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進化する野球用グローブ…オーダーメイドは10万円、数十個所有するコレクターも

文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
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進化する野球用グローブ…オーダーメイドは10万円も
各メーカーから、さまざまなタイプのグローブが販売されている(写真提供=カズマスポーツ)

 3月25日にNPB(日本プロ野球)が、4月8日にMLB(米大リーグ)が開幕し、本格的な野球シーズンが始まった。昨シーズン、MLBでアメリカンリーグMVPに輝いた大谷翔平選手(ロサンゼルス・エンゼルス)をはじめとする人気選手の活躍にも注目が集まる。

 コロナ禍が続くが、各球場では(今のところ)入場制限も緩和されて観客の熱気が戻ってきた。最近は野球関連のニュースを目にする機会も多いだろう。

 また、暖かくなり草野球も楽しめる季節となった。以前は感染拡大防止対策として使用が制限されていたグラウンドも多いが、最近は再開する施設も目立つ。

 そこで今回は、選手が使う「野球用グローブ」に焦点を当ててみた。野球・ソフトボール用品市場のなかでもっとも需要が活発で、一般愛好家の人気も高いからだ。

 最新のグローブ事情を解説してくれたのは、本連載でもおなじみの「ベルガード」(ベルガードファクトリージャパン。本社:埼玉県越谷市)の永井和人社長だ。同社製の「野球用防具」は多くのMLB選手が愛用するが、グローブ商品も多く販売し、品質には定評がある。同社をはじめ関係者に取材し、一般消費者の購入心理も考えた。

大手から中小、個人まで製造者は数多い

「グローブの種類は日本市場がもっとも多彩で、オーダーメイドでつくるプロ選手はもちろん、一般の愛好家も自分にしっくりくるグローブを探します。最近は高価格品も人気です。コロナ禍が続き、ずっと消費を我慢していた思いもあるのでしょう。プロの有名選手と同じモデルを使いたいという人も多いですね」(永井氏)

 商品の素材には合成皮革もあり、量販店では数千円から買えるが、ほとんどは牛革製だ。実は昔に比べて原材料費が高騰しており、メーカー最大手の「ミズノ」でオーダーメイドのグローブを注文すると約6~10万円する。それでも好きな人は出費を惜しまない。

「選ぶ基準はさまざまですが、まずは好きなメーカーの商品で探す人が多いでしょう。大手から中小まで数多くのメーカーがあり、自社製造する小売店を加えると製造者は数え切れません。近年は個人が作る例、ユーチューバーがつくる例も増えています」(同)

 前述の「ミズノ」や「ZETT(ゼット)」「アシックス」「SSK」といった日本製メーカー、「ローリングス」や「ウイルソン」(ともに米国)など昔から有名だった企業もあれば、「久保田スラッガー」「スポーツ玉澤」「ハタケヤマ」といった品質の良さでマニアには知られたメーカーもある。

 前身会社の2012年まではOEM(相手先ブランドでの生産)が中心だった「ベルガード」も、永井氏が商標を受け継いでからは、自社ブランドでの開発を積極的に行う。

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完成したグローブをチェックする永井氏(写真提供=ベルガードファクトリージャパン)

守備位置によってグローブの機能性は異なる

 ひとくちに「グローブ」「ミット」といっても、どの守備位置につくかで商品の機能性は異なる。少し専門的な話になるが、消費者意識の視点で聞いてみた。

「投手用グローブは大きい(小さい)のが好き、重い(軽い)のがいい、といった好みに分かれます。プロ野球の投手は、選手自身が小さいタイプを使いたくても、コーチから『球種を読まれるから大きいタイプを使え』と言われることもあります」(同)

 捕手用ミットは、時代によってトレンドが変わった。

「古田敦也捕手(当時ヤクルトスワローズ)時代は、タテ型の中心で捕るタイプが人気でしたが、現在は甲斐拓也捕手(福岡ソフトバンクホークス)に代表される、親指で捕るような小ぶりで浅いタイプが人気です。ただ、高い技術を要するので初心者には扱いにくいですね」

 ファーストミットについてはどうだろう。

「内野手からの送球を一瞬でも早く捕球するために、タテ型の薄いタイプが多いですが、実はこれは日本だけの特徴です。海外では野手用グローブに近いタイプが多いのです」

 きめ細やかさに対応するのは、いろんな意味で“日本的”といえそうだ。

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守備位置によって、使うグローブは違う(写真提供=ベルガードファクトリージャパン)

内野手向け、外野手向けの特徴は?

 内野手用グローブは種類も豊富だ。左右のゴロやライナーに対応する守備機会が多く、より自分の手になじむようなフィット感を追求する。

「サード、ショート、セカンドと飛んでくる打球が異なるのに加えて、選手の使い勝手によっても変わります。『サードは強い打球が来る機会が多いため、捕球ポケットが深い大きめタイプ』『セカンドは捕ってから投げる動作を素早く行うため、捕球ポケットが浅い小さめタイプ』ともいわれましたが、選手の好みによっても異なります。

 近年人気なのは、ショートを守る源田壮亮選手(埼玉西武ライオンズ)が愛用する“源田モデル”。同じポジションの今宮健太選手(福岡ソフトバンクホークス)の“今宮モデル”も人気です。ともにZETTさんから発売されてヒット商品となりました」(同)

 外野手用は、内野手とは別の機能となる。

「前に落ちそうな打球、背後に来る打球もあり、内野手とは違い打球の上下に対応する守備機会も多いです。しっかり捕球したい選手は、大きめの捕球ポケットが深いタイプ。捕ってすぐ投げたい選手は、小さめのポケットが浅いタイプを好みます」(同)

 自分が好きな選手モデルのグローブでも、一般愛好家が使うと「使いにくい」「自分にはしっくりくる」と意見も分かれるようだ。プレー用に買うか、後述するコレクション用に買うかでも違うので、「実店舗で見てから判断したほうがよい」と、関係者は話す。

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ベルガードの内野手用グローブ(写真提供=ベルガードファクトリージャパン)
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ベルガードの外野手用グローブ(写真提供=同)

日本の熟練職人がつくる「ベルガード製グローブ」

 ベルガードファクトリージャパンには、「ベルガード」(自社ブランド)と、「アクセフベルガード(AXF)」(特許技術IFMC.=イフミックを使った提携ブランド)があり、野球用防具は前者から、グローブは両ブランドから販売している。

「市場に流通するグローブの大半が海外製ですが、ベルガードのグローブは日本製で、国内の熟練職人が製作しています。いま注力しているのは『湯もみ型付けがされたグローブ』。湯もみ型付けを施してあるので、自分の手になじむのが早いという特徴があります」(同)

 野球経験者ならご存じだろうが、湯もみ型付けとは新品のグローブを柔らかくする手法のひとつ。固いグローブが適度なやわらかさになり、捕球ポケットが形成されて取りやすい、などのメリットがある。ただし、個人が自分で型付けするとうまくいかない例も多い。

「ベルガード」ブランドの湯もみ型付けグローブは5万5000円(税込み)。素材にこだわり、日本の熟練職人が製作、湯もみ型付け済みというのが特徴だ。

 数年前には「武州和牛グローブ」(武州和牛ストロングスレザーシリーズ)ブランドも開発した。武州和牛は2000年代に入ってから誕生した埼玉産の牛で、皮本来(革になめす前)のシワも復元力が強く、機能性の高いグローブだった。素材、革をなめすタンナー、メーカーもすべて “オール埼玉”として開発した(現在は製造休止)。

「日本の職人の技術を絶やさない」使命も掲げて、特徴のある商品を次々に開発する。

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湯もみ型付けグローブをはめたジュリクソン・プロファー選手(当時オークランド・アスレチックス)

なかには、数十個所有するコレクターも

 プロ野球やアマチュア野球では、グローブの色には制限がある。一方で草野球には制限がなく、女子プロ野球も制限は緩和されている。「ボールとの区別がつかなくなるので白系・グレー系の使用は不可」など、チームが所属する連盟によって規定されている。

「自分の個性を打ち出せるので、女子選手のほうがカラフルなグローブを持つようです。当社でも選手の要望をもとに、オーダーメイドで個性的なグローブを製作することもありますし、多くの女子選手とは交流があります」と永井氏は話す。

 個性的なグローブでいえば、プレー用ではなくコレクションとして集める人も。コレクターの中には数十個、50個以上集める人もいる、と聞く。

 コロナ禍で普段、試合を行うグラウンドが使用中止となるケースも目立った。草野球のプレー機会が減った愛好家のなかには、こんな意見を述べる人もいた。

「在宅勤務の休憩中に、お気に入りのグローブを磨いたり、手にはめたりするだけで、気分転換になります。もう少し所有数を増やしたいけれど、妻には理解されません。ひそかにお小遣いを貯めて、次の“へそくりグローブ”を考えています」(30代男性会社員)

「何かをコレクションするのは男性が多い」と言われるが、グローブも同じのようだ。

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オーダーメイドのグローブを手にした、モデルで野球女子の椿梨央氏。ベルガードとはアンバサダー契約をしている(写真提供:ベルガードファクトリージャパン)

課題は「野球競技人口の減少」

 国内の「スポーツ用品市場」は、多くの業界と同じく、コロナ禍で痛手を受けた。各種のスポーツ大会やイベントが中止や規模縮小となり、学生の部活も減少。販売機会を失ったのも大きい。アウトドアなど追い風となった分野もあるが、少数派だ。

 そのなかで「野球・ソフトボール用品市場」は、コロナのずっと前から続く「野球の競技人口減少」もあり、市場規模は約600~700億円(調査データによる)。スポーツ用品のなかでもっとも大きな「スポーツシューズ」市場の約3000億円に比べて小さく、近年は縮小傾向だ。

 その一方、「コロナ禍で少し『昔の日本』に戻った」現象もある。多くのプール施設が使用中止となった2020年夏は、住宅街の自宅で「ビニールプールを出して幼い子どもを遊ばせる」家庭も目立った。「親子でキャッチボール」という光景も何度か目にした。

「軽く身体を動かしたい」「家族で楽しみたい」人に訴求する姿勢も大切なようだ。

 企業や学校で新年度・新学期となる春は「気分転換の消費」をしたくなる季節でもある。野球好きの人は、この機会に「新しいグローブ」に手を伸ばすかもしれない。

(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、(株)日本実業出版社の編集者、花王(株)情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。出版社とメーカーでの組織人経験を生かし、大企業・中小企業の経営者や幹部の取材をし続ける。足で稼いだ企業事例の分析は、講演・セミナーでも好評を博す。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。これ以外に『なぜ、コメダ珈琲店はいつも行列なのか?』(同)、『「解」は己の中にあり』(講談社)など、著書多数。

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