2022年4月からは「年金」制度が大きく変わる。身近なところで言えば、「年金手帳」が廃止される。もう職場から返却された人も多いのではないだろうか。1974(昭和49)年11月~1996(平成8)年12月までに国民年金または厚生年金保険に加入した人の手帳は表紙がオレンジ色、1997(平成9)年1月以降に加入した人は青色で、46歳以上の方だとオレンジ色が多いとか。うっかり「年金手帳ってオレンジ色だよね?」と言ってしまうと、年代がばれてしまうこともあった。
年金手帳には、年金の手続きや問い合わせに必要な10桁の基礎年金番号が記されている。この番号自体が廃止になるわけではないが、近年ではマイナンバーの活用が進み、基礎年金番号がわからなくても年金の照会、申請ができるようになった。なお、手帳の廃止後に新たに年金に加入する人には、番号を記した「基礎年金番号通知書」が送付される。
コストの問題もあるという。厚生労働省の資料によれば、年金手帳の発行153万件、再発行74.5万件にかかるコストは2.7億円とも(数字は2016年度)。これが削減できることも大きいのだろう。
手帳がなくてもいいとはいえ、基礎年金番号が必要になる場面はある。たとえば「ねんきんネット」に登録する際には必要となる(マイナンバーカードがあれば不要)。なくさないように大事にしまっておこう。
年金を受給する年齢を75歳まで延ばせるように
なんといっても人生100年時代だ。2021年時点で100歳を超えた人は8万6000人以上もいる。健康に恵まれ、長く働ける人や、iDeCoや企業年金などで生活費を充当できる人は、なるべく公的年金の受け取りを繰り下げた方がオトクですよ、というのが公的年金の仕組みだ。
3月までは年金を受け取り始める時期を70歳まで繰り下げできたが、これが75歳までになる。誤解している人もいるが、年金受給開始年齢そのものが遅くなるのではなく、手続きすると65歳からもらえる。しかし、ひと月単位で受け取り開始時期を延期していけば、その分年金が増額される。75歳まで繰り下げれば84%も増える計算で、そうした方がオトクというわけだ。
ただし、年金受給額は手取り額ではなく、そこから税・社会保障費が引かれるので、まるまる84%増えるわけではないのと、その分だけ社会保障費などの負担も増すので注意を。「年金の繰り下げはオトク」とだけ覚えてしまうと落とし穴がある。
そもそも、まるまる75歳まで繰り下げられる人はなかなかいないだろう。繰り下げたことで受け取らなかった分の元を取るには何年かかるか気になる人もいるだろうが、ざっくり12年ほど。75歳まで繰り下げた人は87歳まで生きるとプラス(ただし額面の場合)になるが、それもしんどい話だ。
厚生年金の加入者であれば、老齢基礎年金と老齢厚生年金のいずれかを受け取り、片方は繰り下げという方法もある。ただし、厚生年金を繰り下げてしまうと年下の配偶者が受け取れる加給年金がもらえなくなるので、そこも注意。夫婦世帯なら、夫と妻のいずれかが繰り下げを選択することもできる。しかし、なかなか損得勘定が難しいので、当事者になったときは専門家に各パターンを相談しよう。
なお、「繰り下げようと思ったけどお金が必要に」という場合は、5年前まで遡って、その間受け取れるはずだった年金を一括受給することもできるので安心を。
長く働く人はiDeCoへの加入も延びる
5月からは、iDeCoに加入できる年齢も、これまでの60歳から65歳に延長される。ただし、対象となるのは、60歳以降も厚生年金に加入していて働いている人と、国民年金の任意加入被保険者(60歳までに老齢基礎年金の受給資格を満たしていない場合や、納付期間が40年に満たず満額受給できない場合に、60歳以降も国民年金に加入すること)。誰でも65歳まで加入できるわけではない。
とはいえ、会社員の場合、60歳以降も職場に残ることが増えているので、厚生年金に加入できているなら対象者はかなり増えるのではないか。
なお、厚生年金に加入できる人自体が拡大する方向にある。週に20時間以上働き、収入が月額8.8万円以上等の条件を満たせば、パート・アルバイトでも社会保険に加入することになる「適用拡大」が始まっているが、現状では従業員501人以上の企業が対象だ。これが、2022年10月から従業員数101人以上の企業に変わる。2024年には、51人以上の企業まで広がる予定だ。
積極的に働く人が増えれば、厚生年金加入者も増加する。パートであっても長く勤めれば、iDeCoで私的年金を積み上げられる期間も増えるわけだ。
ひと口に言えば長く働く人にメリットを、という改正
国が進めている年金改正は、つまりは高齢化社会に即したものといえるだろう。多くの現役世代は60歳で定年を迎えたとしても、年金受給までまだ5年もある。高年齢者雇用安定法により65歳までは職場で働き続けられる環境が整っているし、2021年の改正により70歳までの就業機会の確保が企業の努力義務とされた。現役時代と同じ企業に勤め続けるだけでなく、先に書いたようにパートやアルバイトなどでがっつり働いて社会保険に加入し、その恩恵を受けることも可能だ。
よほど資産を積み上げた人でも、ただ切り崩すだけの生活が続くのは不安なものだ。わずかでも毎月決まった収入が得られる方がいいし、社会とのつながりを保つこともできる。働き方の選択もいろいろある。これまでのスキルを活かす仕事だけでなく、新しい職場で改めて学ぶこともあるだろう。定年後もなるべく長く働いて将来の年金額を増やし、年金を受け取り始める時期を遅らせる繰り下げで、さらに増やす。それが長生きリスクに備えることになりますよ、というのが、今後も続いていく年金の方向性だ。
公的年金は「共助」、つまり支え合う制度ともいえる。定年後も働いて厚生年金の保険料を払う人が増えれば、その分公的年金の支え手も増えることになる。60歳で仕事に一区切りをつけてからも、ずいぶん人生の先が長いのだ。お金のため、社会のため、自分の生きがいのため、いろいろな理由はあるにしろ、多くの人は働き続けるだろう。事情が許すなら長く働いて、その分人生の最終コーナーに受け取れる年金を増やすのは合理的だ。今回の改革は、それを後押しするものと理解したい。
(文=松崎のり子/消費経済ジャーナリスト)
『定年後でもちゃっかり増えるお金術』 まだ間に合う!! どうすればいいか、具体的に知りたい人へ。貧乏老後にならないために、人生後半からはストレスはためずにお金は貯める。定年前から始めたい定年後だから始められる賢い貯蓄術のヒント。