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中国、デリスキングで国家富強政策に暗雲…世界の半導体サプライチェーンから排除

文=中島精也/福井県立大学客員教授
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中国・習近平国家主席(「Wikipedia」より/Palácio do Planalto from Brasilia, Brasil – 14.04.2023 – Cerimônia Oficial de Recepção

 5月19〜21日に開催されたG7広島サミットは、中国が国際ルールを守らず軍事的脅威を使って東シナ海、南シナ海を自らの領海として支配しようとしていること、ウィーン条約が定めた外交官の不逮捕特権に違反して他国の外交官を拘束したり、外国に中国警察の出先機関を設置して中国人活動家を取り締まるなどの内政干渉を行なっていること、台湾の武力統一を放棄しないと脅迫したり、チベット、新疆ウイグル自治区での人権侵害、香港の一国二制度を定めた英中共同声明を破棄したこと、さらに不当に外国企業に技術移転を強要したりしている事実に言及。G7は中国とデカップリングするわけではないが、安全保障の観点から先端技術の保護とサプライチェーンの中国依存を減らすデリスキングが必要というコミュニケを発表している。

 これに反発した中国は、中国共産党機関紙、人民日報系の「環球時報」が5月22日の社説で「G7は『反中国の工場』に成り下がった」と論じている。また、中国外務省の孫衛東次官はG7議長国である日本の垂秀夫駐中国大使を呼びつけて、「日本はG7議長国として関係国と共に中国を中傷し、中国の内政に粗暴に干渉した。断固反対する」と強く抗議した。これに対し、垂大使は「中国が行動を改めない限り、これまで同様にG7として共通の懸念に言及するのは当然のことであり、将来も変わらないだろう。中国がこうした懸念事項に言及しないよう求めるのであれば、まずは中国側が前向きな対応を行うべきだ」と真っ向から反論している。

 中国では建国100年にあたる2049年までに、米国に代わって世界覇権を握る野望を持つ習近平総書記の独裁化が一段と進んでいる。このような状況を踏まえれば、G7広島サミットが指摘した懸念材料に中国サイドが真摯に応えることは考えにくく、むしろ戦狼外交を強化していくとみたほうが正解だろう。この軍備拡大を加速させている中国の脅威に対抗するには、何が最も効果的なやり方だろうか。

中国を対象に半導体製造装置の対中輸出規制強化

 中国、いや習近平の世界覇権の野望を挫く最も効果的な方法は、中国の経済成長を頓挫させることに尽きると思われる。富国が強兵を産むわけであり、富国なければ強兵もない。よって、G7を核とする西側民主国家連合が中国への先端技術の移転を徹底的に封じ、半導体など先端技術サプライチェーンから中国を排除することは不可欠である。デリスキングと言うものの、先端技術に関しては限りなくデカップリングに近いものが必要だ。

 それを象徴する対策が半導体関連の米国の対中輸出規制の強化であり、その旗を振るのが米商務省産業安全保障局(Bureau of Industry and Security:BIS)である。BISは2020年に中国の大手半導体メーカー中芯国際集成電路製造(SMIC)など外国企業77社(うち中国が60社)をエンティティリスト(貿易上の取引制限リスト)に載せて、米国製品(物品・ソフトウェア・技術)の輸出に制限をかけた。

 2022年にはBISは先端半導体技術の対中輸出規制を発表し、中国のスーパーコンピューターや集積回路(IC)開発・生産のための半導体製造装置、及び半導体関連サービスの輸出も原則禁止となった。2023年には米国は半導体製造装置で優位に立つ日本とオランダを説得して、中国を対象に半導体製造装置の対中輸出規制の強化で合意している。半導体製造装置は日米蘭3カ国で90%のシェアを有するといわれており、半導体製造装置を輸入できなくなる中国の半導体生産は大きな打撃を被るのは避けられない。

 通信の分野でも2019年度国防権限法に基づき、米政府及び米企業の華為技術、中興通訊(ZTE)など5社からの製品・部品の調達を禁止することを決めている。中国政府が「軍民融合」路線をとっている以上は、中国の民間企業は西側の企業とは似て非なるものであり、安易に取引を行えば、安全保障上の問題が生じかねないからだ。G7の中国デリスキングは恐らく米国の主導のもとで着々と実行されていくだろう。

 これまでの中国経済は成長の3要素の1つである全要素生産性の伸びに関しては西側技術に依存するところが大きかった。これが封じられると生産性の伸びが低下して中国の成長は大きく鈍化せざるを得ない。習近平総書記は「科学技術の自立自強を加速すべき」と発破をかけているが、西側技術の代替がスムーズに進むことは考えにくい。中国の「国家富強・軍隊強化(富国強兵)」政策は曲がり角に来ているのは確かだと思われる。

(文=中島精也/福井県立大学客員教授)

中島精也/福井県立大学客員教授

中島精也/福井県立大学客員教授

1947年生まれ。横浜国立大学経済学部卒。ドイツifo経済研究所客員研究員(ミュンヘン駐在)、九州大学大学院非常勤講師、伊藤忠商事チーフエコノミストを経て現職。丹羽連絡事務所チーフエコノミストを兼務。著書に『傍若無人なアメリカ経済─アメリカの中央銀行・FRBの正体』(角川新書)、『グローバルエコノミーの潮流』(シグマベイスキャピタル)、『アジア通貨危機の経済学』(編著、東洋経済新報社)、『新冷戦の勝者になるのは日本』(講談社+α新書)等がある。日経産業新聞コラム「眼光紙背」と外国為替貿易研究会「国際金融」に定期寄稿。

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