観賞用として人気のサボテンは、世界各地の生態系に影響を与え、地球の未来を救う可能性を秘めている。たとえば、ウチサボテンの仲間は、食品や家畜飼料、加工品原料として世界の広い地域で消費されていることが知られている。また、暑さや乾燥に対する耐性が注目され、砂漠化や土壌浸食の防止にも利用されている。サボテンのポテンシャルは今まさに注目を浴びているのである。
6年の干ばつにも耐える コピアポア・シネレアの驚異的な生命力
そんなサボテンの謎めいた生態を紹介するのが『サボテンはすごい!』(堀部貴紀著、ベレ出版刊)だ。本書では、中部大学応用生物学部准教授であり、日本では数少ないサボテン博士の堀部貴紀氏が、「なぜサボテンは高音や乾燥下で生きていけるのか?」「なぜあのような変わった形をしているのか?」などの疑問に科学的な知見に基づいて解説する。
サボテンはなぜ水が少ないところでも生きることができるのか。サボテンを含む多肉植物は、多肉質の茎や葉に多量の水分を貯えることができる。高さ約10メートルのカルネギア・ギガンテアは、体に約7トンもの水分を貯えることができる。体に水分を多量に保持することで、長期間の乾燥に耐えられることができ、コピアポア・シネレアは約6年の干ばつに耐えたという報告もある。
干ばつにも耐えうるその構造はどうなっているのか。サボテンの茎は、外側から表皮、皮層、維管束、髄に大きく分けられる。表皮は主に茎内の水分を逃さない働きをしていて、維管束は養分や水分を運んだり、植物体を支えたりする役割を担っている。根から吸収した水を貯める役割を果たしているのが、主に皮層と髄だ。
サボテンの皮層は2つの領域に分かれおり、外側は光合成を担う領域、内側の領域は水や養分を貯蔵する細胞で構成されている。サボテンが乾燥にさらされたときには、外界との接点である表皮付近の細胞から真っ先に水が失われる。細胞内の水がなくなると、光合成能力も低下してしまう。そこで、皮層内側や髄にある細胞に保持されている水分を移動させることで、皮層外側で光合成を行う細胞の水分量を維持しているのだ。
自宅にサボテンを飾っている人も多いだろう。身近なサボテンがどんな生態なのか。サボテン生物学の入門書として、本書を活用してみてはどうだろう。人気の観葉植物が潜め持った意外なポテンシャルに驚くはずだ。(T・N/新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。