毎年10月に盛り上がるトピックスの一つが「ノーベル賞」の発表だ。
ノーベル賞は1901年、スウェーデンの化学者で、ダイナマイトの発明で知られるアルフレッド・ノーベルの遺言により始まった、「人類に最も貢献した発見」に授与される世界的な賞だ。生理学・医学賞をはじめ、物理学賞、化学賞、文学賞、平和賞、経済学賞の6つの賞があり、授賞式は12月に行われる。
その受賞の内容は一見難しそうに思えるかもしれないが、実はかなり身近であったりする。
たとえば、2021年に物理学賞を受賞した研究内容は「地球温暖化を信頼できる方法で予測した」というもの。
地球学者の眞鍋淑郎氏は1960年代に世界に先駆けて、今、私たちの直面している異常気象の原因となっている地球温暖化の予測に成功した。そして、眞鍋氏が開発した気候モデルはその後多くの科学者に用いられ、世界的に影響を与えている。
このようにノーベル賞の研究内容を知ると、私たち人間の日々の営みとのつながりを見出すことができるのだ。
謎に包まれていた「嗅覚」の仕組みもノーベル賞に
『身の回りにあるノーベル賞がよくわかる本』(かきもち著、翔泳社刊)は、ノーベル賞の中でも自然科学分野(生理学・医学賞、物理学賞、化学賞)で受賞した研究・発見内容が、身近な題材とネコたちをはじめとする豊富なイラストで分かりやすく解説されている一冊だ。
前述の眞鍋氏の研究をはじめ、健康診断でおなじみの「レントゲン写真」に欠かせない「X線」の発見、スマホのバッテリーにも使われているリチウムイオン電池の発明、動物が「におい」を嗅ぎ取る仕組みの解明など、身近で興味深い研究がずらりと並ぶ。
例えば、「におい」の仕組みの解明。この項目を読むと、私たちがいかに多様多種なにおいをかぎ分けているかが分かる。
ヒトには、においのセンサーである嗅覚受容体にかかわる遺伝子が約910個、嗅覚受容体が約500種類あることがわかっており、多種類のセンサーでにおい分子の大きさや形をキャッチし、においを嗅ぎ分けているのだ。
ちなみに、嗅覚は他の感覚と比べて仕組みの解明が遅く、謎に包まれていた感覚だった。この研究でリチャード・アクセル氏とリンダ・B・バック氏がノーベル生理学・医学賞を受賞したのは2004年のことである。
私たちの生活を変える「未来のノーベル賞候補」たち
ただ、本書で解説されているのは、過去の受賞内容だけではない。
科学の研究は常に前に進んでいる。そして、近い将来実現すれば、私たちの生活は大きく変わり、ノーベル賞を受賞するかもしれない研究もある。
本書では、そんなロマン溢れる「未来のノーベル賞候補」を著者独自の視点で9つ選んで紹介している。ここではその中から3つをピックアップしよう。
●人工光合成の実用化
前述した地球温暖化の原因になっている「温室効果ガス」を抑止する鍵として期待されているのが、人工光合成だ。植物が行う光合成を再現し、光と二酸化炭素を利用して、エネルギーや有用な物質を作り出す。
温暖化の抑止だけでなく、将来世界が直面するとされるエネルギー不足の解決策としても注目を集めている。
●宇宙エレベーターの実現
2021年には民間人だけの宇宙旅行が実現するなど、より身近な存在に変わりつつある宇宙。その中で、1960年代に構想されたのが「宇宙エレベーター」だ。
地上からケーブルを伝って宇宙へ人や物を移動させるという壮大な試みだが、実現するための壁は高い。しかし、これが実現すれば誰でも手軽に宇宙へ行くことができるようになるはずだ。
●mRNA治療薬の開発
新型コロナウイルスのワクチンで「mRNA(メッセンジャーRNA)」というワードを知った人も多いだろう。
「mRNA」はDNAからコピーされてつくられる物質。これを用いた治療薬は、従来遺伝子治療に使われてきたDNAよりも発がん性などの危険度が低いとされ、実用化されれば、より安全に遺伝子治療を行うことができると期待されている。
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本書では、各テーマにその研究の概要や分かりやすくまとめられており、それを読むだけでも、人類の偉大な発見に触れることができる。
これらの研究は、自分たちのことを知ろうとする姿勢、未知の世界を知ろうとする飽くなき探求心の結晶の数々であり、私たちの未来をより良いものへと変えていく可能性があるものばかりだ。
科学が苦手でも興味あるトピックが見つかる、老若男女の知的好奇心をかき立てる一冊だ。(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。