾート(「Wikipedia」より/一部加工済)

 東京ディズニーランドで着ぐるみを着用してショーに出演していた女性契約社員のキャストが、安全配慮義務違反とパワーハラスメントがあったとして、運営会社のオリエンタルランドに損害賠償を求めた訴訟。29日に千葉地裁は原告の一部主張を認め88万円の支払いを命じ、会社側が敗訴したかたちとなったが、原告がショー出演中に客に指を曲げられ負傷して労災申請しようとしたところ、上司から「そのくらい我慢しなきゃ」「君は心が弱い」などと言われ、うつ病を発症していたことや、職場で「30歳以上のババァはいらねーんだよ。辞めちまえ」などの言葉が飛び交っていることなどが判明。

 このほか、上司から「病気なのか、それなら死んじまえ」などと言われたり、裁判直前にオリエンタルランドが原告に対し「あなた方は従業員である以上、会社のプライバシー保護、秘密事項や会社の業務等をする必要がある」という主旨の通知書を送付していたこともわかり、物議を醸している。

 オリエンタルランドは本件訴訟に際し、「労災が認められたということは認めるが、認定されたからといって安全配慮義務違反があるということではない」との姿勢を堅持。裁判の過程においては「(原告は)うつ病なのに笑顔で写真に写っていた。(同社関連施設で)外食できている」「長年にわたり守ってきた夢を(原告が)壊したのが悲しい」と主張したり、同社側が証人尋問で「(原告は)仕事中に過呼吸を発症していると主張するのに、実際は倒れていないじゃないか」と述べるなど、一貫して原告の主張を認めなかった。

 これに対し原告は判決後の29日の記者会見で、

「ディズニー(リゾート)には、うつ病の人は来てはいけないというような会社の主張にすごく悲しみを覚えます」

「キャラクター出演者の労働環境は本当に過酷です。熱中症などになって倒れそうになっても、ゲスト(=客)の夢を壊したくないと必死で我慢をしながら出演しています。そんな気持ちも踏みにじられたと感じました」

と語った。

 ちなみに今回判決が出された原告の同僚である別のショー出演者もオリエンタルランドを訴え裁判が続いているが、2017年に労災が認定され職場復帰した際、他のスタッフらから「どのツラ下げて来てんのか、見に行ってやろうぜ」「(会社に)謝るんだよ」などと言われパワハラを受けたとも主張している。

「パワハラ」と「職場環境配慮義務」の定義とは?

 千葉地裁は判決で、同社が職場環境の改善を怠ったと判断した一方、パワハラについては認めなかったが、山岸純法律事務所代表の山岸純弁護士は次のように解説する。

<「判決文」は、一文が長く、回りくどい表現を使い、二重否定などを使ったりするので、正直なところ一般の人には読みにくいところがあります。また、弁護士としては、実際に判決文を見ずに裁判所の判断(判決)を評論するのはおこがましいのですが、ネットで報じられている限りでコメントします。

 実は、世の中では、すぐに「パワハラ」という“横文字マジックワード”を使いたがりますが、実は「パワーハラスメント」とは、(1)上司などがその優越的な地位を悪用して、(2)業務上、必要ない言動をして、(3)その結果、肉体的・精神的な苦痛が与えられ職場環境に悪影響が発生した場合を言います。

 今回の裁判では、報道を見る限り、「我慢できない君の心が弱い」「演じたくないとされたキャラクターでの出演を強要した」などをパワーハラスメントとして主張していたようです。これに対し裁判所は、おそらく、優越的な地位の悪用ではない、業務上必要ない言動ではない、と判断した上でパワーハラスメントではないとされたのではないでしょうか。

 もっとも、具体的なパワーハラスメントがなかったとしても、会社はその従業員に対し、「職場環境配慮義務」、要するに「働きやすい職場環境を整える義務」があるとされています。

 今回、このキャストに対し、上司以外の同僚などからの軋轢(あつれき)やいじめに近いものがあったと報道されているので、オリエンタルランドは、こういった職場の人間関係などをしっかり調整しなかったり、仕事内容を調整したりしなかった点をもって「職場環境配慮義務(報道では「安全配慮義務」)違反」と認定されたのでしょう。まぁ、至極、適切な判断だと思います。

 オリエンタルランドのテーマパークに関しては、素敵な話、心あたたまる話、ちょっといい話、などが先行していますが、それはあくまで「テーマパークに来るお客さん宛ての話」、いわゆる“表向きの話”であって、内部的には、キャストと呼ばれる従業員間の職場環境の配慮ができていないから、こういった事件が相次いでいるのでしょう。

 裁判の直前に、通知書を送付するなど、その“上から目線”の企業姿勢も含め、今回、裁判所によって「御社は従業員が働きやすい職場環境の整備をおろそかにしている」と認定されたことも肝に銘じ、猛省すべきです>

 当サイトは14年8月19日付記事『ディズニーR、驚愕のキャスト使い捨ての実態 バイトに責任押し付け酷使、心身病む人続出』で、東京ディズニーリゾートで働くキャストたちが置かれた労働環境について報じていたが、今回、改めて再掲載する。

※以下、肩書・時間表記・年齢・数字等は掲載当時のまま

―――以下、再掲載―――

 実は、東京ディズニーリゾートに多くの人が押し寄せるのは、夏の終わりから秋にかけてだ。比較的すごしやすくなった気温に、ハロウィンなどの集客イベントも目白押しだからだ。しかし、キャスト(従業員)にとっては、この季節こそが「病んでしまう人が多い」魔の季節。これからが要注意の季節なのだ。

「まず、まだまだ暑いというそもそもの悪条件の上に、与えられた仕事にはNOとは言えないオリエンタルランドの職場風土があります。7月からフル稼働のために、夏の疲れが出ていても無理をしても仕事をしなくてはいけない。そのために、身体を壊し精神を病む人が出てくるのです」と語るのは、オリエンタルランド・ユニオン。現在、東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドの労働環境をめぐり、今年3~4月に解雇されたキャストが、オリエンタルランド・ユニオンを結成し、労働環境の改善を要望している。

「オリエンタルランドでは、キャストの9割が正社員ではなくアルバイトなどの臨時雇用者です。それにもかかわらずオペレーションがうまくいっているのは、キャストたちが教え合う素晴らしいシステムがあるからだ、というのですが、どうにも違和感がぬぐえません。現実には臨時雇用者の使い捨てで成り立っているシステム。多くのキャストが『もうディズニーリゾートとはかかわりたくない』といいながら辞めているのが現実です」(オリエンタルランド・ユニオン。以下同)

 2012年9月、『9割がバイトでも最高のスタッフに育つディズニーの教え方』(福島文二郎/中経出版)が発売されると、ディズニーのバイト教育にスポットを当てたビジネス書が注目を集め、シリーズ90万部を突破した。いわく、「オリエンタルランドの正社員数は約2000人だが、対してバイトの人数は約1万8000人。しかも、バイトは1年間で半分の約9000人が退職する」「1年に3回くらい3000人近くのアルバイトを採用しなくてはならないが、推定で5万人以上の応募者が集まる」「ディズニーではバイトがバイトを指導する、現場の責任者に代わって、バイトたちに仕事の手順やスキルを教えるトレーナーと呼ばれるキャストも主にバイトから採用」し、「“すべてのゲストにハピネスを提供する”というディズニーの“ミッション”を浸透させるべく、朝礼・終礼はもちろん、口癖のように正しいミッションを繰り返させる」などの従業員教育が成功の秘訣だというのだ。

 ただし、これらは、ディズニーという“夢の国”だからこそ成し得てしまう魔法の教育ではないかという疑問が、読者の間には当然のようにわいてきた。

キャストに責任転嫁する3つの“魔法の言葉”

 実は、こうしたビジネス書には書かれていないが、ディズニーリゾートの現場では、システムをうまく機能させるための3つの“魔法の言葉”があるという。その3つとは「体調管理もあなたの仕事」「あなたのレベルが低いから」「あなたの根性が足りない」。夢の国とは縁のなさそうな“魔法の言葉”だが、いったいどういう意味なのだろうか?

 ユニオンが、こう解説する。

「パレードを例にとってみましょう。前提として知っていただきたいのは、パレードの多くも臨時雇用者で成り立っているということです。まず、その日、キャラクターの中に入ることが割り当てられたキャストであれば、キャラクターの着ぐるみは猛暑対策用に改良されていないために、自分で瞬間冷却材を用意するなどしなくてはなりません。ただ、キャラクターの中に瞬間冷却材を用意しても、パレードが始まる前の段階で、その効果はなくなってしまい、余計に重たくなります。その結果、熱中症になっても、オリエンタルランドの社員からかけられる言葉は『体調管理もあなたの仕事』というわけです」

 本来であれば、従業員厚生を促すような「体調管理もあなたの仕事」というフレーズも、オリエンタルランドでは責任転嫁の言い訳に使われているようだ。

「また、パレードなどのエンターテインメント系も、あらかじめのトレーニングはわずかしかなく、実践で覚えろというのが基本スタイルです。このために、本番でミスをしたり、ケガをした場合には『あなたのレベルが低いから』と罵られるのです。同様に、病気になった場合には『あなたの根性が足りない』といった言葉が投げかけられます。こうした職場では『なんでも悪いのは自分』という雰囲気が醸成され、その結果、精神的に追い込まれて『NO』が言えない雰囲気になっていくのです。かといって、よりレベルを上げるために練習をしようと施設でトレーニングをしていると、『仕事と関係ないことをするな』と注意を受けます。もちろん、個人的なトレーニングの時間は時給に入りません。しかし、施設でケガをされても困るというわけです」

 最も深刻な状況なのがダンサーだという。学校の教育現場でもダンスは必修化され、ディズニーリゾートも「エンターテイナー オーディション」という大々的なオーディションを行い、ダンサーには力を入れているはずだが……。

「ダンサーは特別なオーディションを受けなければならず、数カ月にわたり拘束されます。そのうえ、いざ合格しても、舞台に立てるまでには何回もレッスンを受け、仕事は1日3~4時間の時給労働(パレードのみ)なので、稼げても月に数万円で、生活が安定しないのです。また、アルバイトと同様の扱いで、出演予定の当日になって仕事がなくなることもあります。生活面の不安から他の仕事と掛け持ちするようになり、ダンスの練習にかける時間がどんどん減っていき、皮肉なことに本当に“(ダンスの)レベルが低い”とゲスト(客)から指摘されてしまうのです。それで転職しようにも、合格した時点ではダンサーの卵にすぎず、パレード用の最小限のダンスしか習得する機会を与えられていないので、なかなかつぶしが利きません。履歴書には『ディズニーリゾートで働いていた』と書くことは認められておらず、転職の際に自己アピールもしにくいのです」

「体調管理もあなたの仕事」「あなたのレベルが低いから」「あなたの根性が足りない」という3つの“魔法の言葉”とは、責任転嫁するための、まさにブラック企業のロジックではないか。

 こうした話を聞くと、感動とは別の意味で、パレードは涙なしに見られなくなる!?

キャスト同士による“落とし合い”

 さらに、オリエンタルランド側は、キャストの意欲を高める活動として“褒める”活動があると宣伝することが多い。持ち場や上下関係にかかわらず、キャスト同士が互いに褒めるカードを送り合うというシステムで参加意欲を高めようというのだが、そのウラではストレスのはけ口としての陰湿な“落とし合い”がある。

「あるキャストが気に食わないと、別のキャストが正社員にクレームをつけた場合、名指しされたキャストは、ベテランのユニバーシティリーダー(インストラクター)クラスでさえも簡単に降格やクビにされます。ちょっとしたトラブルがあるだけで、正社員は問題解決と称して、安易にクビを切ろうとするのです。ですからキャスト間の関係は常にピリピリしています。しかも、数年前にディズニーの人材教育礼賛本が続々と出版された頃から、ゲストからのクレームも激しくなっています。ゲストから名指しのクレームを受けると、問答無用で降格やクビになってしまいます。ゲストのみなさんにも知っていただきたいのですが、問題の本質はキャストの対応ではなく、オリエンタルランドのキャストを使い捨てにするシステムなのです」

 筆者は、学生の夏休み期間中で大いに賑わっているディズニーランドに行ってみた。数年前には目立たなかった乱立するポップコーンのワゴンに長い列をつくるゲストたち、応対するキャストたちは力のない笑顔。キャストの微笑みのなかに翳りが垣間見えるのは、猛暑の疲れのせいだけではなさそうだ。パレードでのミッキーの「ハピネスはここにあるよ」というセリフがむなしく響くばかりだ。

(文=松井克明/CFP)

上司「それなら死んじまえ」ディズニーランド側が敗訴、キャストへの非情な言動が露呈の画像2山岸純/山岸純法律事務所・弁護士

時事ネタや芸能ニュースを、法律という観点からわかりやすく解説することを目指し、日々研鑽を重ね、各種メディアで活躍している。芸能などのニュースに関して、テレビやラジオなど各種メディアに多数出演。また、企業向け労務問題、民泊ビジネス、PTA関連問題など、注目度の高いセミナーにて講師を務める。労務関連の書籍では、寄せられる質問に対する回答・解説を定期的に行っている。現在、神谷町にオフィスを構え、企業法務、交通事故問題、離婚、相続、刑事弁護など幅広い分野を扱い、特に訴訟等の紛争業務にて培った経験をさまざまな方面で活かしている。

松井克明/CFP

松井克明/CFP

青森明の星短期大学 子ども福祉未来学科コミュニティ福祉専攻 准教授、行政書士・1級FP技能士/CFP

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