いま「学生食堂」(以下、学食)運営の新しい傑出したノウハウを持つ飲食企業としてORIENTALFOODS(本社/東京都品川区、代表/米田勝栄、以下オリエンタルフーズ)が注目されている。
その発端は、「日本一の学食」の「東洋大学白山キャンパス6号館地下1階学生食堂」を運営していること。この学食がこう称されるようになったのは、早稲田大学のサークル「早稲田大学学食研究会」がそのように認定したことに始まる。これは同サークルが独自に行っていることで、厳密な客観性は存在しない。しかしながら、類似の媒体が続々とここを「日本一の学食」と認めるようになったことから、いつしかこれが定説となった。
この学食は客席数1300、ここに7つの専門店(インドカレー、カフェ、パスタ、洋食、鉄鍋ごはん、窯焼き料理、韓国料理)が出店し、フードコートの形態を取っている。メニューの価格は一律550円(税込)から、一般の飲食店では1000円に相当するクオリティを、この価格で提供していて、限られた時間でニーズに応えるというスピード提供を行っている。オリエンタルフーズはこの中で、洋食、鉄鍋ごはん、窯焼き料理の3店舗を営んでいて、さらに「洗い場」業務と同施設のマネジメントを担当している。
実店舗を構え学食の休業期間を補う
オリエンタルフーズが「日本一の学食」の一員となり、後述するが学食運営の新しいノウハウを持つようになった経緯はこうだ。
同社代表の米田氏は1974年3月生まれ。専門学校を卒業後、都ホテルのバーテンダー、オーストラリアでのワーキングホリデーなどさまざまな形で飲食業を経験。2004年30歳の時に個人事業主としてバーを運営受託した。この時、東洋大学学食の一部でカフェの立て直しを任されることになった。そこで同社は当初日商3万円に満たない店舗を16万円あたりまで引き上げた。そして、06年8月にオリエンタルフーズを設立。
このカフェの運営はリセットすることになり同社の運営受託はいったん終了。その後、リニューアルする過程でこの施設をプロデュースする会社から出店を要請される。このリニューアル後の学食はたちまちにして「日本一の学食」となった。
学食運営の事業者にとって大きな課題は、大学が年間約4カ月間休業し、この間学食を運営できないということだ。オリエンタルフーズはこの休業期間を一般の飲食店のオペレーションを臨時で請け負うことで売上をまかなっていた。具体的には、東京・五反田の東急池上線高架下の「五反田桜小路」に肉バルやワイン販売店を出店することによって、常設の飲食店を構えることができた。これによって後述する五反田のイベント等に参加するようになり、このノウハウが整っていくにつれて事業内容が広がっていった。
フードトラックに学食のノウハウ生かす
また、フードトラックの事業にも着手した。きっかけは学食運営で培ったスピーディな調理、販売予測とロス管理のノウハウがこの分野に生かせると考えたからだ。これを手掛けるようになってから、産地との関係性が深まるようになり、淡路島、鹿児島、北海道、山口、高知、福岡、山梨等々、産地の食材を使用したフードメニューを提供、フードトラックが都会で営業することによって地方活性化につなげるプロジェクトに発展するようになった。現状、フードトラックは3台保有している。
オリエンタルフーズでは、東洋大学での学食、五反田でのリアル店舗、フードトラックと店舗運営の形態が広がっていったが、それぞれの運営に関して学生に積極的に参画してもらう仕組みをつくっていった。これは学食で学生に触れる機会が多いなかで米田氏自身がひらめいたという。米田氏はこう語る。
「学生のアイデアは斬新で、それが実際の営業に新しいアイデアとして生かされると働いているわれわれが触発される。そして、アイデアが採用され実績として現れた学生にとって、その教育的効果はとても大きいと考えるようになった」
五反田桜小路でリアル店舗を構えたことがきっかけとなり、五反田駅前の肉フェスである「五反田G1グランプリ」に参加するようになった。同社はここで2014年と19年に優勝しているが、19年に優勝した「伝説の牛カツ赤ワインソース」は学生アルバイトが提案した企画であった。このほか、肉バルでも学生アルバイトのアイデアをメニュー化した事例が数多くある。
このような活動が、20年3月放送の「カンブリア宮殿」(テレビ東京)で紹介されたところ、大きな反響があった。それは「新しい学食運営」の依頼である。
DXから地域活性化までも網羅する
「学食」は今や大学をブランディングする役割を担っている。食を扱うビジネスとして、生産者とのつながりがあり、マネジメントがあり、DXがあり、という具合にこれからの社会に必要とされるエッセンスが詰め込まれている。そこで、同社の活動はこれからの大学と学食の在り方を模索する人々から熱く注目された。
その第一弾は、桃山学院教育大学(大阪府堺市)。オリエンタルフーズが同校から求められた「新しい学食運営」のあり方とは、このような内容だ。
(1)スマート食堂(モバイルオーダー、AI、テクノロジーの導入)
(2)ベンチャー食堂(経営体験、メニューコンテスト、空きスペースプロジェクト)
(3)FOODFOODプロジェクト(地域とつながる、地域活性化)
桃山学院大学の学食は天井が高く開放感がある
まず、(1)の「スマート食堂」とは。「並ばない」「触らない」「非接触」のモバイルオーダーをはじめ、これからはAIによってその日の注文予測や1カ月先の売上などがわかることから、食品ロス問題や残飯問題なども解決。売店には無人レジの導入も検討。
(2)の「ベンチャー食堂」とは。食堂や売店の空きスペースをビジネス的に活用する提案であり、食堂のメニューコンテストなども含まれる。洗い場を手伝った対価として食事が無料となる企画等々、食堂がきっかけとなったアイデアを引き出す。
さらに、(3)の「FOODFOODプロジェクト」とは。学食が地域と連携することによって地域活性化と地域社会貢献につながる。地産地消をはじめ、子ども食堂の導入など地域の人々にも活発に学食を利用してもらい、学食を地域社会になくてはならない存在にする。
まさに「学食」は次世代に向けた大きな存在意義を秘めている。プロデュース会社である株式会社アンデレパートナーズと提携し桃山学院教育大学での学食運営は2021年4月から受託。さらに、桃山学院大学(大阪府和泉市)の学食運営を今年4月から受託、神戸国際大学(兵庫県神戸市)の学食運営を今年9月からの受託を予定している。
学食を「学びの場」として育む
オリエンタルフーズがコミットする学食プロジェクトは続々と実践されている。先の東洋大学では、5月に同大学のゼミとオリエンタルフーズがコラボ。栃木の生産者とつながったメニューを学生が考案し、同社の店舗で販売。1日50食を即完売した。6月に入り、桃山学院大学の学食プロジェクトメンバー(学生)がキッチンカーのメニューを考案し販売。ルールは「最高に喜ばれるメニューを考案する」「あらゆる手段を尽くして集客する」「いろいろな人を巻き込んでつながりの力を体感する」「他のチームも応援する」――このようにして、9人のプロジェクトメンバーが4チームに分かれて出数を競い合っている。
米田氏はこう語る。
「飲食業とは、製造、マーケティング、提供、そしてお客様の反応に至るまで、一貫して五官で体感できる素晴らしいビジネスです。社会に出ても、ここでの料理が、商品やサービスに変わるだけ。ですから、お客様に喜ばれる商品を徹底的に考える力を養ってほしい」
オリエンタルフーズでは学食運営を進めてきたことで、それを支えてさらに活発にする多めのノウハウを続々と誕生させてきた。そして学食プロジェクトが営まれるようになり、学食は学びの場として育まれるようになっている。
(文=千葉哲幸/フードサービスジャーナリスト)