昼時にドリンクバーが空…ガスト閉店ラッシュの理由「選ばれる価値が希薄」との課題
8月、すかいらーくホールディングス(HD)が不採算店舗を中心に約100店舗を閉店すると発表し、大きな衝撃を持って受け止められた。4月以降、前年比を大幅に上回る数値を継続していたさなかであり、2020年後半に200店舗を閉鎖した過去を彷彿させる内容だったからだ。
22年度上期のデリバリー売上高は前年同期比102.2%、テイクアウト売上高は同75.8%。前年同期はコロナ禍で営業時間の短縮など各種宣言が発出されていた時期であり、それと比較しての数値としては物足りない結果であったといえよう。各種宣言が撤廃されたためテイクアウト売上の減少は想定内とみられるが、店内飲食に減少分が上乗せされてしかるべきである。
今年1月から9月までの客数(累計)は前年同期比111.8%、客単価は同103.3%となっている。同社は決算説明会資料で「非日常使い/特別感のある専門的ブランドが好調」と分析している。また収益構造改革として「値上げの実施」「プレミアム商品の投入」を掲げており、ファミリーレストランの持つ課題を克服する上で重要な戦略とされる。
まさに正しい分析であるが、この改革をどのブランドで実践するかにより評価は大きく異なる。もし、主力ブランドのひとつである「ガスト」で実施されれば、消費者に選ばれる価値は上がるのだろうか。価格改定、いわゆる「値上げ」は消費者がもっとも敏感に反応するところであり、一方で原材料等の高騰は避けて通ることのできない経営上の課題である。
8月のIRレポートによると、従業員でコロナ感染者や濃厚接触者が急増したことに伴う営業時間の短縮が最大150店舗に影響を与えたという。コロナ感染にとどまらず、どの業態であっても今や人手の確保は重要な課題となっている。9月には台風14、15号により一部地域が大きな影響を受けた。
さらに10月から最低賃金も改定され、経営に影響を与えると想定される。扶養の範囲内で仕事をしている短時間従業員は、時給が上がることにより1年間の総労働時間数を抑制することになるからだ。一人当たりの就業時間が減ることに伴い、企業側はその代替えとしての人手を確保する必要性が発生し、採用コストが上昇する可能性が出てくる。
「中高価格帯のブランドを持たないチェーン」という認識
ガストは都市圏店舗、そしてロードサイド店舗それぞれに課題を抱えている。ロードサイド店舗の持つ最大の課題は、わかりやすくいえば「選ばれる価値を持たない」こと。唐揚げブランドである「から好し」併設店舗を拡大していたが、それだけで選ばれる価値が向上したとはいえない。
家族で子供を連れて外食する世代が、学生時代に利用した「ガスト」にどんなイメージを持っているのだろうか。例えば高校生や大学生が少ないお小遣いのなかで「安く食べることができ、ドリンクバーを利用して長く滞在できるファミレス」と連想する人が多いのではないだろうか。2016年に廃止されたものの、399円の目玉焼きハンバーグに救われた(?)人も多かったのではないだろうか。また、店内のサービスレベルや清潔感は価格相応であったことも想起される。
そのガストに車で家族を連れて外食に行こうと考える人は、はたして多いのだろうか。ガストは日常使いのカフェレストランであり、非日常使いの高価格帯のファミレスではない。「中高価格帯のブランドを持たないチェーン」と認識している顧客のほうが多いだろう。ロードサイド店の閉店に関してひとつの遠因とも想定され、ガストにブランドを統一した影響をもろに受けたといえるのではないだろうか。
都市型店舗の課題
都市型店舗の課題としては2つある。1つめは、客の収容人数の制限と回転率の問題である。感染予防のため密にできないこと、そしてピークタイムの回転率の悪さが挙げられる。ビジネス街であればランチタイムは長居しない客が多いのかもしれないが、たいていの客は「ごゆっくりどうぞ」と言われれば、その言葉をそのまま受け取り長居してしまう。ランチタイム前に座席が埋まってしまえば、かき入れ時の時間にもかかわらずテイクアウトしか受注できなくなってしまう。
2つ目の課題としては、顧客との呼吸合わせができていないことが挙げられる。例えば筆者がよくリサーチで訪問するガストの学芸大学店では、ランチタイムにドリンクバーが空になっていることが多い(特に人気の「野菜と果実ニンジンミックス」)。このドリンクを目当てに来店する客が多いようだが、ある日は補充までに1時間以上要していたこともある。
当然、店側は客の滞在時間を減らすために空にしていたわけではないだろうが、補充を待って滞在時間が伸びた客もいるだろう。ドリンクバーが客の来店の動機付けになっているチェーンは多く存在するが、ランチタイムにドリンクバーのマシンが故障しているケースは他チェーンでも見かける。ある日の「サイゼリヤ 中目黒店」では「故障中」との紙が貼られたコーヒーマシンを見て舌打ちをする客も見られた。
先進的な取り組みに定評
会社が認識しているブランドイメージと消費者の認識しているそれがかけ離れていれば、どんな戦略を実施しても良い結果にはつながらない。顧客が自由に店を選択できる環境になったことにより、選ばれる価値を持たない店舗やチェーンは苦戦を強いられている。都市圏に店舗を持つチェーンは駅前立地などの利便性により生き残る可能性は高いが、ロードサイド型の店舗は生き残りの可能性は低くなる。客は車で来店するので、価格相応の味わいや雰囲気が求められるからだ。
すかいらーくグループは先進的な取り組みに定評があり、例えばタブレット端末を用いた電子マニュアルを早くに導入している。デリバリー専門店の新設やセルフレジの導入など、コロナ対策と従業員の負担軽減にも取り組んでいる。他社も導入が進む配膳ロボットも稼働しているが、それらが顧客に選ばれる価値とならなければ、市場から淘汰される運命が待っている。
すかいらーくは、値上げを進めても顧客から選ばれる価値を創る外食チェーンであり続けることができるのかが注目される。
(写真・文=重盛高雄/フードアナリスト)