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中国・難関大学の学生、日本企業への就職増…日本人の就職先を奪う脅威となるのか

文=A4studio、協力=高口康太/フリージャーナリスト、翻訳家
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「gettyimages」より

 中国では現在、若者の就職難が深刻だという。中国国家統計局が7月17日に発表したデータによると、中国の16歳から24歳の都市部における若者の失業率は21.3%となり、2018年以降最高の数値となった。中国トップの名門大学、清華大学が作成した「卒業生雇用品質報告」によると、2022年6月卒業生(院卒含む)8003人のうち、「職探し中」「今後は未定」との回答が83人。加えて「柔軟な雇用」との回答が811人だった。「柔軟な雇用」とは、例えば個人事業主、臨時雇い、パートタイム労働者などを指し、中国では「霊活就業」と揶揄されることもある。

 このように名門大学を卒業した高学歴の中国人学生さえも、仕事が見つかるとは限らないという厳しい状況になっているようだ。そんな背景があり、大学を卒業しただけでは就職できないため、大学院に進学する者が増えているという。しかし、中国国内の大学院を出たとしても、中国企業への就職が難しく、日本企業に入社することを選ぶ中国人学生も出てきているという。そこで今回は、中国の経済・企業に詳しいジャーナリストの高口康太氏に、中国の就職難の現状から、中国人学生が日本企業に流入する背景について話を聞いた。

コロナ禍で就職難が深刻に…日本で就職先を探す中国人留学生

「就職難の一番の要因は、新型コロナウイルス流行による景気の悪化です。コロナ禍に突入した2020年の時点では、若者の就職への影響はさほど確認されず、コロナ禍が何年も長引くことはないだろうと考えられていました。しかし翌2021年には、コロナ禍の影響が悪化し、さらに中国当局のIT企業に対する独占禁止法などの規制改正の影響で、大学などの高等教育機関の卒業生の就職が本格的に厳しくなったのです。22年3月末から5月末にかけては、都市部の上海で大規模なロックダウンが起こった影響もあり、6月に卒業する中国の学生にとっては、かなりの打撃となりました。そこから現在に至るまで、なかなか就職状況が改善していません」(高口氏)

 新型コロナ流行による影響は、日本国内の中国人留学生にも大きな影響を与えていたという。

「コロナ禍前には、日本での留学期間を終えると中国に帰国して就職する学生が多かったのですが、コロナ禍以降になると、日本に留まって就職する留学生が増えました。やはり、新型コロナの影響で、なかなか帰国が難しい状況になったことが要因として挙げられるでしょう」(同)

不安定な社会情勢により、中国人学生の希望する働き方に変化が

 コロナ禍によって国内企業への就職が難しくなってしまった中国の学生たち。高口氏によると、コロナ禍後の中国人学生の希望する働き方には変化が見られるという。

「コロナ禍前には、中国国内の企業に就職を希望する学生が大半で、日本企業を就職先として選ぶ中国人学生は多くありませんでした。中国人学生の日本企業に対する印象は、技術的には先進している憧れの企業ではあるけれども、中国企業より給与が低いので、若いうちに多く稼ぎを得たい中国人学生にとっては、あまり選択肢に入っていなかったのです。しかしコロナ禍によって、不安定な社会情勢に陥った現在、終身雇用や年功序列による給与体系など、長く安定して働ける日本企業に対する中国人学生の評価が徐々に上がってきています。

 一方の中国企業は、アメリカのように成果主義の風潮が強く、就職競争を勝ち抜いた後も厳しい競争社会にさらされます。その競争についていけなくなれば、地位の高いキャリアを積むことも難しくなってしまいます。また、給与についても、景気のいいときには毎年2~3割上がるけれども、景気が悪くなれば減給するというように、景気に左右されがちで安定性がありません。コロナ禍を経て、そうした不安定な働き方よりも、長く働ける日本企業に惹かれる安定志向の中国人学生が増えてきているのではないでしょうか」(同)

 中国では最近、海外へ移住するための方法を探求する「潤学」というワードがネット上で話題となっているという。中国語の「潤」の発音表記が英語のrunと同じで、英語のrunには「逃げる・走る」という意味があることから、「海外移住」という意味を持つ新しい造語である。

「コロナ禍以降、『潤学』というワードが注目されているように、いま中国人たちの間では、海外で暮らすほうが豊かな生活を送れるという考え方が広がっています。中国社会は今後、さらに物価が上がり、格差社会になっていくことが予想されるので、海外へ移住することでその危機から逃れようとする人たちが増えているのです。こうして中国国内で、海外移住への抵抗感が以前より少なくなってきているということも、日本での就職を考える学生が増えてきた背景の要因だと考えられます」(同)

「高学歴の中国人」が日本企業へ就職しても、影響は軽微か?

 では日本企業側は、高学歴の中国人学生を採用することについて、意欲的な姿勢なのだろうか。

「日本の大企業では、グローバル人材の採用に力を入れていますから、高学歴の中国人学生への採用についても意欲的でしょう。中国の名門大学の教育レベルは非常に高いですし、専門性の高い分野で活躍できる優秀な人材が多くいます。また、日本企業としては、国籍を問わず採用をしたいという考えがあります。特に中国人学生を採用するメリットとして、日本社会に比較的馴染みやすいゆえに、長期にわたって働いてくれる見込みがあるということが挙げられます。日本社会に馴染みやすいというのは、距離的に国同士が近く、文化が似ていて言葉を覚えやすいことや、日本国内に中国人コミュニティが多く存在しているので、過ごしやすい環境であるということです」(同)

 ただ一方で、中国人学生を採用するデメリットもあるという。

「機密情報の国外漏洩(ろうえい)など、安全保障面でのセキュリティクリアランスを確立しなければならないので、採用コストがかかることです。近年、中国人技術者などの産業スパイが日本企業に潜んで、産業技術を中国に流すという事件が多発して問題となっています。主に専門性の高い分野での活躍が目立つ中国人人材なだけあって、こうした機密情報の漏洩については、日本企業も配慮せざるを得ない状況となっているのです」(同)

 技術や情報の流出といったリスクはあれど、基本的には日本企業も高学歴の中国人人材への採用に好意的だということのようだ。だが、中国人学生雇用で採用枠が減ってしまうなど、日本の就活生への影響はないのだろうか。

「今後コロナ禍の状況が改善していけば、日本へ留学する中国人学生はさらに増えるでしょう。また、海外移住への関心が高まっていることからも、日本で就職する中国人の割合は高くなっていくと思います。しかし、そうして増加した中国人留学生たちが、日本人学生たちの就職口を奪うほどの脅威になるかというと、そこまでの影響は考えられません。

 理由としては、日本企業全体でみると、やはり日本人人材のほうが、圧倒的に需要が多いということ。そして、日本企業が外国人人材を雇う場合、社内のグローバル人材の拡充という目的や、人手不足の分野で活躍できる外国人人材を採用するという目的がほとんどなので、現状の日本人学生たちの就職市場に、中国人学生たちが大挙して参入してくるという可能性は低いでしょう。グローバル人材の採用枠は限られており一定数ですし、人手不足の分野に外国人人材が補填されるかたちでの採用なら、日本人学生たちの就活への影響は微々たるものではないでしょうか」(同)

(文=A4studio、協力=高口康太/フリージャーナリスト、翻訳家)

高口康太/フリージャーナリスト、翻訳家

高口康太/フリージャーナリスト、翻訳家

1976年、千葉県生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。二度の中国留学経験を持ち、中国経済や文化など幅広い分野で取材を行い、数々の雑誌・ウェブメディアに寄稿している。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『中国コロナ封じの虚実』(中公新書ラクレ)『現代中国経営者列伝』(星海社)『幸福な監視国家・中国』(NHK出版、梶谷懐氏との共著)など多数。

Twitter:@kinbricksnow

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