ビジネスジャーナル > 企業ニュース > 芸能プロ関係者が語る園子温の性加害
NEW
現役マネージャーが語る、芸能ニュース“裏のウラ”第46回

芸能プロ関係者が語る園子温監督の性加害…それはスキャンダルなのか構造的性差別なのか

文=芸能吉之助

geinou

 どうも、“X”という小さな芸能プロダクションでタレントのマネージャーをしている芸能吉之助と申します。

 今年の3月から4月にかけて、複数の週刊誌が日本映画界の監督やプロデューサーの性暴力を相次いで告発したことで、新作映画の公開中止や、俳優の活動休止などが起きたことは記憶に新しいと思います。今回は、日本版「#MeToo」とも呼ばれる一連の騒動について、芸能マネジメントの視点から読み解いていきたいと思います。

 発端は、「週刊文春」(文藝春秋)3月10日発売号、同17日発売号で「性行為を強要された」と語る女優7人らの告発が報じられた榊英雄監督。榊氏は、1995年に『この窓は君のもの』で主演俳優としてデビューしたのち、下積みを続けながら自主映画の監督としても評価を積み上げてきた人物。近年は俳優としても大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』(2019年、NHK)で脇役に起用されるなど、俳優と映画監督の二刀流で活躍していました。

 俳優ワークショップの講師としても活動しており、被害者にはそのワークショップ受講者を含む新人女優たちが多かったようです。監督の立場を利用した仕事の斡旋や演技指導を口実に飲みに誘い出して、渋谷区内の駐車場などの屋外で性的行為におよぶ……といった過激な性加害の手口が明らかになると、3月25日から公開予定だった監督作品『蜜月』が公開中止になりました。

「週刊文春」によると、性被害の現場となったのは渋谷・道玄坂。あのあたりは映画関係者がよく利用していて、いきつけとされていた居酒屋や、女性が連れて行かれたという路地裏、マンションの駐車場などは記事を読んですぐに「あそこだな」「この暗がりならそういう犯罪行為におよべるのかもな」と想像がつきました。

 とはいえ報道の通りだとすれば、まったく同じような手口であれだけ何度も加害行為を繰り返していたことには驚きです。誤解を恐れずにいえば、榊氏はある種の病気というか……性癖のようなものになっていたのではないかと思います。きっと、彼にとっての一度の“成功体験”が忘れられずに、繰り返していたのではないでしょうか。もともと俳優でルックスもよく自信家の方ですから、彼としては合意の上だったと本気で思っていたのでしょうね。ですが、路上で性的な行為をすることを好む女性なんて、そうそういないでしょう。にもかかわらず、「合意の上だ」「相手も喜んでいたのだ」と思っていたのだとすれば、勘違いも甚だしいというか……まあ、だからこそ今回のよう事態を招いてしまったのでしょうね。

芸能プロ関係者が語る園子温監督の性加害…それはスキャンダルなのか構造的性差別なのかの画像1
監督である榊英雄の性加害疑惑によって、いったん公開が中止された映画『蜜月』。このまま日の目を見ることなくお蔵入りになってしまうのは惜しい。(画像は映画『蜜月』公式サイトより)
芸能プロ関係者が語る園子温監督の性加害…それはスキャンダルなのか構造的性差別なのかの画像2
「日本骨髄バンク」のCM出演や『痛快TV スカッとジャパン』(フジテレビ系)のイヤミ課長など、遅咲き俳優としてノリに乗っていたのにね……。(画像は木下ほうか公式Twitterより)

榊英雄監督の盟友でもある俳優の木下ほうか氏は、性加害を報じた主婦と生活社を民事提訴

 榊氏の報道に続いて告発を受けたのが、榊監督の盟友でもある俳優の木下ほうか氏でした。3月24日発売号の「週刊文春」誌上で、彼から「性被害を受けた」という複数の女優らの告発が報じられると、木下氏は取材に一切応じることなく、雲隠れ。しかし、続報の準備を進める「週刊文春」から質問状を送付されたことを受けて、Twitterに謝罪文を掲載。4月5日スタートの連続ドラマ『正直不動産』(NHK)からの降板と、所属事務所からのマネジメント契約解消、さらに無期限活動休止を発表しました。

 その後、4月12日発売の「週刊女性」で7年前に木下から無理やり性交されたと訴えるSさんの告発が後追いで報じられましたが、木下氏はこの記事についてのみ、発行元の主婦と生活社と担当記者を民事訴訟で提訴しています。

大手プロには属さないグラビアタレント、小舞台で努力する駆け出し女優をこそ“狙う”卑劣さ

 一連の騒動は、『冷たい熱帯魚』(2010年)、『ヒミズ』(2012年)、『地獄でなぜ悪い』(2013年)などの監督作をベネチア国際映画祭に出品、ハリウッド進出も果たしている園子温監督というビッグネームが浮上したことで、さらに加熱していきます。

 こちらも4月5日発売の「週刊女性」で、複数の出演女優らに性加害をしたと告発され多くの批判が寄せられました。記事には園氏が「主演女優にはだいたい手を出した」「たくさんの女優に手を出しているけど、手を出したやつには仕事を与えている」などの発言をしたという証言が掲載されたことから、これまで彼の作品に出演した多くの有名女優さんらもまた“被害者”なのではないか……との憶測が囁かれる事態に。

 ですが、芸能マネージャーの感覚でいえば、大手プロダクションに在籍する有名女優がその種の被害に遭う可能性は、そうではない無名の女優さんに比べれば、ずいぶんと低いと思います。大手プロには属さない無名の女優さんだけを“狙い撃つ”ことこそが、キャスティング権などを背景にこうした性犯罪を繰り返す“業界人”の悪質かつ情けないところなわけですね。

 彼らは、大手プロ所属の有名女優さんにレイプまがいのことをすれば、当然ながら“大変なこと”になることなど重々承知しています。万が一、有名プロ所属の女優さんが、「監督やプロデューサーにこんなことをされて困っている、悩んでいる」とでもマネージャーに相談しようものなら、大手プロダクションであれば最悪、木下優樹菜さんの言葉ではありませんが、まさに“事務所総出でやる”でしょう。たとえ訴訟にまでコトを大きくしなくても、業界の重鎮を動かす、マスコミにネガティブな情報を流す、彼らの手がける作品からいっせいに手を引く……等々のさまざまな方法で、彼らが二度とこの業界で仕事をできなくすることだって可能です。だからこそ彼らは、大手プロ所属の女優さんなど、そうやすやすとは矛先を向けない。そういう意味だけにおいても、大きな事務所に所属することの意味はあるといってよいでしょう。

 要は、園子温監督などがしばしば語るような、「主演女優にはだいたい手を出した」という発言は口説き文句にすぎず、逆にむしろ、そこ“だけ”には牙をむかない、というのが実情。そして実際には、将来に悩んでいるグラビアタレントだったり、小さな舞台で頑張っている女優志望の方たちだけが、被害に遭ってしまうわけです。

芸能プロ関係者が語る園子温監督の性加害…それはスキャンダルなのか構造的性差別なのかの画像3
女優・吉高由里子は自身のTwitterで、性加害疑惑に揺れる映画界について言及した。(画像は吉高由里子公式Twitterより)

「それだけが映画業界ではない」との強い意志を感じさせた、吉高由里子のTwitter投稿

 ただし、それが強引な性加害ではないく、まじめな交際を経ての恋人同士となれば話は別。園氏は、『愛のむきだし』(2009年)に出演していた満島ひかりさんとほんの一瞬だけ交際をしていたと聞きます。満島ひかりさんは当時、ユマニテという、役者系の中堅事務所の所属でした。

 ところが園氏は、満島さんにあっという間に振られてしまう。振られて傷ついている園氏をかいがいしく慰めてあげたのが、結婚したのが、いまの奥様である神楽坂恵さんだそうです。満島さんはその後、『川の底からこんにちは』(2009年)で出会った石井裕也監督と結婚していますし(2016年に離婚)、彼女がきっと、監督と恋愛関係に陥りやすいタイプの女優さんなのではないかと思います。

 実際、映画監督と女優の交際なんてものは、表に出ていないだけで腐るほどあります。映画監督って普通は、それくらいモテる職業。なのに彼らは、なぜ報道されたような所業におよんだのか……。まあ、問題行為だからこそ、こうしていま、性加害として問題化しているわけですが。

 ちなみに、園氏の映画『紀子の食卓』(2006年)がデビュー作だった女優の吉高由里子さんは、園氏の性加害報道の翌日、

「はぁ…なんかそんな件で名前を聞きたくなかった方々が…よくない。優越ある地位を利用して夢に向かう姿を欺くなんて。本当に残念」

「被害者の方は名前を見るだけで深く長く強く苦しむんだから 悲しいや そんな世界だと思われてしまう 真摯に熱意をもって作ってる方達に失礼です」

などとTwitterに投稿。暗に「自分は被害者ではない」というメッセージを発信するとともに、性搾取が起きやすい土壌はあるにせよ、それだけが映画業界だと思われるのはたまらない……という彼女なりの強い思いがあったように、私には感じられました。

“園子温監督の右腕”ともされる有名プロデューサーの、より悪質な性加害

 個人的に、今回の一連の報道でより罪が重いと感じたのは、「週刊文春」4月14日号で報じられた、梅川治男プロデューサーの1件です。梅川氏は、園氏とタッグを組み『蛇にピアス』(2008年)、『愛のむきだし』(2009年)、『ヒミズ』(2012年)などを手がけてきたことから、「園子温監督の右腕」とも呼ばれる有名プロデューサーで、園氏だけでなく多くの監督と仕事をしています。脱ぎシーンのある映画が多いので、そういった作品で、オーディションや面談といった名目で若手の女優を飲みに誘い出して性加害を行っていたのだろう……と推測するのはたやすいです。

 報道によれば、女優さんを食事に誘ってわいせつな話をし、性的な写真を送るように強要したことや、性行為を断るといったん決定していたキャスティングが降板になった……などの告発がありました。それが真実なのだとすれば、梅川氏のケースのほうがより深刻なのではないかと思います。

 というのも、先述した通り女優さんと映画監督が恋愛関係になるケースはまだあっても、プロデューサーと女優が恋愛関係になるケースなど、なかなかありません。悲しいかな手を出すプロデューサー連中はたくさんいますが、たいてい、遊びの関係や不倫ばかり。ですが、キャスティングやギャラの差配などについて監督よりも大きな決定権を持っているプロデューサーにこそ媚びる女性も決して少なくはない。だからこそ、より悪質なのですよね。

芸能プロ関係者が語る園子温監督の性加害…それはスキャンダルなのか構造的性差別なのかの画像4
ジャーナリスト・伊藤詩織が自身のレイプ被害を実名で告発した手記『Black Box』(2017年に文藝春秋から出版)。彼女の勇気ある行動は日本の「#MeToo」運動の先駆けとなった。(画像は同作品の表紙より)

昼ドラ制作の有名プロデューサー、なぜか毎回“違う女優”を端役にキャスティング

 今回、女優の性被害が暴かれたのは映画業界でしたが、ドラマ業界においても、僕は同様のケースを死ぬほど耳にしてきました。

 たとえば、シリーズものの昼ドラを担当していたある制作会社の有名プロデューサーがいるのですが、大手プロダクション所属の女優さんが主演を張る横で、「社員その2」みたいなちょっとしたレギュラー枠に、毎回そのプロデューサーと関係を持った女性がキャスティングされている……といった例。シリーズごとに毎回違う女優さんがキャスティングされるので、露骨すぎてすぐわかりますし……きっとこの業界の方ならば、“あの人”のことだなとわかるでしょうね……。

 もちろん“合意”の上でそういった関係を持つ駆け出しの女優の卵みたいな女性も多いですから、周囲がとやかくいうことでもないのかもしれない。けれども、そういうタイプの女性はまわりのスタッフからも軽蔑されますし、そのような枠から売れっ子になった方など、皆無でしょう。本当に才能があって売れている女優さんは、そもそもそんなことしません。監督やプロデューサーの側が、立場の弱い女優につけ込んだのだ……という側面が大いにあるのはもちろんわかっています。けれども、そういうときに“狙われやすい”のは、そういったタイプの方なのだ……というのもまた、一面の事実であるとは、個人的には思いますね。

#MeToo運動の嚆矢、ハーヴェイ・ワインスタインは懲役23年の判決を受け、現在も拘置所に収監中

 ですがこの手の話は、以前ならば記事にもならなかったと思います。「合意でしょ?」「〇〇の女なんだから、しょうがないじゃん」で終わっていたものが、いまは記事になる時代になってきたというのが、今回の一連の報道における、注目すべき点だと思います。

 ハリウッドから10年遅れて「#MeToo」運動がやってきたともいわれますが、個人的には、その告発が雑誌メディアでなされたということは注目すべき点かと思います。一連の流れの始まりは「週刊文春」へのタレコミだと思うのですが、取材を進めていくうちに、次から次へと新しいネタが発掘され、ひとつ掲載するごとにまた新しいタレコミが寄せられるという連鎖が生まれていったというのが、今回の流れだと思います。ただし、ハリウッドを席巻した「#MeToo」と異なるのは、匿名での告発が多いという点だと思います。

 アメリカにおける「#MeToo」運動の発端は、『セックスと嘘とビデオテープ』(1989年)、『クライング・ゲーム』(1993年)など多くの独立系映画をヒットさせてきた大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインへの告発でした。

 ニューヨーク・タイムズの2人の女性記者は、ワインスタインの卑劣なセクハラや性的暴行を暴くために、1年近くにわたって被害者らを取材しました。このとき、著名女優を含めた十数人の女性に実名で証言をしてもらうため、粘り強く交渉し、奔走したといいます。ここには、スキャンダルとして扱いがちな日本の週刊誌は違う、啓発的な意味合いの強さが感じられますよね。その結果、告発はSNSでの「#MeToo」運動とともに大きな広がりを見せ、ワインスタイン氏は逮捕。裁判の結果、第3級強姦罪と第1級性的暴行罪で有罪判決を受けて懲役23年の判決が下され、現在も拘置所に収監されています。

単なるスキャンダルとしてとらえるのか、エンタメ業界の構造的な性差別の問題としてとらえるのか

 日本では榊監督からの被害者として、元女優で現在はアクティビストとして活動されている石川優実さんが実名告発をしましたが、そこから社会的な問題として、裁判や記者会見といった展開にはなかなかなりませんでした。

 そういった意味では、どちらかといえば、ジャーナリストの伊藤詩織さんが元TBS記者の山口敬之氏に性的暴行を受けたと訴え現在の係争中の一件のほうが、より海外における「#MeToo」に近いと思います。しっかり会見に臨んで裁判まで持っていくのと、週刊誌での匿名告発との差異が生まれる背景には、もちろん文化の違いもあるでしょう。しかし、単なるスキャンダルとしてとらえるのか、それともエンタメ業界に埋め込まれた構造的な性差別の問題としてとらえるのか……という視点の問題も大きいように思われますよね。

 ちなみに、園子温監督は、報道を受けて自身の公式サイトに謝罪文を公開したものの、内容に事実と異なる点があるとして、発行元の主婦と生活社に損害賠償などを求め訴訟を提起しています。第1回の口頭弁論は6月29日に東京地裁で開かれた……との報道がありましたが、自身の公式サイトで「裁判の中で、記事の内容が事実でないことを明らかにして参りたいと考えております」との主張をしていた園監督が法廷の場で何を語るのか。今後の行方に注視していきたいと思います。

(構成/エリンギ)

芸能吉之助/芸能マネージャー

芸能吉之助/芸能マネージャー

弱小芸能プロダクション“X”の代表を務める、30代後半の現役芸能マネージャー。趣味は食べ歩きで、出没エリアは四谷・荒木町。座右の銘は「転がる石には苔が生えぬ」。

Twitter:@gei_kichinosuke

芸能プロ関係者が語る園子温監督の性加害…それはスキャンダルなのか構造的性差別なのかのページです。ビジネスジャーナルは、企業、, , , , , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!