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JRなど鉄道会社は鉄オタを採用しない説は本当か…俗説流布の理由、幹部にマニアも

文=Business Journal編集部、協力=枝久保達也/鉄道ジャーナリスト
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写真はイメージ画像(「gettyimages」より)

 経営が安定しているというイメージも影響してか就職先として根強い人気を誇る鉄道会社。だが、面接など採用試験において、いわゆる「鉄オタ」といわれる熱心な鉄道ファンであると認識されると採用されないという話が以前から囁かれているが、果たして本当なのだろうか。

 来年2024年卒業の新卒採用は、人手不足や新型コロナウイルス感染症拡大でここ数年採用人数を絞っていた反動などで企業の採用意欲が高まったこともあり、売り手市場となり、新卒予定者の争奪戦の様相を呈しつつあるとも伝えられている。鉄道業界の採用意欲も一定の高さがみられ、JR東日本の24年度の採用計画は新卒・経験者あわせて500人、JR西日本の24年度の新卒採用計画は840人、JR東海は同430人、少し前のデータだが東京メトロの21年度の新卒採用者数は212人となっている。毎年コンスタントに一定規模の新卒者を採用する鉄道会社は、日本の雇用創出の面で重要な役割を担っている。

 気になる給与だが、優秀な人材を獲得するため広い業界で初任給引き上げの動きが目立つなか、JR東日本も今年4月から前年より8000円増額し、総合職の大卒は23万3630円、高専卒は21万6150円、エリア職の大卒は22万1785円、高専卒・短専卒は21万3850円、高卒は19万2115円となっている。ちなみに他業界の同じ大企業をみてみると、メガバンクの三菱UFJ銀行は大卒で25万5000円(24年度)、アパレルのユニクロなどを運営するファーストリテイリングは今年3月から30万円となっている。

 2000年代前半に旧帝大の国立大学を卒業して新卒でJR会社に入社した男性はいう。

「私が入った頃の初任給は額面で20万円に満たず、手取りで15万円ほどで、他業界の大企業に就職した大学の同期のなかで私より低かった人はいなかった。今考えるとどうやって生活していたのか不思議。JRはインフラ企業なので毎年多額の設備投資費用がかかり大量の人員を抱える必要もあり、さらに高卒の新卒社員の給料とのバランスもあるので、大卒や院卒の給料は低くなると、会社の人から説明された。当時のことを考えれば、今の新卒者の待遇はかなりよくなったと感じる。

 JR会社に限っていえば、社内の風通しが良いとはとてもいえない。労働組合の力が強く、業務で大きなミスをした社員が組合の力を借りて社内で揉み消し的なことをしてもらい、それを逆手に取られて組合からいろいろと面倒な仕事を押し付けられるケースも少なくない。私は数年で他の業界に転職したが、給料が一気に2倍になって驚いた」

鉄道会社に鉄道好きは多い

 ちなみにこの男性は、列車の運転をしてみたかったというのもJRへの就職を希望した理由の一つだというが、鉄道会社への就職をめぐって以前から一部でいわれているのが、熱心な鉄道好きは鉄道会社に採用されないという説だ。その理由については、

「業務中に撮影したり入手した機密情報を漏洩させる恐れがある」

「鉄オタだと珍しい備品を盗む恐れがある」

など、さまざまなことがいわれている。前出と別の鉄道会社社員はいう。

「やっぱり社内には鉄道好きは多いし、濃淡の差はあれど、鉄道に興味があるから鉄道会社に就職した人が大半だろう」

 ちなみに同じ輸送業種である大手航空会社の社員はいう。

「航空機好きじゃないのにパイロットや整備士になろうと思う人はいないし、CAも航空業界への憧れを持って入る人が大半。それ以外の一般の社員も同様。給料もパイロット以外は他の業界と比べて高給とはいえないので、この業界に興味がないと就職しようとは思わないだろう」

 果たして本当に鉄道好きが鉄道会社の採用において敬遠されるという実態はあるのだろうか。元東京地下鉄(東京メトロ)社員で鉄道ジャーナリストの枝久保達也氏に聞いた。

鉄道会社は、鉄道の知識が深い人をもっと増やすべき

 鉄道マニアが採用されないのは、鉄道会社は仕事として鉄道を運営しているのであり、趣味の対象として見ている人は向かないから、などと語られる。しかし実際に働いていた筆者の経験からすると、首肯しがたい。鉄道が好きな同僚は本社にも現場にもいくらでもいたし、幹部クラスでもマニアやオタクに部類される人は珍しくない。結局は仕事と趣味を切り分けられるかどうかの差である。

 こうした都市伝説は、採用面接で鉄道が好きと答えたら不採用となったというエピソードとともに語られるが、これは鉄道マニアであるか否かが決定要素ではなく、問いかけに対して過度に鉄道好きをアピールしてしまうなど、面接の対応自体が良くなかったと考えるほうが自然だ。ひとくちに鉄道会社といっても、総合職採用と現場職採用で求められる素養は異なる。総合職については多くの鉄道会社は鉄道を中心にさまざまな関連事業で利益を上げており、多くは鉄道外の部門に配属されるため、鉄道にしか興味がない人には不向きである。

  とはいえ鉄道はグループの中心であり、鉄道が何たるかを知らなければビジネスはできない。しかし筆者の印象では、残念ながら鉄道の特性、役割を理解しないまま鉄道会社で働く総合職は少なくないのが実情で、鉄道の知識が深い人をもっと採用したほうが良いと感じている。現場職については採用者の大多数がもともと鉄道に特に興味を持っていない人たちであり、専門的な知識は入社後の研修で叩き込まれるが、事前に知識があるにこしたことはない。そうした人は早くから現場のリーダー的な地位を任せることのできる、歓迎すべき人材だ。

 いずれにしても間違いなく言えるのは、鉄道の知識を会社や乗客のためではなく、自分のために使おうという人を採用する理由はないということだ。また、そういうマニアが鉄道会社に就職するのは本人のためにもならないのである。

(文=Business Journal編集部、協力=枝久保達也/鉄道ジャーナリスト)

枝久保達也/鉄道ライター

枝久保達也/鉄道ライター

1982年、埼玉県生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)で広報、マーケティング・リサーチ業務などを担当し、2017年に退職。鉄道ジャーナリストとして執筆活動とメディア対応を行う傍ら、都市交通史研究家として首都圏を中心とした鉄道史を研究する。著書『戦時下の地下鉄 新橋駅幻のホームと帝都高速度交通営団』(2021年 青弓社)で第47回交通図書賞歴史部門受賞。

Twitter:@semakixxx

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