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コロナ禍2年目、消費落ち込む野球用品業界…たった5人の中小企業が繰り出す”次の一手”

文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
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東京・新宿タカシマヤにある『AXF axisfirm TOKYO』(アクセフ トウキョウ)の売り場(2020年3月/筆者撮影)

 新型コロナウイルス収束のメドが見えないなか、野球界も2年目のシーズンが始まり、試合を重ねている。

 日本のファンにとっては、大谷翔平選手(ロサンゼルス・エンゼルス)の投攻守にわたる活躍に沸くMLB(米大リーグ)や、NPB(日本プロ野球)の連日の熱戦に注目が集まるが、今回は、選手のパフォーマンスを支える野球用品業者の活動に焦点を当てたい。

 他の業界と同様、野球業界もコロナ禍で大きな影響を受けている。たとえば、シーズン前のキャンプ地の活動やファンとの交流が制限され、シーズン入りした現在も、本拠地スタジアムの観客数には人数制限がある。コロナ前であれば、各球団のキャンプ地や、シーズン中の各球場に多くのファンが詰めかけ、グッズの購入や現地での飲食などに支出してくれた。

 こうした興行の制限は、周辺分野の活動にも影響する。そんな状況下で、野球用品の業者、特に中小企業はどんな活動をしているのか。

 取材に応じてくれたのは、当サイトでもおなじみの「ベルガードファクトリー ジャパン」(本社・埼玉県越谷市、従業員5人)だ。特に捕手が着けるマスク、プロテクター、レガース、打者が手足につけるアームガード、フットガードといった「防具」に定評がある。

 MLBの有名選手の多くが同社製防具を身に着けてプレーするのは、これまでも記事で伝えてきた。本稿は取材や周辺情報をもとに「中小の野球用品業者の現状」を紹介したい。

対面活動の制限が続き、問屋系が厳しい

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サンディエゴ・パドレスの本拠地球場「ペトコパーク」(写真提供:ベルガードファクトリージャパン/以下同)

 前身の会社(1935年創業、2012年倒産)に約30年勤務後、商標を引き継ぎ、同社を設立した永井和人社長は、現在の状況をこう話す。

「昨年から始まった対面活動の制限は、今も続いています。コロナ前には各キャンプ地や球場を訪問して、当社商品を愛用する選手に使い勝手を聞くなど情報収集もできたのですが、今年もMLBの球場はもちろん、国内のNPBの球場にも行けていません。どの野球用品業者も同じではないでしょうか」

 コロナの感染防止対策で、NPBを放送する番組の解説者も「試合前のグラウンドに降りて選手や監督を取材することができない」と聞く。

 ベルガードの業績は非公表だが、2012年の設立以来、19年まで右肩上がりで成長し、3分の1の従業員数で倒産前の前身企業の売上高を超えた。それが20年は対前年比約8割。厳しい環境下で健闘しているほうだが、「うかうかできない」と危機感を持つ。

「当社の売り上げ内訳のうち、過半数を占める問屋系が伸び悩んでいます。学生野球のチームでも遠征や合宿がしにくく、試合が制限される状況なので、小売店さんもコロナ前のような営業をかけられません。そうした影響も受けています」(永井氏)

 MLBやNPBの有名選手には無償で用具を提供し(契約金は支払わない)、同社商品に興味を持つマイナーの選手やアマチュア野球選手、審判員や一般の野球愛好家に有償販売するのが同社のビジネスモデルだ。球場での選手との対話ができなくなり、現在はメールのみ。メールは便利だが、「対面でのやりとりで感じる情報とは違う」と、永井氏は話す。

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コロナ前には渡米して行ってきた、MLB選手との打ち合せ(右端が永井氏)

「ヒトの移動で生じる消費」が影響を受けた

 アマチュア野球の大会が「無観客」で開催される場合の影響も指摘したい。

 たとえば、春夏の甲子園大会に出場する学校は、コロナ前であれば多くの応援団が甲子園のアルプススタンドに詰めかけた。チームによるが、「お揃いのTシャツや応援タオルなどの関連グッズや出場記念品で1000万円単位の売り上げになる」という話も聞く。それが無観客で開催された場合は、ほとんど売り上げにならない。どの学校にも指定業者と呼ぶスポーツ用品業者が出入りしているが、大きな売り上げ損失となるのだ。

 夏の大会では地方大会から、試合会場を移動しての熱戦が続く。熱中症対策で持参して飲むペットボトル飲料の消費も増える。それが大会縮小や中止、応援自粛では影響が出る。

 別の取材結果では、20年の清涼飲料市場全体で17億7700万ケース(「飲料総研」調べ)となり、対前年比93.4%と落ち込んだと聞いた。21年の同数字も伸び悩む。

 野球用品と応援グッズと清涼飲料は関係ないように思うが、メディアで報道される外食やホテルの影響と根底は同じ。「ヒトの移動によって生じる消費」のすそ野は広いのだ。

 さらに「Doスポーツ」(自分でやるスポーツ)と「Seeスポーツ」(観戦するスポーツ)の相関関係もある。さまざまな競技のなかでも、野球、陸上(ジョギングやマラソン)、水泳などは、「Do」と「See」が連動しやすい。オリンピックや世界選手権などの国際大会で日本チームが活躍すると、一般消費者がスポーツ用品を買ってその競技を楽しむ、という相乗効果が出る。国際大会の延期や中止による業績への影響は無視できないのだ。

外国人の需要に応える「越境EC」を立ち上げ

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最高級の「スポーツサングラス」も開発した

 ベルガードも「待っている」だけではない。今年の取り組みを永井氏が明かす。

「最近はECでの売り上げが伸びています。そこで新たに越境ECサイト(国境を超えて行うECサイト)『belgard shop』を立ち上げました。日本語、英語、スペイン語、中国語、台湾語の5カ国語に対応しており、海外からの注文も受け付けています」

 これまで自社サイト「ベルガードオンラインショップ」や、提携先の「アクセフベルガード(AXF)」のサイトで販売していた人気商品に加えて、新商品も投入した。

「『belgard shop』では、福井県鯖江市のメーカーと提携して最高級スポーツサングラス(2万9700円/税込み、以下同)も開発しました。鯖江は国内シェア約96%のメガネの聖地で、技術力も高い。IFMC.(イフミック=集積機能性ミネラル結晶体)とのダブル特許技術を採用したノーズパッドがない商品で、鼻にかけた跡も残らず、激しい動きでも落ちません。自転車競技など炎天下で動くスポーツにも対応できます」(同)

 サイト構築や商品開発のきっかけは「不満あるところにビジネスあり」の視点だ。永井氏自身も長年、草野球でプレーしている。「欧州も少ないとはいえ、野球人口は増えていて、選手は野球用品を米国の通販で買って輸入しています。そうした消費者の受け皿となり、当社商品の品質の高さを実感できるサイトにしていきたい」と話す。

開発起点は、「身体を護る」と「パフォーマンス向上」

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コロナ前はロサンゼルスのスポーツ用品店も訪問。今後は越境ECとリアル店舗の相乗効果も図る

 2017年から19年にかけて、提携するアクセフベルガード商品が評判となった。前述したイフミックの効果を持つパフォーマンス向上型商品で最初に話題を呼んだのは、日本のプロ野球界。坂本勇人選手(読売ジャイアンツ)らが装着したネックレス(4950円)だった。

 坂本選手は「試しにネックレスを装着した試合でホームランを打ち、手放せなくなった」という。他の有名選手が身に着ける姿もメディアで報道され、売り上げが大きく伸びた。

 20年には「XB」のロゴの入ったマスク(1枚630円)が大いに売れ、約20万枚を販売した。ベルガードには販売数に応じてロイヤリティ(権利使用料)が入る。

 いずれもヒットしたとはいえ、ネックレスとマスクは、従来のベルガードのイメージとはやや遠ざかる。今回のサングラスもそうだが、商品開発の軸をどこに置いているのか。

「基本的には、防具に代表される『身体を護る』と、それを着けて『パフォーマンス向上』がキーワードです。あくまでも当社らしさ、という軸は崩していません」(同)

 ネックレスもマスクもサングラスも、その軸に沿った商品なのだ。商品は検査機関の審査を受けたり、イフミックは特許を取得(特許第6557442号)したりしている。

柔軟に対応して「売り上げをつくる」

 今年1月、別の中小企業(東北地方の食品加工業)を取材した際、30代の経営者から「コロナ禍でも、なんとか売り上げをつくれている」という説明を聞いた。同氏は、先代からの看板商品に加えて、ネット販売向けの新商品開発にも積極的だった。中小企業の強みは柔軟性なので、あの手この手で「売り上げをつくる」姿勢は欠かせない。

 ベルガードは、前述の越境ECサイト立ち上げも永井氏自身が行った。外部に委託する費用を抑えるだけでなくノウハウも身につき、内容変更にも対応できる。「今はネットで制作ノウハウが学べますから、できるだけ自分たちで行います」(同)と話す。

 事業環境が一気に変わり、「昨日の顧客」が「明日の顧客」にならないご時世。特定の大口顧客を当てにしていると、本稿の紹介事例のように環境悪化で厳しくなる。我慢すれば顧客は戻るのではなく、何で売り上げをつくり、新たな顧客を育てるかが大切だろう。
(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、(株)日本実業出版社の編集者、花王(株)情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。出版社とメーカーでの組織人経験を生かし、大企業・中小企業の経営者や幹部の取材をし続ける。足で稼いだ企業事例の分析は、講演・セミナーでも好評を博す。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。これ以外に『なぜ、コメダ珈琲店はいつも行列なのか?』(同)、『「解」は己の中にあり』(講談社)など、著書多数。

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