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千葉哲幸「フードサービス最前線」

“おじさん系”東京MEAT酒場が“おしゃれ系”となっての客単価を激増できた秘密

文=千葉哲幸/フードサービスジャーナリスト
「日本一おいしいミートソース」のネーミングによって看板商品から外販商品へと広がるようになった
「日本一おいしいミートソース」のネーミングによって看板商品から外販商品へと広がるようになった 

 会社経営を継続させるために必要なこと。それは、「売り物」がはっきりとしていること。従業員満足があること。そしてSDGsに取り組んでいること。SDGsに関しては別に大きな会社の話だけではない。これに対し真摯に取り組むことは自社の商品を見直すきっかけとなり、従業員満足にかかわっていく。さらに顧客からの評価につながる。今回は、これらのポイントが線となってつながったストーリーを紹介する。

看板商品のブランディングと拡販に努める

日本一おいしいミートソース」という商品がある。これは「TOSCANA」というカジュアルレストランのネーミングだ。同店を展開するのはイタリアンイノベーションクッチーナ(本社/東京都新宿区、取締役社長/青木秀一)。1992年9月、同社の創業者で現会長の四家公明氏が東京・武蔵小山でパスタ専門店をオープン、試行錯誤しながら繁盛店に育てていった。その端緒となるのが「日本一おいしいミートソース」であった。これはヒットメニューになると共に周囲からよく知られるようになった。

「日本一おいしいミートソース」はやがて店内での外販、EC、そしてコンビニエンスストアをはじめとした小売業へと販売チャネルを拡大していった。ちなみに「日本一おいしい」という表記は景品表示法に抵触することから、イートイン以外では「TOSCANA 濃厚ミートソース」という商品名で流通している。

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「日本一おいしいミートソース」は「TOSCANA 濃厚ミートソース」というネーミングで販路を広げている

 さて、同社では2014年12月に「東京MEAT酒場」という居酒屋を東京・浅草橋にオープンし、その後多店化していった。“ハイボール&もつ煮”が定番といったいわゆる“おじさん系”である。カジュアルイタリアンの会社がなぜ“おじさん系”大衆居酒屋を営業するのだろうか。オープンした当初、当時代表だった四家氏はこのように語っていた。

「イタリア料理店は、オープンしたといっても店の中を伺い知ることはなかなか難しいために立ち上がりに時間がかかる。しかし“おじさん系”の店は外観からして、どのような店なのか想像がつくので立ち上がりが早い」

 こうして同社は「TOSCANA」の“カジュアルイタリアン”と“おじさん系”の両輪で事業を推進するようになった。

“おじさん系”居酒屋のリブランディングを断行

 イタリアンイノベーション(以下、IIC)では2021年5月にプロパーの青木秀一氏が取締役社長に就任した。青木氏は1982年9月生まれ。2001年に当時2店舗の同社に入社する。将来、飲食店で独立することを目標にしていた青木氏は、たちまち頭角を現し実績をつくっていった。「日本一おいしいミートソース」のクオリティアップにも大きく貢献した。独立起業を決意したタイミングで代表の四家氏から「一緒に面白いことをやろう」と言われて経営陣に就き、さまざまな分野の改革を推進していった。

 そうしたなかで、青木氏は「東京MEAT酒場」のリニューアルとリブランディングの必要性を感じるようになっていた。その理由について青木氏はこのように語る。まず、店のクオリティを維持向上させる視点から。

「団体の宴会がなくなるなかで少人数のお客様に利用してもらえるような店にする。食材が高騰していくことから、客単価2800円のレベルでは食材や調味料にこだわることができない。当社の理念は、お客様と末永くお付き合いするために健康的な食材にこだわるというもので、これに反することはしたくない。この点には妥協しない」

 次に、労働環境の視点から。

「当社の従業員が若くなる傾向にあって、以前の業態だった当時、異動があると『あの店に行きたくない』という声があった。店は働く人がプライドを持って働くことが重要だ。従業員が働きたいと思わないと、店の持ち味がお客様に伝わらない」

リブランディングしたことでかつての常連客が来店

 では、リブランディングではどのようなことを行ったのか。この2月にリニューアルオープンした「イタリアン食堂 東京MEAT酒場 浅草総本店」の事例を中心に紹介しよう。

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この2月にリニューアルオープンした「イタリアン食堂 東京MEAT酒場 浅草総本店」

 ハードのリニューアルは、まず、女性客、お一人様、ノンアルコールの人も入りやすいファサードにした。店内はオープンキッチンにして調理風景をアピール、フラットカウンターにすることで従業員とお客との会話が弾むようにした。居心地の良い雰囲気をつくることによって滞在時間が長くなるようにした。

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「浅草総本店」では、1階2階ともにカウンター席を設けて従業員とお客との距離を近くしている

 メニューは、単品価格380円、480円(税込、以下同)の小皿料理を増やした。「おすすめメニュー」として、同社が得意とするパスタを“おつまみ”として利用してもらう「お酒のアテパスタ」をラインアップした。通常のパスタメニューのハーフサイズで、具体的には「カツオ出汁香る。濃厚和風カルボナーラ」680円、「生ウニとイクラのトマトクリーム」980円、「旨辛麻婆アラビアータonふあふあチーズ」680円となっている。

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「イタリアン食堂」としてリブランディングした「東京MEAT酒場」のメニューのイメージ。客単価が2800円から3800円に増えた

 和の大衆業態では串料理が定番となっているが、同ブランドではカダイフ(小麦粉やトウモロコシ粉を原料とした極細麺状の生地)を用いた串の揚げ物をラインアップした。パン粉で揚げたものと比べて、パリパリ感がはっきりとして食感が新鮮である。具体的には「ホクホク染み大根のパリパリ揚げ ポルチーニソース」1本280円、「ラム肉とオリーブのパリパリ揚げ サルサトマト」380円、「カマンベールとトマトのパリパリ揚げ バルサミコ味噌ソース」350円などが挙げられる。

 これらのリニューアルによって、客単価が“おじさん系”当時2800円だったものが、“イタリアン食堂”となってから3800円となった。

「東京MEAT酒場」のリブランディングによって、かつての常連客が再び来店する事例が増えてきた。「リニューアルしたと聞いて楽しみにしていた」という客もいた。ちなみに22年3月末現在、IICの店舗はカジュアルイタリアン11店舗、イタリアン食堂5店舗となっている。

従業員がシードルをつくりお客にアピール

 さらに、オリジナルクラフトシードルの醸造も行った。そのきっかけは、同社と取引のある生産者から相談を受けたこと。その内容は、規格外のリンゴの活用について。相談の元であるリンゴ生産者は長野県飯綱町の「丸西農園」で、月間3トン出てくるこれらのリンゴをなんとかできないか、ということであった。

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普段取引のある生産者からの相談を受けて規格外リンゴの食品ロス対策に取り組むことになった

 そこでひらめいたのが、リンゴを使用したスパークリングワインのシードルを醸造すること。そのために丸西農園と同じエリアにある醸造所の「林檎学校醸造所」を紹介してもらった。こうして、生産者、醸造所、IICの3社によるオリジナルクラフトシードルをつくる合同事業が昨年12月に始まった。IICの総コストは材料費込みで40万円とのこと。

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規格外リンゴでシードルをつくることに従業員が一丸となって取り組んだことによって充実した教育的環境をもたらした

 この事業では、オリジナルクラフトシードルを290本醸造した(1本720㎖)。名称はイタリア語で「再生」を意味する「rinato(リナート)」。価格は1本3900円。店内で飲む時も、ボトルを購入して持ち帰る場合もこの価格で販売した。2月18日よりIICの各店舗で発売を開始したところ3月上旬でほぼ完売した。

 この活動を振り返って青木氏はこう語る。

「まず、社会課題である食材ロスの対策となっている。当社従業員の教育機会にもなっている。みんなで現地に行って様子を見て、みんなでシードルをつくった。だから、当社の従業員はこのストーリーをお客様にしっかりと伝えることができる。今後この活動をシリーズ化しようと考えている」

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イタリアンイノベーションクッチーナのプロパーで昨年5月取締役社長に就任した青木秀一氏

 このようにIICでは、自店のアピールと経営の安定に余念がなく、従業員本位で事業を推進してきた。特にシードル醸造の顛末はSDGsの理念にかなう。これらの活動によって従業員満足は著しく高まり、継続する会社の基盤を整えているといえるのではないか。

(文=千葉哲幸/フードサービスジャーナリスト)

千葉哲幸/フードサービスジャーナリスト

千葉哲幸/フードサービスジャーナリスト

フードサービス業界の経営専門誌である『月刊食堂』(柴田書店)、『飲食店経営』(商業界、当時)とライバル誌両方の編集長を歴任。2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく、最新の動向もリポートする。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社、2017年)。

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