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千葉哲幸「フードサービス最前線」

月26万人が来場…浅草横町、20~30代が殺到する理由 SNS&リアル集客戦略

文=千葉哲幸/フードサービスジャーナリスト
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東京・浅草横町
フロアの中央部に吹き抜け状でエスカレーターが設けられていることから、フロアが混雑していても窮屈な印象を抱かせない

 コロナ禍が収束しないなかでも、本来にぎやかなところに人通りが戻ってきている。東京・浅草も同様。その浅草のなかでも、今ひときわにぎやかなスポットが「食と祭りの殿堂 浅草横町」(浅草横町)だ。場所は浅草寺の近く、ドン・キホーテの向かいの東京楽天地浅草ビルという商業施設の4階、7月1日にオープンして2カ月以上が経過している。

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壁から天井まで、至る所に遊び心が満載の装飾が施されていて飽きさせない

 ここの特徴は大きく2つ。まず、人が集まりにくいとされている“空中階”にありながら、とてもにぎわっていること。そして、このにぎわいをつくっているのが20代から30代半ばまで、マーケティングの世界でMZ世代(ミレニアル世代とZ世代)と呼ばれている世代であること。「MZ世代とは何か」を知りたかったら「浅草横町」に行けばわかる。筆者は還暦世代だが、浅草という昔ながらの観光地というイメージがありながら、筆者の世代は皆無である。

「浅草横町」は約330坪(一般的なファミリーレストランの3倍強の広さ)のワンフロアで7つの飲食店と着物レンタル1店舗で構成されている。ここの月商計画は3000万円だが、初月7月の売上は計画の倍以上となった。客数は平日で6000人、土日祝日はその2倍、7月の合計は26万人となった。8月はお盆期間中に雨が続き7月ほどの数字に至っていないが活気はそのまま、9月に入って再び勢いが増しているようだ。

 7つの飲食店は以下のようになっている。うな串「いづも」34席、大衆食堂「ロッキーカナイ」97席、韓国料理「ハンマート」80席、すし「浅草すし」27席、焼き鳥「ユラユラ」63席、ホルモン「ホルモン ペペ」84席。現状、売上上位店舗は、1位いづも、2位ロッキーカナイ、3位ハンマートとなっている。日中はみな昼酒を楽しみ、夕方時から各店舗に長い行列ができる。

 ビルの4階にMZ世代がメインで連日大いににぎわっている。その理由は何だろうか。

ビル中の“お祭り”をビルの外と同化させる

「浅草横町」をプロデュースしたのは株式会社スパイスワークスホールディングス(SWHD、本社/東京都台東区、代表/下遠野亘)。約100店舗の飲食店を運営するほか、飲食店の内装設計及び商業施設の環境デザイン、宿泊施設の運営、商業施設の企画プロデュースを事業としている。代表の下遠野氏は「飲食」に関わるトータルプロデュースが評判を呼び多方面で活躍している。

 同社に東京楽天地から相談があったのは3年前のこと。同社では東京楽天地のグループ理念「東京下町の大衆に健全な娯楽を提供する」ということに大いに共感して、なんとか具体化したいと考えた。しかしながら、物件が“ビルの4階”ということで大いに悩んだ。

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8月27日夕方のパフォーマンスの様子。一瞬シュールな印象を受けるが「浅草横町」の中に溶け込んでいる

 そして。その解決策として打ち出したことは、「ビルの中と外の町が一体化すること」であった。下遠野氏はこう語る。

「日本の商業施設はいってみれば“おりこうちゃん”です。ビルの中の“におい”というものが外に伝わっていない。これが外に伝わることによってビルの中は街と一体化するのです。4階にある“ビル中横丁”でお祭りをテーマにするのであれば、そのお祭りはビルの全体を練り歩き、ビルの外にあふれ出すような感じで打ち出していかないと。そこで7月1日のオープニングの時は、浅草サンバカーニバルが『浅草横町』から下の階にあるユニクロさんを巡って浅草の街の中を踊り巡りました。今はよさこいとか阿波踊りが巡っています。だから、私たちは外でビラ配りをするのではなく、バカ殿様や忍者をやったほうがいい」

 この下遠野氏の談話を確認するべく、筆者は土曜日の8月27日「浅草横町」で展開されるパフォーマンスを見に行った。この日のパフォーマーは「盆女」(ぼんじょ)という日本舞踊のユニット。17時30分に狐の仮面をかぶった振袖姿の4人が「浅草横町」が入っている東京楽天地浅草ビルの下を民謡に合わせ踊りながら淡々と進み、道行く人はそれを写メする光景が見られた。浅草の風物としてすでに定着している印象を受けた。

 18時から「浅草横町」のフロアで踊り、飲食店の各店内に入ってマイペースで淡々と踊る。そして中央に設けられたステージでも踊りを披露し、来場のお客を招いて盆踊りを楽しんでいた。

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フロアの中が混雑していても、飲食店の行列は途切れることがない

TikTokとYouTubeで熱心に発信

「浅草横町」を運営するのは株式会社Hi-STAND(本社/東京都品川区、代表/戸田博章)。同社代表の戸田氏はバーテンダーから転じてSWHDの前身に入社して、店舗運営からブランドマネージャーを歴任。2012年に個人事業主として独立、2014年に現在の会社を立ち上げ、SWHDのグループ会社24社で構成される「ファミリーのれん会」の一員として活躍している。

 戸田氏の前職の代表である下遠野氏との関係性を例えていえば、戸田氏は下遠野氏の“一番弟子”。下遠野氏からの信頼があついからこそ、SWHDの大きなプロジェクトを継承している。戸田氏が“ビルの4階にある横丁”の集客対策として考えたことは「TikTok、YouTubeでバズらせること」であった。戸田氏はこう語る。

「新しくできた施設がテレビで紹介されると40代50代の人がやってきます。しかし、MZ世代といわれる20代から30代半ばの世代はテレビではなくTikTokとYouTubeから情報を得ている。そこでここでバズると『この風景と同化したい』ということで、そこに行く動機が強烈に高まることになります」

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「浅草横町のアンバサダー募集」の告知。これがきっかけとなって「浅草横町」のにぎわいがつくられていった

 戸田氏は1981年1月生まれでいま41歳だが、ライフスタイルや考え方はMZ世代そのもの。戸田氏の会社では飲食店19店舗、180人の従業員を率いているが、この感覚を持ってMZ世代の従業員を束ねている。そこでこのたび「浅草横町」を運営することになって「ぜひ、やってみたい企画」に取り組んだ。

人を集める企画の絶好のテキスト

「それは『浅草横町のアンバサダー募集』。オープンが7月1日で、その1カ月前の6月1日から8月31日まで『#浅草横町』『#浅草』の投稿をしてもらい、『どれくらい浅草ラブなのか』をアピールしてもらう。最初400人くらいのインフルエンサーから100人に絞りバズらせる。最終的に5人に絞る。このように、ここと浅草をバズらせることによって“横丁”が4階にあっても集客できるのではないかと思っていました」

 この試みは思いのほか強烈な集客力をもたらしているようだ。それが月商計画に対して2倍以上のレベルで推移している状況に表れている。現在、食材のストックから人員配置に至るまで予想外のことが起きていることから、運営者としてはオペレーションを鍛える絶好の機会をもたらされた。

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「浅草横町」平面プランのイラスト。ロゴや装飾品のつくり込みが細かく充実している

「ここは観光地です。地元の人も週に一回は来てくださるかもしれないが、ほとんどが『流動的新規客』です。店の利用の仕方は、一杯飲んで定番のメニューを食べて、ほかの店を巡るというパターン。肌感覚で1.8店舗を回っているようです。ここでのホスピタリティを町場で営業しているものと同じレベルで維持していかなければならない。ここで培ったノウハウは、地方都市などで集客する企画を持っている人たちに役立たせることができるのではないかと考えています」

 戸田氏はこのように語り、不利な立地と想定される場面での新しい集客方法について手応えを得ている。

 このような「浅草横町」のにぎわいをつくったストーリーを聞き、この中で昼酒を楽しんでいるMZ世代を見ていてふと気づいたこと。いま、MZ世代に店の存在感が届いていないと、これから注目されるチャンスはないのでは。商売はSNSでの発信が基本となる、ということだ。

(文=千葉哲幸/フードサービスジャーナリスト)

千葉哲幸/フードサービスジャーナリスト

千葉哲幸/フードサービスジャーナリスト

フードサービス業界の経営専門誌である『月刊食堂』(柴田書店)、『飲食店経営』(商業界、当時)とライバル誌両方の編集長を歴任。2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく、最新の動向もリポートする。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社、2017年)。

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