家庭用電気料金の値上げをめぐるニュースが話題となっている。その一方で、昨年から、大量の電気を必要とする産業用の電力供給を停止する新電力会社が相次ぎ、電力確保の目途がたたない企業が続出する事態が起きていることをご存じだろうか。なぜそのようなことが起きているのか。
実質再生可能エネルギーを提供する新電力会社として誕生し、2年目を迎えた株式会社U-POWER代表取締役社長の高橋信太郎氏に、法人ユーザーが今抱えている課題、持続可能な社会に向けて今私たちが考えるべきこと等について話を聞いた。
燃料価格の高騰、ウクライナ情勢の悪化によってエネルギー調達価格が高騰し、電力卸価格自体が高騰していることから、10年前と比較して家庭用の電気料金が31%増、産業用は35%増と大きく値上がりしている。
そんななかで今、法人ユーザーにとって大きな問題となってきているのが、電力を供給すればするほど赤字になる電力会社が相次ぎ、倒産や事業撤退、供給停止に踏み切る新電力会社が急増していることである。
「企業は家庭よりも大量の電力を必要とするため、電圧の大きい『高圧』や『特別高圧』という契約を締結しています。その『高圧』『特別高圧』の契約をしている法人ユーザーが電力供給を打ち切られてしまう事態が相次ぎ、電力会社との契約目途がたたない企業が全国規模で増加しています」(高橋氏)
法人ユーザーにとって、電力は事業継続に欠かせない。そのような事態を想定し、あらかじめ用意されている仕組みが「最終保障供給契約」というものだ。これは、高圧および特別高圧の電力を利用する企業が、電力会社の倒産や事業撤退等により電力の供給が受けられない場合に、一般送配電事業者(送電線・配電線などを管理する事業者)に対して電力供給の継続を一時的に義務付ける制度となる。
ところが、昨今の電力危機を受けて2022年3月頃から、この「最終保障供給契約」の契約件数が急増し始めた。2022年10月には、同年1月比で55倍を超える4万5871件に達し、その後も4万件以上の契約数が続いている。
契約していた新電力会社から電力供給を打ち切られてしまった法人ユーザーにとって、「最終保障供給契約」は欠かせない存在である。しかし、高橋氏によると「契約期間は1年未満と限定的。一旦『最終保障供給契約』を使って安心しても、今度は『最終保障供給契約』からの切り替え先を探さなくてはならない。そこで今、新たな契約を受け付ける電力会社を探し求める法人ユーザーが続出している」というのだ。
実は30分ごとに変動、企業が利用する高圧・特別高圧の電気料金
このような事態を受け、U-POWERでは高圧・特別高圧で「最終保障供給契約」の契約をした法人顧客の呼び込みを強化。対目標の300%を超えるハイペースで新規申し込みを獲得し、急成長を遂げている。
2021年12月に誕生した同社は、USEN-NEXT GROUPの顧客基盤である店舗ネットワークを活用し、実質再生可能エネルギーを供給する低圧メニューを2022年3月から提供することでスタートした。ところが、高圧・特別高圧の供給を停止する新電力会社が相次いだことを受け、同年6月から新たに「高圧グリーンメニュー(実質再生可能エネルギー供給)」をラインナップに追加。最大の特徴は、料金体系を当初から「固定価格」ではなく「市場連動型」プランで供給を始めていたことだ。
「市場連動型」プランは、日中電力を多く使用する企業にとっては特に大きなメリットとなる。高圧・特別高圧の電力料金は30分値で計測しているため、昼間は太陽光等の再生可能エネルギーの後押しもあって卸電力市場の価格が安くなるからだ。下図の通り、地域によって差はあるものの、夜間との価格差が大きいことがわかる。
「大型ゴルフチェーンやスキー場などの大型施設に対して、当社の市場連動型プランの説明を丁寧に行い、メリットを感じていただいたことで切り替えにつながり、実際に大幅なコスト削減につながった事例があります」(高橋氏)
卸電力価格の高騰により「固定価格」で契約を進めてきた新電力会社の多くが赤字に陥るなか、同社では当初から安定的に事業を継続させて電力の安定供給を維持することにこだわり、「市場連動型」のメリットを伝えることで契約につなげてきた。
現在、同社の高圧・特別高圧の新規申し込みのうち、「最終保障供給契約」からの切り替え比率は50.5%にも上っているという。
地方自治体の課題も解決、スピーディーな切り替えでインフラ事業者としての使命を果たす
インフラ事業者として、電力を広く安定的に供給することを第一に考える同社は、電力市場で起きている問題に対して一つずつスピーディーに対応している。
高橋氏によると、「新たに問題となっているのが、新年度を前に自治体への電力供給事業者が決まらないという事態です。入札不調といって、入札に参加する事業者がおらず電力会社が決まらないケースが数多くあり、自治体が困っている状態」だという。
これを受け、同社は一早く対策チームを発足。入札不調で困っている自治体に向けて迅速にアプローチし、課題解決につなげている。
さらに、スピード感も同社の強みだ。業界ではこれまで1~3カ月程度かかることが当たり前とされてきたところを、申し込みから最短3週間で電力の切り替え作業を行う。事務手続きの無駄を極力省くことで「供給開始までのスピードが早い」と多くの企業から好評を得るなど、企業活動に欠かせない電気というインフラを支える上で大きな役割を担っている。
USEN-NEXT GROUPとして、カーボンニュートラルの実現に向けた総合的支援を目指す
現在、気候変動対策として、世界120以上の国と地域が「2050年カーボンニュートラル」の実現を目指して動き、再生可能エネルギーの需要が大きく高まっている。年間約12億トンの温室効果ガスを排出している日本も、2030年までに温室効果ガスを2013年度から46%削減すること、そして2050年までに実質ゼロを目指している。
同社は、再生可能エネルギー100%の「GREEN100」を中心に、料金に合わせて「GREEN10」「GREEN50」といったプランを用意して脱炭素社会に貢献する電力の提案を続けている。
高橋氏は、「迫りつつある2030年を前に、ピークカット等の節電、省エネに取り組むのはもちろん、どのような電力を使用して地球環境に貢献していくかという視点が私たち一人ひとりに問われている」と強調する。
また2021年6月、上場企業に対して気候変動関連財務情報の開示やCO2、温室効果ガス排出量の可視化や削減対策を求めることが決まり、大手企業を中心に脱炭素に向けた具体的対策が早急に求められている状況だ。
同社では、すでに同年11月にコンサル営業チームを立ち上げ、USEN-NEXT HOLDINGSのサステナビリティ推進室と連携しながら、プライム上場企業であるUSEN-NEXT GROUPである強みを生かしたサービス開発を進めている。
営業企画部高圧企画課脱炭素コンサルチームの栁沢有希さんは、「CO2削減につながる電力プランのご提案だけでなく、温室効果ガス排出量を見える化するための算定ツールのご紹介や、頑張っても削減できない温室効果ガス排出量の埋め合わせを行う非化石証書等の環境価値の販売など、企業の脱炭素化を総合的に支援していきます」と意気込む。
今後も同社は、脱炭素への取り組みが先行するヨーロッパをはじめとするグローバル企業の動向も視野に入れながら、日本の「2050年カーボンニュートラル」の実現に向けて使命を果たしていく。
(文=小内三奈/ライター・インタビュアー:外部執筆者)