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日本の治安、世界33位に低下…格差拡大で生活困窮者が犯罪に加担、強盗犯罪も増加

文=A4studio、協力=京師美佳/防犯アドバイザー
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「gettyimages」より

 世界のなかでも屈指の治安の良さを誇ってきた日本だが、治安が悪くなっていることを示すデータが発表され、物議を醸している。世界各国の医療水準や物価水準、さらには犯罪率などをデータベース化しているセルビアの情報サイト「ナムベオ(Numbeo)」が発表した「治安指数(Numbeo Safety Index)」の2023年版によると、なんと日本の治安ランキングが33位にまで低下しているという。しかし、SNS上ではこの情報が広く拡散されている一方で、その真偽を疑問視する声も少なくない。

 2月に警察庁が発表したデータによると、02年をピークに減少し続けていた刑法犯(刑法などの法律に規定された犯罪)の認知件数は、21年と比べ22年は5.9%増えて約60万1300件だった。また、警察庁が集めたアンケートによると、6割を超える人々が「治安が悪化した」と回答している。そこで今回は、防犯アドバイザー、犯罪予知アナリストである京師美佳氏に、日本の治安は悪化しているのかについて見解を聞いた。

話題となったランキングは信憑性に欠ける

 京師氏は前提として、まず話題となった「ナムベオ」のランキングについて、次のように指摘する。

「このサイトはアクセスした人に、その人が住む国の物価や犯罪についてアンケートを取り、その総合値から算出されたのが今回のランキングです。しかし、このランキングは結局のところ出身国を偽っても回答できてしまううえ、アンケートの回答も一般人の体感がベースになっているので、正確なデータとはいえません。つまり、信憑性は低いでしょう」(京師氏)

 だが警察庁のアンケートで「治安が悪化した」と答えた人が6割を超えたという事実は看過できない。実際のところ日本の治安は悪化しているのだろうか。

「非常に難しい質問ですね。というのも『治安の悪化』というものは、どこに基準を置くのかによって変わる側面があります。たとえば一昨年より昨年の刑法犯認知件数が増えたのは事実でしょうが、警察庁の発表によると2002年からこれまで減少し続けており、増加に転じたのは20年ぶりとのこと。しかも、一昨年の刑法犯認知件数は戦後最少を記録していたそうですから、底を打って上昇に転じただけとも考えられます。

 また、21年はまだコロナ禍による外出自粛ムードが強かった年で、22年はその雰囲気が緩和されたことで、人と人とが接触する場面が増加したことが原因のひとつとも考えられます。要するにコロナ禍で減少していた刑法犯の総数が、コロナ禍前に戻っただけとも考えられるので、これをして治安の悪化といえるのかも疑問です」(同)

生活困窮者が簡単に犯罪に加担する構造

 だが「日本の治安はこれまでと変わらない」ともいえないようだ。それを理解するうえで、犯罪に手を染めてしまう層の変化を知る必要があるという。

「犯罪件数の増加というよりも、犯罪の質が変化してきたことによる治安悪化の懸念があるのです。近年は不景気による物価の上昇や収入格差が社会的に問題視されていますが、これらは犯罪増加原因のひとつとして考えられています。例えば、2002年をピークに減少していた刑法犯のなかでも、迷惑メールやオレオレ詐欺のような特殊詐欺だけは増加傾向にありました。件数の多い特殊詐欺ですが、近年はお金を騙し取られる被害者だけでなく、暴力団やいわゆる半グレグループに、生活に困窮している層が使われるかたちで犯罪に加担してしまう構造も問題視されています」(同)

 特殊詐欺において身分を偽ってターゲットと直接のやり取りをする役目の人を受け子、一般人を装ってATMなどから現金を引き出す役を出し子というが、受け子・出し子に安易に手を染めてしまう生活困窮者が増えているというのである。

「受け子・出し子といった実際に犯行を行う末端の人物を、暴力団や半グレはSNSで一般から集めています。具体的にいうと、SNSで『#UD募集』というハッシュタグを作るのです。このUDというのは受け子・出し子の頭文字を略したもので、アンダーグラウンドの世界では隠語として使われています。こうしたUD募集に食いついてしまうのが、不景気が原因で生活に困窮しているような人たちです。悪い意味で気軽にかかわれてしまうために、犯罪者の数が増えてしまっているという構造を知っておく必要があるわけです」(同)

詐欺から強盗へ…変化している犯罪傾向

 そんな特殊詐欺だが、近年はさらなる変化を起こしているそうだ。

「特殊詐欺は、その数が多いぶん警察が世間の防衛意識を積極的に高めてきた犯罪です。具体的にいうと、新たな詐欺のパターンが出てくるとテレビやネットなどですぐに報じたり、高齢者の利用も多い市バスの車内などに特殊詐欺の事例をあげた防犯ポスターを多数設置したりするようになっています。

 しかし、犯罪というのは穴を塞げば別の場所から形を変えて溢れるもの。特殊詐欺を行っていた組織が今、力を入れているのが『叩き』と呼ばれる犯罪です。これは強盗の隠語で、特殊詐欺で稼げなくなったら直接奪いに行くしかないといわんばかりに、暴力を伴う強盗犯罪が増えているのです。こうした叩き行為は、やはりSNSなどを通して集めた闇バイトを末端に利用しているほか、特殊詐欺で使用していた『カモリスト』を応用するなど、特殊詐欺から地続きの犯罪なのです」(同)

 昨今は特に強盗傷害事件、強盗殺人事件の痛ましいニュースが多い。刑法犯の内訳で強盗が急増しているとしたら、警察庁アンケートの「治安が悪化した」と感じる人々が6割を超えたという結果にも納得である。

「日本はよく海外から『お財布を落としても拾って警察に届けてくれる人が海外よりも格段に多い』などと称されることがありますが、私もこれには同感で日本人は誠実・正直に生きることを美徳としている心持ちの人が多いと思います。ですがそれとは別に、犯罪に走らざるを得ない状況に陥ってしまう生活困窮人が増えつつあるというのもまた事実。ですから我々一般市民は、今どういった犯罪が増えていて、どういった防犯意識を高めていけば良いのかといったことに、今まで以上に気を配る必要はあるでしょう」(同)

 犯罪の質が変化して凶悪化しているとしたら、今後も感覚的に治安の悪化を覚える国民が増えていくのかもしれない。

(文=A4studio、協力=京師美佳/防犯アドバイザー)

京師美佳/防犯アドバイザー:取材協力

京師美佳/防犯アドバイザー:取材協力

トータル防犯アドバイザーを目指し、セキュリティ企業へ就職。法人営業部の責任者を務める中で、防犯設備士の資格を取得。その後、防犯ガラスメーカーで、セキュリティ事業部長や防犯アドバイザーとして活躍。2005年に独立して、京師美佳セキュア・アーキテクト設立。現在は講演やテレビへの出演。雑誌や新聞への寄稿など多方面で活躍中。

Twitter:@kyoshimika

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