
日立製作所はグループ会社の日立物流を米投資ファンドのKKRに売却する。現在は株式の39.91%を握る筆頭株主だが、持ち株比率を10%まで引き下げる。 KKRはTOB(株式公開買い付け)などを通じて日立物流株を取得し、日立はTOBとは別にKKRに保有株を売却する。KKRの買い入れ価格は6712億円で、日立物流の株式の9割を握る。日立物流は上場廃止となる。
日立は2023年3月期連結決算で1400億円の売却益を計上する。この資金は研究開発やM&Aなどの成長投資に振り向ける。日立物流は日立製作所の物流子会社として1950年に創業した名門企業だ。荷主企業の物流業務を一括受託する3PL(サード・パーティー・ロジスティクス)事業の最大手。中長期的な成長のために、国際物流の強化を目標にしてきた。
2016年、佐川急便を傘下に持つSGホールディングス(HD)と経営統合を視野に資本・業務提携した。佐川急便は宅配便大手であり、日立物流は企業物流に強みを持つ。個人から法人まで包括的に荷物を扱う総合物流グループ作りを狙った。
新型コロナウイルスの感染が拡大。世界的に物流が停滞するなど環境が一変し、提携の重要性が薄れた。相互に持ち合う株式の出資比率を引き下げたのに伴い、両社は独自の成長戦略を優先させることに方向転換した。さらに、20年9月、SGHDは日立物流が保有する佐川急便の発行済み株式のすべてを875億円で買い取った。日立物流もSGHDが持つ日立物流株を988億円を上限として市場から取得した。
「KKRから具体的な海外企業の名前やM&Aの候補が示された。国際戦略の後押しが期待できる」(日立物流幹部)と考え、KKRの買収提案を受け入れた。KKRは買収後、日立物流の株式を非公開とし、数年後、再上場を目指す方針だ。
日立物流がKKRの買収提案を受け入れた背景には、世界市場で急速に進む物流業界の再編がある。コンテナ海運最大手のA.P.モラー・マースクは21年12月、香港の物流会社の買収を発表し、主力の海運以外に事業を拡大中。中国の民間物流最大手の順豊控股(SFホールディングス)も21年、香港を拠点とする物流大手を買収するなど、自前の物流網を確保する競争が激化している。
日立物流は今年度からの新中期計画の開始に合わせ、社長だった中谷康夫氏が代表執行役会長、執行役常務だった高木宏明氏が代表執行役社長に就いた。新中計の目標は「アジア圏の3PLのリーディングカンパニーになること」。目標の達成のためにKKRのネットワークを活用。東南アジアで物流網や倉庫を持つ現地企業のM&Aを進め、「アジアの3PLの王者になる」というシナリオを描く。