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小黒一正教授の「半歩先を読む経済教室」

日銀が国債を買いオペしても政府債務が減少しない簡単な理由

文=小黒一正/法政大学教授
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日本銀行(「Wikipedia」より)

 財務省の資料「国債等の保有者別内訳」(令和3年9月末<速報>)によると、国の借金(国債残高=約1067兆円)のうち、日銀は約5割の約513兆円を保有している。いまや国債の最大保有者は日本銀行だ。

 このように、日銀が大量の国債を保有するに至ったのは、インフレ率2%の実現を目指して、異次元の金融政策を実行したためである。資金供給の調整といった金融政策の目的遂行のため、市場から日銀が国債などを購入することを「買いオペ」、逆に日銀が保有する国債などを市場で売却することを「売りオペ」と呼び、「買いオペ」「売りオペ」などを一般的に公開市場操作という。

 公開市場操作により、日銀が「買いオペ」で市場から大量に国債を購入した結果、日銀は500兆円超もの国債を保有するに至っているわけだ。こうした現状のなか、「日銀は政府の子会社のような組織のため、日銀が保有する国債はもはや国の借金ではない」という意見がテレビやネット上などでときどき聞かれる。

 この意見は一見正しいように思われるが、日銀が市場から国債を購入するだけで、本当に政府の借金が減少するのか。結論から言えば、残念ながら、そのような魔法は存在しない(もし存在するならば他の国々でも既に実行され、財政問題に苦慮する国々は存在しないはずだ)。以下、その理由を簡単に説明しよう。

誰かの負債は誰かの資産

 まず、議論を単純化するため、海外の投資家などは国債を引き受けず、国内だけで国債を消化するケースのみを考えよう。このケースでは、日銀が「買いオペ」で市場から国債を買い取る場合、その国債を売却するのは民間銀行などの金融機関となる。

 では、その民間銀行などは、何を財源として、国債を購入したのだろうか。例えば、それが民間銀行の場合、国債を購入するために利用した原資は我々が民間銀行に預けている預金である。つまり、政府が国債を発行して借金をする場合、民間銀行などがその国債を引き受けるが、民間銀行は我々国民の預金の一部を利用して国債を購入したわけである。例えば、政府が国債発行で30兆円の借金をする場合、まず、その国債は民間銀行などが引き受けるが、その原資は我々の預金などの一部30兆円ということになる。

 この事実は、国債を直接引き受けているのは民間銀行などだが、間接的には我々が自らの預金などを利用して国債を引き受けていることを意味する。

「誰かの負債は誰かの資産」であり、A氏がB氏に100万円を貸せば、B氏はA氏に対する100万円の金銭債務、A氏はB氏に対する100万円の金銭債権が発生する。これと同様、政府が国債を発行して30兆円の借金をすれば、民間銀行などを経由するために間接的な形だが、我々国民の預金などを通じ、政府に対して30兆円の債権が発生していることを意味する。

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 この議論を発展させれば、いま政府の借金、すなわち約1000兆円もの国債残高の貸し手が国内の経済主体の場合、それは、(間接的な形だが)我々国民の預金などの一部を通じ、我々が政府に対して約1000兆円の債権を有していることが分かるはずだ(図表)。

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