性行為を強要されたなどとして4人の女優が俳優・映画監督の榊英雄氏を週刊誌に告発した問題を受け、榊氏が監督した映画『蜜月』(配給:アークエンタテインメント)の公式サイトは、公開の一時中止を発表し、前売り券の払い戻しする意向を示した。「文春オンライン」(文藝春秋)が9日、記事『「性被害」映画監督による性加害を女優が告発 脚本家からも疑問の声』で疑惑を報じた。同日、「文春」の記事でも登場する同映画の脚本家、港岳彦氏も自身の公式Twitterアカウントでこの問題に触れ、同記事中の榊氏のコメントについて以下のように投稿。「ミスリードとなる」「性被害を矮小化している」などと改めて不快感を示した。
ぼくの脚本作「蜜月」の榊英雄監督が起こしたとされる性暴力、性的行為の強要について、週刊文春から取材を受けました。紙は明日発売で、電子版は有料です。なお記事内には酷い性暴力の記述があります。ご注意ください。https://t.co/1TacG68ueT
— 港岳彦 (@minatotakehiko) March 9, 2022
港氏は、榊氏が記事中、「ともに苦労してきた脚本家から始まったこの出来事は、ぼくにとってどうしようもなく途方に暮れております」とコメントしていた点を問題視。疑惑を告発したのが港氏のように読めることをミスリードと断じ、「ぼくが今回の件を告発したように読まれる方もいると思いますが、事実は違います」と指摘した。
そのうえで、以下のように投稿し、「榊氏のコメントは、性被害の甚大さを矮小化しています」と不快感を示した。
「被害女性の一人が性被害を告発し、それを人づてに耳にしたぼくが、事実確認と見解を、榊氏及び『蜜月』の製作陣に問いただしたところ、無回答だった。その直後、別のルートから事件を知った週刊文春の記者が『性被害を扱った映画』と言われる『蜜月』の脚本家のところに取材に来た、という流れです」
「今回の報道の始まりは、被害にあったとされる女性の告発だったことをはっきりさせておきたい。そうしたリスクを引き受けてまで、あえて被害を告発する行為は、大変に重く、大きな勇気を必要とするもののはずです。それを別の事象にすり替える榊氏のコメントは、性被害の甚大さを矮小化しています」
ハリウッドの“#MeToo”を彷彿
『蜜月』製作委員会は公式サイト上で、公開を一旦中止にすると発表した上で、「前売り券の払い戻し等につきましては改めまして公式HPにてご報告させていただきます」と記載した。疑惑噴出による巨額損失は不可避の情勢だ。映画配給会社関係者は語る。
「ハリウッドの“#MeToo”事件を彷彿とさせる深刻な疑惑だと思います。“#MeToo”は家庭での性虐待の被害者支援の運動として始まり、2017年、米ニューヨーク・タイムズが、ハリウッドの大物映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインが、数十年にわたって自身の立場を利用し、出演女優らにセクシャルハラスメントや性的虐待をしていたことを告発したことで広まりました。
被害を受けた女優らが実名で名乗り出たことで、ハリウッドでは同様の告発が続出し、業界の体質に対し世界中から批判が寄せられました。そのため、日本映画界でもそうしたことがないように製作関係者に呼び掛けていたのですが……。
ちなみに『蜜月』は家庭内の性被害をテーマに扱った作品です。まさに“#MeToo”の運動の核心ともいうべきテーマに切り込んだ作品であるのに、その製作陣にワインスタインと同様のスキャンダルが生じたといいえるのです。報道が正しいのだとすれば、ハリウッドと同様の案件である『蜜月』製作委員会が公開中止で巨額の損失を被るだけにはとどまらず、日本映画界全体が世界中から批判を浴びる可能性もあります。記事の榊監督のコメントを読む限り、自分が撮影していた作品のテーマがどういうものか、また取材されている問題の深刻さをわかっていたのか疑問です」
映画業界関係者はいう。
「榊さんは過去、監督する映画(『誘拐ラプソディー』)のクランプアップ後に出演者の押尾学が逮捕され、自身がその代役を務めて撮り直し完成にこぎつけるなど、“男気のある監督”として業界内では有名人。それほどメジャーな作品は手掛けてきてはいないものの、着実にキャリアと実績を重ねてきただけに、驚いている。
『文春』によれば、榊さんは相手女性と合意を得ずに強制的に行為に及んだということなので、到底許されるものではないが、榊さんの場合、ルックスも良く、ワークショップ的な活動もやっていたので、女優を目指す女性と知り合う機会もあったのかもしれない。
ただ、監督やプロデューサーといった立場を利用して“女優の卵”のような女性と関係を持つというのは、この業界的には“やってはいけない”こととされている。映画公開が中止になり、彼がどれほどの損害賠償を背負うのかはわからないが、今後、監督してやっていくのはかなり厳しいでしょう」
(文=Business Journal編集部)