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梅原淳「たかが鉄道、されど鉄道」

臨海地下鉄新線、6kmに建設費5千億円でも絶大な便益?旅客輸送密度などを検証

文=梅原淳/鉄道ジャーナリスト
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「都心部・臨海地域地下鉄構想 事業計画検討会事業計画案」

 東京都は2022(令和4)年11月25日に新たな地下鉄の計画を発表した。地下鉄の名は「都心部・臨海地域地下鉄」といい、新聞やテレビなどではわかりやすい名称として臨海地下鉄新線と示されている。

 臨海地下鉄新線はJRや東京メトロ丸ノ内線が発着する東京駅から東京都江東区有明2丁目付近に設置予定の仮称、有明・東京ビッグサイト駅までの6.1kmを結ぶ。開業は2040(令和22)年までとのことだ。都が発表したルートでは、東京駅の八重洲口側からまずはJR線の東隣を並行して南南西に向かい、0.5km先の有楽町駅付近で向きを変えて今度は南東に5kmほど直進して有明・東京ビッグサイト駅を目指す。終点の有明・東京ビッグサイト駅は東京臨海高速鉄道りんかい線の国際展示場駅やゆりかもめの有明駅の近くだ。

 途中には合わせて5駅の開設が予定されている。駅名はすべて仮称で、東京駅側から新銀座駅(中央区銀座3丁目付近)、新築地駅(同築地5丁目付近)、勝どき駅(同勝どき1・2丁目付近)、晴海駅(同晴海3・4丁目付近)、豊洲市場(とよすしじょう)駅(江東区豊洲6丁目付近)だ。勝どき駅は都営地下鉄大江戸線との乗換駅となるほか、新銀座駅は有楽町駅や東京メトロ有楽町線の銀座一丁目駅、同銀座線や丸ノ内線、日比谷線の銀座駅に、豊洲市場駅はゆりかもめの市場前(しじょうまえ)駅にそれぞれ近い。

 駅と駅との間の距離は平均して約1.0kmとなる。各駅間は東京-新銀座間が約1.0km、新銀座-新築地間が約1.6km、新築地-勝どき間が約0.6km、勝どき-晴海間が約0.7km、晴海-豊洲市場間が約1.1km、豊洲市場-有明・東京ビッグサイト間が約1.1kmだ。

旅客輸送密度

 正式な呼び名のとおり、臨海地下鉄新線は都心部と臨海副都心とを直結する目的で計画された。また、勝どきや晴海など沿線の臨海地域は発展著しい地域で、この地下鉄の開業で利便性は大幅に向上する。国土交通省に設置された交通政策審議会陸上交通分科会鉄道部会が2016(平成28)年7月に公表した分析結果によると、臨海地下鉄新線には多数の利用が望めるという。新銀座-有明・東京ビッグサイト間4.8kmを想定しての試算では、旅客輸送密度といって路線1km当たりの1日の利用者数が4万6400人~4万7200人、朝のラッシュ時に最も混雑する区間の利用者数が7800人~7900人と示された。

 旅客輸送密度とは旅客数に平均乗車距離を乗じた旅客人キロを営業距離で割った数値である。首都圏の通勤路線各線で4万6400人~4万7200人に近い数値を2019(令和元)年度の統計から探すと、京成電鉄千葉線の4万6237人、ゆりかもめの4万7256人、京浜急行電鉄久里浜線の5万0943人だ(以下のデータもすべて2019年度)。

 なお、純粋な利用者数は示されていないものの、新銀座-有明・東京ビッグサイト間4.8kmで、利用者が平均して全体の25パーセントの距離1.2kmを乗車すると仮定して求めてみた。1日平均の利用者数は18万5600人~19万0400人となる。ちなみにこの割合は、東京メトロ銀座線の1日平均111万6427人の利用者が平均して乗車する距離3.6kmが浅草-渋谷間14.2kmの25パーセントとなる点を参考にしたものだ。

 臨海地下鉄新線で見込まれる1日平均の利用者数は、同じく都心部と臨海副都心との間を結ぶゆりかもめの13万0290人よりも多い。ゆりかもめが輸送力の小さな新交通システムである点を差し引いても、利用者数の多さは際立つ。東京駅と東京ビッグサイト駅との間をゆりかもめを利用して行き来しようとすると、新橋駅でJR線との乗り換えが必要なうえ、ゆりかもめ自体が大回りなので、30分は見ておかなくてはならない。新たな地下鉄の平均速度が時速30kmと仮定すると、6.1kmの距離は12分ほどで結ばれる。

 話を戻して、今度は朝のラッシュ時に最も混雑する区間の利用者数である7800人~7900人を首都圏の通勤路線各線と比べてみよう。JR東日本五日市線東秋留(ひがしあきる)駅から拝島駅までの7430人(2016年度)にほぼ匹敵する。なお、有明・東京ビックサイト駅付近を行くりんかい線は大井町駅から品川シーサイド駅までが2万5212人、ゆりかもめは竹芝駅から汐留駅までが6935人だから、かなり控えめな予想と言えそうだ。

費用便益比

 臨海副都心や沿線の人々にとっては大変便利で、輸送需要もそこそこ見込める臨海地下鉄新線ながら、構想の段階で止められていたのには理由がある。建設費が約4200億円~約5100億円、路線1km当たり689億円~836億円と大変高額に上ると見積もられたからだ。

 臨海地下鉄新線を東京都交通局の地下鉄として建設すると、国から建設費の約35パーセント分の地下高速鉄道整備事業費補助が得られる。したがって、都が負担する建設費は約2730億円~約3315億円に減るが、それでも路線1km当たりの建設費は448億円~543億円だ。

 本連載では以前に東京都大田区内の地下鉄となる新空港線を取り上げた。こちらは1.7kmで建設費は1260億円と1km当たり741億円とやはり高い。大都市東京には地下鉄はもちろん、道路や各種インフラとさまざまな構造物が地下に埋設されている。そのようななかで新たな地下鉄を通すことがいかに困難かが建設費からもわかる。

 建設費は高額なものの、都によれば臨海地下鉄新線の費用便益比は1以上、つまり開業による効果を金額に換算すると費用を上回っているのだという。交通政策審議会陸上交通分科会鉄道部会によると、新銀座-有明・東京ビッグサイト4.8kmの建設費が2600億円であると仮定したときの費用便益比は0.7で、事業性に課題があると見なされた。東京-新銀座間約1.0kmの建設費は都と同部会との試算から判断すると約1600億円~約2500億円とひときわ高額だ。都が東京駅の価値を過剰に評価しているようにも思われるが、費用便益比を0.7から1以上へと引き上げてくれるのだから、東京駅乗り入れの効果がいかに高いかがわかる。

つくばエクスプレスとの接続も?

 莫大な建設費を投じるのであれば、費用便益比をさらに高めたい。都は今後の検討事項として、つくばエクスプレスとして知られる首都圏新都市鉄道常磐新線との接続、それから羽田空港との接続と2つの方策を提示している。

 つくばエクスプレスとの接続は交通政策審議会陸上交通分科会鉄道部会でも検討された。東京-秋葉原間にも線路を建設して臨海地下鉄新線と相互直通運転を行おうという内容だ。もともとつくばエクスプレスは東京駅乗り入れへの要望が高い。東京-秋葉原間2.1kmを首都圏新都市鉄道が建設した場合、建設費は1400億円で費用便益比は1.2であった。一方でこの区間を臨海地下鉄新線の事業の一環として整備すると建設費は秋葉原-有明・東京ビッグサイト間は8.6kmとなって建設費は6500億円、費用便益比は1.5~1.6と向上する。

 利用者にとってはつくばエクスプレスが東京駅や臨海副都心に乗り入れるといっそう便利さが増す。とはいえ、東京-秋葉原間の建設費も莫大な額なので、都、首都圏新都市鉄道どちらが建設を担当するのかは容易には決まらないかもしれない。

 なお、都は首都圏新都市鉄道の株主だ。2022年3月31日現在、都は同社の発行済み株式を筆頭株主である茨城県の18.05パーセントに次いで17.65パーセント分を保有する。両者の資本関係から、建設費はどちらか一方だけで負担するのではなく、折半または一定の割合で両者ともに負担する形態が採られるかもしれない。

 一方の羽田空港への接続とは有明・東京ビッグサイト駅から東京臨海高速鉄道りんかい線へと乗り入れる構想を指す。りんかい線は東京テレポート駅でJR東日本が整備を表明した羽田空港アクセス線と接続して仮称、羽田空港新駅に乗り入れる構想があるからだ。羽田空港アクセス線自体の建設計画は進んでいて、JR東日本は2029(令和11)年度中の開業を目指すという。

 臨海地下鉄新線がりんかい線と接続するというと、東京臨海高速鉄道の意思を無視しているように感じられるかもしれない。東京臨海高速鉄道の発行済み株式の91.32パーセントは都が保有しており、実質的に都営に準じた鉄道だといえる。ともあれ、建設費が莫大な額に上るだけに、臨海地下鉄新線は既存の鉄道と接続し、さまざまな方面に乗り入れて価値を高めていくことが重要となるであろう。
(文=梅原淳/鉄道ジャーナリスト)

梅原淳/鉄道ジャーナリスト

梅原淳/鉄道ジャーナリスト

1965(昭和40)年生まれ。大学卒業後、三井銀行(現在の三井住友銀行)に入行し、交友社月刊「鉄道ファン」編集部などを経て2000年に鉄道ジャーナリストとして活動を開始する。『新幹線を運行する技術』(SBクリエイティブ)、『JRは生き残れるのか』(洋泉社)、『電車たちの「第二の人生」』(交通新聞社)をはじめ著書多数。また、雑誌やWEB媒体への寄稿のほか、講義・講演やテレビ・ラジオ・新聞等での解説、コメントも行っており、NHKラジオ第1の「子ども科学電話相談」では鉄道部門の回答者も務める。
http://www.umehara-train.com/

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