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藤和彦「日本と世界の先を読む」

中国・最大タブー「人口減少」深刻化…失業率の発表停止、経済指標の信憑性揺らぐ

文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー
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「gettyimages」より

 中国経済の不振に世界の注目が集まっている。ゼロコロナ政策が解除された中国経済は、今年第1四半期に力強い回復を示したものの長続きせず、その後は市場の予測を下回る経済指標の発表が続いている。直近の例でいえば、8月15日に発表された7月の消費財小売売上高は前年比2.5%増にとどまり、前月の3.1%増から減速した。各地でロックダウンが相次いでいた昨年7月からの伸びとしては非常に低い数字だ。7月の工業生産も伸び悩んでいる。増加率は前年比3.7%増と前月の4.4%から鈍化した。マンションや耐久消費財の販売が芳しくなかったことが主な要因だ。

 中国経済の今後についても悲観的な論調が強まっている。8月17日付日本経済新聞は「きしむ中国成長モデル」と題する記事を報じた。「不動産不況、地方の財政難、人民元安の3つが危機の発火点になる」と警告を発している。経済の屋台骨だった不動産業が未曾有の危機に陥っていることから、中国人民銀行(中央銀行)が政策金利の引き下げを実施しているが、力不足の感は否めず、「中国政府は大規模な景気刺激策を実施すべきだ」との声が日増しに強まっている。中国政府は国内消費の拡大や民間部門の支援を繰り返し表明しているが、景気刺激策の詳細を示しておらず、口先だけで経済の回復を図ろうとしている節がある。中国政府の無策のせいで経済の状況は悪化するばかりだ。

 そのあおりを受けているのは若者(16~24歳)だ。若者の6月の失業率は21.3%となり、記録的な水準となっている。就職難にあえぐ若者にとっての「頼みの綱」は配車サービス業だが、市場はすでに飽和状態となっており、配車アプリに登録している580万人のドライバーの多くが収入減に陥っている(8月17日付ロイター)。有効な打開策を打ち出せない中国政府はこともあろうに、この「不都合な真実」をひた隠しにすることを決定した。中国政府は8月15日、「8月から全国都市部での若年失業率や年齢別失業率の公表を一時停止する」と発表した。「労働力調査統計のさらなる改善と最適化のため」としているが、「臭いものに蓋をした」中国政府に対する信頼が低下するのは間違いないだろう。

中国の現状把握が困難に

 中国を最近訪問した外国人の間で「中国の現状把握が難しくなった」との嘆き節が聞こえてくる。中国の長年のカウンターパートが保身のために多くを語らなくなり、有益な情報が手に入らなくなっているためだ(8月9日付ブルームバーグ)。中国では情報が比較的オープンだった経済の分野でもタブーが増えており、若年失業率とともに「腫れ物扱い」されているのは「中国経済のデフレ化」だ。中国の7月の消費者物価指数(CPI)は前年に比べて0.3%下落した。新型コロナのパンデミックの影響があった時期を除けば、2009年10月以来のマイナスとなった。住宅需要の急速な冷え込みなどから7月の卸売物価指数(PPI)も10カ月連続でマイナスとなっており、中国経済がデフレ化しているのはたしかだ。

 不動産バブル崩壊後の1990年代以降の日本が示すとおり、デフレ化は経済にとって「死に至る病」と言っても過言ではない。中国政府は「経済はデフレ化していない」と懸念の払拭に躍起になっているなか、「物言えば唇寒し」ではないが、中国人アナリストがデフレについて公に語ることは御法度になっている(8月8日付ブルームバーグ)。

 中国政府が公表している住宅価格の信憑性も問題になりつつある。政府のデータによれば、中古住宅価格は2021年8月の高値から6%の下落にとどまっているが、民間の調査では上海や深圳など主要大都市圏の一等地などで少なくとも15%下落しているからだ(8月17日付ブルームバーグ)。不動産企業の記録的なデフォルト(債務不履行)にもかかわらず、「中国の住宅市場は比較的に堅調にしている」との見解を示す中国政府に対し、「市場の状況を正確に把握していないのではないか」との不信感が生じている。地方政府の債務や今夏の豪雨被害も中国政府が触れられたくない話題だと思う。

出生数、建国以来初めて1000万人を割り込み

 若年失業率の例のように、中国政府が今後、これらのデータを明らかにしなくなる可能性は排除できないのではないだろうか。国民に対する説明責任の意識が乏しい中国政府にとって、自らの失策があからさまになる情報公開など「百害あって一利なし」だからだ。筆者は「中国政府が隠蔽したいのは人口減少の問題だ」と考えている。外国人を含まない中国大陸の昨年末の総人口は前年に比べて85万人減少し、14億1175万人になった。61年ぶりの減少だ。昨年の出生数は前年比106万人減の956万人となり、1949年の建国以来初めて1000万人を割り込んだ。「今年の出生数は700~800万人にまで減少する」と予測する中国の専門家もいる(8月13日付CGTN Japanese)。

 人口の多さを国力の源泉とみなしてきた中国政府にとって「加速化する人口減少」という事実は最大のタブーだ。最も基本的な経済データである人口統計が中国で発表されなくなるのは時間の問題なのかもしれない。だが、都合の悪い情報に目を背け、身を切る改革を断行しなければ、状況が悪化するのは過去の歴史が教えるところだ。過去の権威主義国家と同様、中国政府は不作為の罪により、建国以来最悪の経済不況を招いてしまうのではないだろうか。

(文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー)

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

1984年 通商産業省入省
1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)
1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)
1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)
2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)
2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)
2016年 経済産業研究所上席研究員
2021年 現職
独立行政法人 経済産業研究所

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