ビジネスジャーナル > ITニュース > データセンター需要減速は起きるのか

マイクロソフトが建設計画中止…「AI期待予測低下→データセンター需要減速」は起きるのか?

2025.07.11 2025.07.10 14:04 IT
マイクロソフトが建設計画中止…「AI期待予測低下→データセンター需要減速」は起きるのか?の画像1
「Unsplash」より

●この記事のポイント
・マイクロソフト、一部のデータセンター建設・拡張計画を止めている
・生成AIを軸とした演算需要の急激な拡大は明確
・データセンター需要の減速は、短期的には考えづらい

「Microsoft Azure」を手掛ける米マイクロソフトや米Amazon Web Services(アマゾン ウェブ サービス:AWS)など世界の大手クラウドサービス事業者が、データセンター建設の計画を相次いで中止・見直ししていると伝えられている。AIの開発競争の活発化や利用の広がりにより世界的にデータセンター需要が増大していくと予測されてきたが、電力・水の供給不足が新設のネックになったり、AI関連市場の成長が予想を下回ることで需要が下押しされる可能性も指摘されている。実際のところ世界ではデータセンターの建設にブレーキがかかっているのか。また、将来のデータセンター需要に大きな影響を与える変化が起きているのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

●目次

マイクロソフト、依然としてデータセンターへの投資に積極的

 マイクロソフトはアメリカや欧州で一部の建設・拡張計画を止めていると伝えられており、電力供給の制約などが要因とみられている。LLM(大規模言語モデル)の開発競争が落ち着き始めて、データセンター需要が予想されていたほど伸びないという見方も出ている。電力不足や水不足、立地エリアでの反対運動、さらには生成AIの事業化(収益化)の遅れなども需要を下押しするという見方もあるが、今後も建設ラッシュは続くと予想されるのか。

 ITジャーナリストの西田宗千佳氏はいう。

「本質的にはそこまで大きく状況が変化しているとは認識していません。マイクロソフトは指摘の地域『以外』では、いまだにデータセンターへの投資を積極的に行っています。

 また、マイクロソフト以外に大きな投資見直しの話はありません。データセンターを構築する上での課題は過去から多く、現状も大きな解決策は得られていません。一方で、生成AIを軸とした演算需要の急激な拡大は明確で、『建築せねば競争に置いていかれる』状況であるのも変わりません。アメリカにおいてはトランプ政権の方針が『AI推進』である以上、個々の事案に変更はあるでしょうが、全体としての流れに変更はありません。

 現状は過剰投資懸念よりも、AI以外も含めたクラウド事業全体の伸びの鈍化や、すでにある設備の見直しといった要因が大きいです。AI事業から見た収益性問題はあり、単純に増やすだけでは効率が見込みづらいです。特に、OpenAIとの関係見直しもあり、マイクロソフトはアセットの最適化から投資見直しを行っていると考えられますが、これを全体傾向と見るのは『まだ』難しいです」

全体傾向は、少なくとも数年は変化しない

 国内では建設予定地周辺の住民による反対運動が相次いで起きており、建設業界全体が抱える問題として、人手不足や建設資材の高騰などの影響で着工やスケジュールの遅れ、さらには建設着工のメドが立たない事例が相次いでいる。

「仮にデータセンターの建設が予想どおりには増えないとすれば、AI自体の需要減速予測が大きな要因になるでしょう。ただし、繰り返しますが、短期的には考えづらいです。予想に比して伸びない(減速ではない)場合、立地や電力需要などの条件が考えられますが、個々の事案に依存すると考えられます。

 そもそもAIの需要減速が原因であれば、戦略自体がその前に変更されるわけで、ビジネスモデル上の変更が出てきます。AIを軸にした成長戦略以外を検討することになりますが、現状のトレンドではそれは考えづらいです。当然、半導体需要は下がるでしょうが、現状も需要を満たせていない状況なので、少々の変化では調整・吸収されてしまうでしょう。

 米NVIDIA(エヌビディア)などのHPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)向け半導体に『明確な影響が出るほど』の変化だとすれば、それはデータセンター需要の減速以前に、全体戦略の見直しという大きな波が先に見えるはずです。

 ただし、AIのニーズが学習ニーズから推論ニーズに移行していくことで、求められる半導体の性質が変わる可能性はありますが、あくまで比率の問題であり、全体傾向は、少なくとも数年は変化しないと予測されます」

 AIの領域ではLLMに加えて、SLM(小規模言語モデル)やAIエージェントの開発・導入も活発化している。そしてAIの活用が進めば他の業務システムや外部システムとの連携は増大し、一方で企業によるAI以外のシステム投資は世界的にみれば大きく冷え込む気配はない。こうした状況を踏まえると、今後も当面の間はデータセンターへのニーズが高まってくると予想される。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=西田宗千佳/ITジャーナリスト)

西田宗千佳/ITジャーナリスト

西田宗千佳/ITジャーナリスト

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。取材・解説記事を中心に、主要新聞・ウェブ媒体などに寄稿する他、年数冊のペースで書籍も執筆。テレビ番組の監修なども手がける。主な著書に「ポケモンGOは終わらない」(朝日新聞出版)、「ソニー復興の劇薬」(KADOKAWA)、「ネットフリックスの時代」(講談社現代新書)、「iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏」(エンターブレイン)がある。
https://about.me/mnishi

X:@mnishi41