水を使わないDC冷却は実現するか…川崎重工が挑む水素冷熱とWUE時代のインフラ戦略

●この記事のポイント
生成AIの普及拡大でデータセンターの「水消費」が新たな制約として浮上。米国では水使用量が今後2〜4倍に増加する見通しも示されるなか、川崎重工と神戸製鋼が水素の気化時に生じる冷熱を活用した冷却技術の実証を開始。液冷・液浸など既存技術との違いや、WUE(用水効率)を軸とした企業評価の変化、日本の産業競争力の可能性を検証する。
生成AIの急速な普及により、データセンター(DC)の電力消費問題が広く認識されるようになった。一方で、業界内部ではそれ以上に深刻な制約として「水資源」が浮上している。
米ローレンス・バークレー国立研究所(LBNL)によれば、米国におけるデータセンターの直接的な水使用量は2023年時点で約175億ガロン(約663億リットル)に達している。今後、AI需要の拡大に伴い、2028年までに2〜4倍に増加するとの見通しも示されている。
ここで重要なのは、水使用には「直接」と「間接」の2層がある点だ。冷却塔などで消費される水が直接使用であり、発電(特に火力・原子力)の過程で消費される水が間接使用にあたる。たとえばGPT-3の生成処理に伴う水消費量として知られる数値(約16.9ml)は、その大半が発電由来であり、単純な「AI=水を大量消費」という理解はやや粗い。
しかし、それでも問題の深刻さは変わらない。Bloombergの報道によれば、近年新設された米国のデータセンターの約3分の2が水ストレス地域に立地しており、水資源を巡る地域対立が現実のものとなりつつある。
日本においても例外ではない。国内のデータセンター水使用量は増加基調にあり、特に内陸部や工業集積地域では、将来的に農業・生活用水との競合が顕在化する可能性が指摘されている。
●目次
川崎重工×神戸製鋼が示す「発想の転換」
こうしたなかで注目されるのが、川崎重工業と神戸製鋼所による水素冷熱の活用実証である。
液化水素はマイナス253度という極低温で保管される。この水素を気化させる際、周囲から熱を吸収することで大きな冷熱が発生する。従来、この冷熱は十分に活用されてこなかったが、同プロジェクトではこれをデータセンター冷却に転用する。
ポイントは「効率的に冷やす」ではなく、「そもそも発生する冷熱を使う」という思想にある。すなわち、エネルギーの副産物を活用することで、水や電力への追加負荷を抑える設計である。エネルギー政策研究家の佐伯俊也氏は次のように指摘する。
「水素はこれまで“発電燃料”としての側面ばかりが議論されてきましたが、実際には冷熱という副次価値を持ちます。この冷熱を回収し、データセンターの冷却に充てることで、電力・冷却・インフラを一体最適化する設計が可能になります。特に日本のようにエネルギー資源制約がある国においては、単体効率ではなく“システム効率”で競争する発想が重要であり、水素冷熱はその中核になり得る技術といえます」
次世代冷却技術は「最適解」が分かれる段階へ
現在、データセンター冷却技術は一つの勝者に収束しているわけではなく、用途や立地に応じた“複数の最適解”が併存する状況にある。
短期的には、Direct-to-Chip型の液冷が主流と見られている。既存設備との親和性が高く、AIサーバーへの適用も比較的容易であるためだ。一方で、水の使用を前提とする設計である以上、水制約の根本解決にはならない。
中長期では液浸冷却の存在感が増している。冷却効率の高さや消費電力削減効果は顕著であり、ハイパースケーラーを中心に採用が進む。ただし、設備投資や運用ノウハウのハードルは依然として高い。
さらに、寒冷地立地による自然冷却や、水を使わない空冷高度化といった選択肢も現実的だ。
こうしたなかで、水素冷熱は「冷却技術」という枠を超えた位置づけにある。
「現状の冷却技術は、いかに効率よく熱を外へ逃がすかという“局所最適”の競争です。一方で水素冷熱は、そもそも外部からエネルギーを追加投入せずに冷却できる可能性を持っています。もし水素発電とデータセンターを同一サイトに集約できれば、電力供給・冷却・排熱利用までを一体設計できます。これは単なる冷却方式の違いではなく、データセンターの立地戦略そのものを変えるインパクトがあります」(同)
さらに、実装面の課題についても言及する。
「ただし現実には、水素インフラの整備コストや、既存データセンターとの接続設計、安定供給の担保といった課題は小さくありません。現段階では“特定条件下で成立する先進モデル”であり、汎用的な解とはいいがたいです」
「WUE」が企業価値を左右する新たな指標に
こうした技術選択は、単なる設備投資の問題にとどまらない。
従来、データセンターの効率性はPUE(電力使用効率)が主要指標とされてきたが、近年はWUE(Water Usage Effectiveness)への関心が急速に高まっている。特にESG投資の文脈では、水使用量の開示や削減は企業評価に直結する。
「今後、データセンター事業者に対する評価は“電力効率が高いか”から、“資源制約の中で持続可能に運用できるか”へとシフトするでしょう。WUEの低減、あるいはゼロ化は、単なる環境配慮ではなく、事業継続性リスクの低減そのものだ。水資源の確保が困難な地域では、そもそもデータセンターの新設が許認可の段階で制約される可能性もあります。つまり、水を使わない冷却技術はコスト削減ではなく“参入条件”になりつつあるといえます」
また、排熱の再利用も重要なテーマだ。欧州ではデータセンターの排熱を地域暖房に活用する事例が増えており、データセンターがエネルギー供給インフラの一部として位置づけられ始めている。
日本が持つ「冷却インフラ技術」の意味
川崎重工と神戸製鋼の取り組みは、単なる技術実証にとどまらない。
液化水素の輸送・貯蔵・気化・発電・冷熱回収までを一体で設計できる産業基盤は、世界的に見ても限られている。これは、日本が強みを持つ「低温工学」「エネルギー機器」「プラント統合技術」の結晶ともいえる。
AI時代の競争は、半導体の性能だけで決まるものではない。むしろ、それを持続可能に運用するためのインフラ設計能力が、国家・企業の競争力を左右する局面に入りつつある。
もっとも、水素冷熱の商用化には依然として課題が多い。インフラ整備の時間軸、コスト、規模の経済といった壁は高く、現時点で過度な期待は適切ではない。
しかし、水資源制約が顕在化するほど、「水を使わない冷却」という選択肢の価値は確実に高まる。
AIがもたらすインフラ負荷の本質が「電力」から「水」へと広がる中で、日本企業が持つ“冷たい技術”は、新たな競争軸の中で再評価される可能性がある。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=佐伯俊也/エネルギー政策研究家)











