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金融正常化、なお難路=「金利ある世界」へ移行―異次元緩和、解除1年・日銀〔潮流底流〕

2025.03.22 2025.03.22 20:05 経済
時事通信
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 日銀が「異次元緩和」と呼ばれた大規模金融緩和を解除してから1年が経過した。解除後も段階的な利上げが進み、日本経済は「金利ある世界」へ移行しつつある。2%物価上昇目標の持続的・安定的な実現を見据え、日銀は一段の利上げを模索するが、内外経済の先行きは不確実性が高い。大量に買い入れた国債の圧縮も始まったばかりで、金融政策の正常化は難路が続く。

◇「普通の金融政策」に回帰

「少しずつ基調的物価上昇率が2%に収束する確度が高まる下、適切な緩和度合いの調整を進めることができた」。植田和男総裁は19日の金融政策決定会合後の記者会見で、こう振り返った。

 昨年3月19日、日銀はマイナス金利政策の解除と、長期金利を0%程度に誘導する長短金利操作の撤廃を決定。黒田東彦前総裁が導入し11年続いた大規模緩和から、短期金利の操作を主たる政策手段とする「普通の金融政策」(植田氏)に回帰した。

 日銀は、昨年7月と今年1月にも利上げを決定。短期金利の誘導目標は「0.5%程度」と約17年ぶりの高さに到達した。世界的なインフレを契機とした物価高に、深刻な人手不足も加わり、日銀は「物価も賃金も上がらない」という「ノルム(社会通念)」は「解消に向かっている」(内田真一副総裁)と判断する。

「金利ある世界」の到来は、住宅ローンや預金などの金利引き上げを通じ、長年の超低金利環境に慣れ切った日本経済を変えていく。資金調達コストの上昇は業績不振企業の経営を圧迫し、倒産件数の増加で「新陳代謝と優勝劣敗が加速する」(帝国データバンク)とされる。

◇利上げ到達点「1%超え」も

 2025年春闘では高水準の賃上げ継続が確認されており、国内の賃金・物価は「おおむねオントラック(想定通り)」(植田氏)で推移する。日銀は利上げを継続し、政策金利を景気を刺激することも冷ますこともない「中立金利」にまで引き上げる方針だ。最終到達点の「1%超え」を視野に入れた市場では、長期金利が3月に一時1.575%と16年半ぶりの水準に上昇した。

 最大のリスクは、トランプ米政権の高関税政策だ。植田氏は19日の会見で「海外発の不確実性はここにきて急速に高まっている」と警戒感を表明。BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストは「貿易戦争が激化し、世界経済が不況に向かえば、日銀は利上げを停止せざるを得ない」と指摘する。

 国債の大量購入で発行残高の5割超を日銀が保有する異常事態への対処も課題だ。昨年8月に買い入れを段階的に減額する「量的引き締め」に着手したものの、580兆円もの保有残高を適正規模に戻すのは長い道のりだ。「金利高騰など市場の混乱を避けながら、どこまで減らせるか難しい作業となる」(日銀関係者)という。

 緩和の一環として買い入れ、37兆円(簿価ベース)に膨らんだ上場投資信託(ETF)の処分は手付かずのままだ。今後の正常化プロセスについて、内田氏は今月5日の記者会見で「この後何が起きるのか、予断を持たずに緊張感を持ち続けながらやっていく」とし、気を引き締めた。(了)
(記事提供元=時事通信社)
(2025/03/22-15:22)

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