12月上旬、Twitter上で一つの投稿が物議を集めていた。
「横浜駅改札まとめ
・EG20に虹が搭載され、ちゃんと光るしちゃんと鳴る
・これまでよりセンサーが強化され、EG7000も攻略できてる人物が5回やって一回も突破できないという異次元すぎるレベル
JRはガチで鉄オタ、ドンだーと戦うつもりです」(原文ママ)
何を言っているのかわからない。クリスマスに合わせて、虹のようにイルミネーションが施された改札口が登場したのか。これに対してインターネット上では、JRの対応を批判するような書き込みが多数寄せられていた。いったい何事なのか?
キセル防止対策で逆ギレ
鉄道専門紙記者に聞いた。
「JR東日本は切符やスマートフォン、交通系ICカードをタッチせずに、自動改札機を押しとおろうとする不正乗車(キセル行為)を防止するため、改札の対人検知センサーの数を増やし、性能を強化したようです。これまで在来線の改札機は対人センサーを手や布で隠されてしまうと、人の通過を感知できない欠点がありました。
この特性を利用して、一部の悪質な鉄道ファンが『どのようにセンサーを隠せばタダで突破できるのか』という方法をSNS上で情報共有し、キセルの方法を編み出しているのです。まさに鉄道会社の対策と不正利用客のイタチごっこです。センサー類の更新に関して、インターネット上の一部鉄道ファンは『俺たちは写真を撮っているだけなのに』と逆ギレしている有様です。
例えば、鉄道の写真撮影を専門とする“撮り鉄”の一部は、ほとんど乗車しません。列車の外観と景色が好きだから、乗ってしまっては元も子もありません。そのため駅の入場券を買ってホームなどに陣取って撮影するのですが、この入場料をケチるという人がいます。
また、いろんな列車に乗ることをメインの活動としている“乗り鉄”は乗車賃など活動にお金がかかることで知られます。そこでセンサーを隠して自動改札を素通りして、地方の無人駅などで降り、まるまる運賃を払わない人などがいます。コンビエンスストアでの万引きと同じように、1回当たりの被害額は大きくないかもしれません。ですが、鉄道ファンのように頻繁に鉄道を利用している人々が継続して不正乗車を繰り返せば、損害はかなり大きくなります。しかもこの手段だと、不正者は改札をくぐったことにならず、正確な人数もカウントされないので、その実数や被害額も明らかになりません。
こうした行為は、鉄道営業法第18条および鉄道運輸規程第19条に抵触します。鉄道事業者は不正乗車をした者に対し、その乗車区間に相当する運賃とその2倍以内の増運賃を請求することが認められています。また、状況によっては軽犯罪法に問われます。ファンだから良いということにはなりません」
ランプが「虹」のように光り不正伝える
同記者によると、最初の投稿にあった「EG20」は在来線の改札で使用されている自動改札機の型式、「EG7000」は新幹線などで利用されている改札機の型式だという。これまで新幹線の改札機はセンサー数が多く、キセルが難しい状態だったが、在来線のセンサー形式もそれと同等か、それ以上に強化されたようだ。ちなみに新幹線用の改札機では強行突破しようとすると警報とともにランプがキラキラ光るので、これを鉄道ファンは「虹」と呼んでいるようだ。この設備が在来線にも導入されたのだろうか。
改めて、今回のネット上の投稿を含めて、事実関係をJR東日本横浜支社広報室に問い合わせてみたところ、次のような回答を得た。
「センサーの強化など、自動改札機の機能面に関するご質問は防犯・警備上の重要秘密なので、ご回答を差し控えさせていただきます。ただ、お客様の皆様方にはルールを守って、列車をご利用していただきたくお願い申し上げます」
鉄道会社の合理化に伴って各駅の自動改札化を進めた結果、駅員のいる改札や、列車内での車掌の切符確認も少なくなり、監視の目が緩くなったことも背景にあるだろう。事業者としては細かな不正乗車があっても、駅員を置いて人件費が発生するより合理的なのかもしれない。
ただ、それではルールを守っている乗客に対して説明がつかないし、同様の手口を使おうとする“不届き者”を新たに生み出す可能性もある。事業者が抜本的な対策をとらない限り、当面は鉄道会社と不正をする客とのイタチごっこは続きそうだ。
(文=編集部)