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感染症学会、コロナ受診自粛を要請…「患者の利益優先」放棄、医療機関の利益優先

文=Business Journal編集部、協力=上昌広/医療ガバナンス研究所理事長
『「限りある医療資源を有効活用するための医療機関受診及び救急⾞利用に関する4学会声明」公表にあたって』(日本感染症学会のHPより)
『「限りある医療資源を有効活用するための医療機関受診及び救急⾞利用に関する4学会声明」公表にあたって』(日本感染症学会のHPより)

 日本感染症学会など4学会は2日、新型コロナウイルス感染症に関して「症状が軽い場合は、検査や薬のため医療機関を受診することは避けてほしい」とする共同声明を発表。さらに4日には厚労省が自治体に向けて、医療機関の受診に関して同声明を参考にするよう通知したが、コロナ患者の治療にあたる医療現場の医師から異論の声が上がるなど、議論を呼んでいる。

 日本感染症学会などは共同声明で、受診自粛の上で自宅での抗原検査キット活用や市販薬の服用をするように求め、次のように説明した。

「順調に経過すれば風邪と大きな違いはない」
「オミクロン株は平均3日で急性期症状が出現するが、ほとんどが2~4日で軽くなる」

 一方、37.5度以上の発熱が4日以上続く場合や65歳以上の人、基礎疾患がある人、妊娠中の人などは重症になる可能性があるため早めにかかりつけ医に相談するよう呼び掛けた。

 病院での受診自粛要請とも受け取れる声明を受け、医療界の内外でさまざまな議論が起きている。たとえばナビタスクリニック理事長の久住英二医師はTwitter上で次のように投稿している。

「たいして熱ないけどコロナ、の重症化高リスク者なんて沢山いる」

「・発熱外来というネーミング ・熱がない人は医者来るな、という学会 この二つが、診断遅れから重症者の増加を招いているのではないか?」

「曲がりなりにも『学会』というからには、コロナ患者が37.5℃、4日間待った上で受診した場合と、すぐ受診した人とで、重症化や死亡リスクを比較して、劣らないことを確認したのだろうか?」

 また、インターパーク倉持呼吸器内科の倉持仁院長もTwitter上で次のように疑問を投げかけている。

「37.5度4日間は国民の誤解だった? 今ここ復活は誤解ではなく受診抑制核心の策。感度悪い抗原検査と抑制で国民の健康をどうにかしてしまいたいのだろうか?」

「一生懸命患者さんをみている救急の病院が見切れないから軽症の方は控えてならわかるが、ただの学術団体が受診をするなとはあなたたちにそんなこと言う権限も資格も立場にもないと思います。勘違いも甚だしいと思います」

 感染症学会などは受診自粛を求める理由について、「多くの医療機関において救急外来・発熱外来の逼迫、更には救急車利用の拡大による救急要請に対応できないなど、コロナ以外の一般診療に対する影響も大きくなっており、まさに危機的状況となっております。こうした状況を少しでも改善させるため」としているが、今回の共同声明が患者の“受診控え”を招いてかえって重症者や死亡者の増加につながる懸念はないのだろうか。医師で医療ガバナンス研究所理事長の上昌広氏に解説してもらった。

膨大な数のコロナ自粛関連死

 8月4日、厚労省は医療機関の受診に関し、日本感染症学会など4学会の提言を参考にするように自治体に通知した。この提言は8月2日に出されたもので、医療機関の受診を、37.5度以上の発熱が4日以上続く場合、65才以上、基礎疾患がある人などに限定するように呼びかけたものだ。

 同日、コロナ感染症対策分科会の有志のメンバーも記者会見を開き、保健所が濃厚接触者を特定しないことを容認すること、感染者数の全数把握の段階的中止、保健所による一律の健康観察の中止を求めた。彼らが緊急提言した理由として、尾身茂分科会会長は、「医療機関や保健所の現場は限界に来ている」ことを挙げている。

 厚労省・学会・分科会の動きは、密接に連携したものだ。私は彼らの行動を情けなく思う。それはコロナ禍で不安を抱える国民視点がないからだ。誰が重症化するかなど、発熱や年齢だけで予想できない。主治医と患者が話し合い、個別に対応しなければならない。彼らの議論から、患者に対する思いは伝わらない。それは、彼らが関心を抱いているのは、医療機関と保健所の負担を減らすことで、患者の不安に寄り添うことではないからだろう。医師としての責務を放棄している。

 医師は、どんなことがあっても患者の利益を最優先しなければならない。これは古代ギリシャの「ヒポクラテスの誓い」以来の伝統で、第二次世界大戦で上司の命令に従い人体実験を行ったナチの医師たちがニュールンベルグ裁判で死刑判決を受けるなど、様々な苦い経験を経て、世界のコンセンサスとなった。ところが、医系技官や尾身氏のような公衆衛生医のあり方は微妙だ。今回の病床逼迫対応のように、社会と患者で利益相反が生じた際、いかに行動すべきか職業規範が確立していない。古代から存在する医師と比べ、19世紀の産業革命以降の歴史しかない公衆衛生医は、まだ発展段階にある。状況次第で暴走し、社会に被害をもたらす。

 今回も暴走した。そして、社会に大きな損害を与えた。3月10日、米ワシントン大学の研究チームが、英「ランセット」誌に発表した論文は示唆に富む。彼らは74カ国と地域を対象に、2020年1月から21年12月までの超過死亡を推定した。超過死亡とは、過去の死亡統計や高齢化の進行から予想される死亡者数と、実際の死亡者数を比較した数字だ。この研究で、日本の超過死亡数は11万1,000人と推定され、確認されたコロナによる死者1万8,400人の6.0倍だった。この数字は、経済協力開発機構(OECD)加盟38カ国中で最高だった。日本で重症者や死者にコロナ検査をしていないとは考えにくく、慢性疾患の悪化により体調を崩した高齢者が多かったのだろう。日本では、膨大な数の自粛関連死が起こっていたことになる。

間違っていたコロナ対策の基本方針

 繰り返すが、こうなったのは、コロナ対策の基本方針が間違っていたからだ。医師は、患者の利益を優先しなければならない。それは、患者のためだけではない。社会にも大きく貢献する。患者のニーズを徹底的に追求することが医学を進歩させる原動力となるからだ。

 コロナ対応も例外ではない。コロナ流行当初、感染を恐れた世界中の人々は、「病院に行きたくない。他者と接触したくない」と希望した。このようなニーズに応えるべく研究が進んだのが、遠隔診療・在宅検査・センシング技術の開発だ。昨年11月、米ジョンソン・エンド・ジョンソン社は、糖尿病治療薬カナグリフロジンの第3相臨床試験を、被験者が医療機関に通院することなく、全てバーチャルでやり遂げた。米国では、ユナイテッドヘルスケア社などが、遠隔診療に限定したプライマリケアを提供する保険の販売を開始している。

 このような社会システムを開発したことは、コロナ医療だけでなく、医師不足に悩む僻地医療問題の解決にも貢献する。第7波になっても、臆面もなく、保健所や医療機関を逼迫させないため、受診の自粛を求める厚労省や周囲の専門家とは対照的だ。

 我が国の問題は、このような本質について議論せず、コロナを感染症法の二類から五類に変更する、全例届け出をやめるなど些末な話に終始することだ。コロナ対策のあり方を抜本的に見直さねばならない。

(文=Business Journal編集部、協力=上昌広/医療ガバナンス研究所理事長)

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