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藤和彦「日本と世界の先を読む」

中国のゼロコロナ解除で原油価格高騰→世界的な景気後退で原油価格急落シナリオ

文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー
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中国(「gettyimages」より)

 米WTI原油先物価格はこのところ1バレル=80ドル前後で推移している。金融引き締めが「利上げ不況」を招くとの懸念がくすぶる中、「ゼロコロナ政策を解除した中国の経済活動が早期に正常化して原油需要が回復する」との観測から、原油価格は2週連続で上昇している。

 まず供給面の動きから見てみたい。ロイターによれば、昨年12月のOPECの原油生産量は日量2900万バレルとなり、11月に比べて12万バレル増加した。ナイジェリアの生産増は主な要因だ。OPECとロシアなど主要産油国で構成するOPECプラスは原油相場を下支えするため、11月から日量200万バレルの減産を今年末まで実施することで合意している(OPECの減産幅は約127万バレル)。世界最大の原油生産国である米国は、資材コストの上昇や労働力不足などの問題が続いているが、生産量は日量1200万バレル強で安定的に推移している。昨年12月に西側諸国から価格上限措置(1バレル=60ドルが上限)を科されたロシアの原油生産量は底堅く推移しているようだ。ノバク副首相は「原油輸出の契約取り付けで問題は生じていない」と述べている。

 ロシアは西側諸国に対して報復する姿勢を示している。プーチン大統領は昨年12月末、ロシア産原油の取引価格の上限措置を導入した国への原油の供給を禁止する大統領令に署名した。禁輸の期間は今年2月から5カ月間、大統領の特別な決定があれば、禁輸を解除できることになっている。

 今年の原油価格の帰趨は需要面が鍵を握るといっても過言ではない。なかでも中国の動向に市場関係者の注目が集まっている。国際エネルギー機関(IEA)は1月18日、「今年の世界の原油需要は前年比190万バレル増の日量1億170万バレルになり、史上最多になる」との予測を示した。世界の原油需要の増加の半分は中国のゼロコロナ政策の解除に伴うものだと分析している。

 OPECも17日、「今年の中国の原油需要は日量51万バレル増加し、世界の需要増加を牽引する」との見方を示した。ゴールドマン・サックスも9日、「世界の原油需要は今年日量270万バレル増加し、そのうち中国の需要増が170万バレルを占める」とした上で「原油価格は今年後半に1バレル=105ドルに上昇する。高騰した原油価格を抑えるため、OPECプラスは減産幅を縮小し増産せざるを得なくなる」との見通しを提示している。

中国経済に悲観的な見方

 これらの予測はすべて「ゼロコロナ政策の解除で中国の経済活動が順調に回復する」ことを前提にしているが、はたしてそうだろうか。世界銀行は10日、今年の世界経済の成長率見通しを1.7%に引き下げた。これが正しいとすれば、今年はマイナス成長に沈んだリーマンショック後の2009年、コロナ禍の2020年に次ぐ低成長となる。

 中国ではゼロコロナ政策の解除により、新型コロナの感染が急激に拡大し、製造業の景況感に多大な影響を及ぼしている。3日に公表された昨年12月の財新中国製造業購買担当者指数(製造業PMI)は49.0となり、前月よりも0.4ポイント低下した。好不況の判断の目安である50を5カ月連続で割り込んだ。

 中国経済に悲観的な見方を示す専門家は増えるばかりだ。中国経済を最も楽観的に見てきたスティーブン・ローチ氏でさえ「中国経済は既に深刻な景気後退(リセッション)に見舞われており、中長期的にも高成長には戻らない」と述べている(1月11日付日本経済新聞)。米国の製造業も同様だ。昨年12月の米製造業景況感指数は11月に続き好不況の節目である50を下回り、2年7カ月ぶりの低水準となっている。米国経済を長年牽引してきたテック業界も利上げによる景気減速懸念から人員削減(レイオフ)を加速している。米テック業界は昨年、15万人を超える規模でレイオフを実施したといわれている。

 バークレイズは10日、「世界の製造業の活動が2008~9年並みに悪化すれば、原油価格は1バレル当たり15~25ドル下落する可能性が高い」との分析を示している。今年の世界の製造業の景況感は2009年並みに悪化する可能性があり、原油価格は急落するシナリオが現実味を帯びてきている。米シェール企業大手パイオニア・ナチュラル・リソースのシェフィールドCEOは5日、「OPECプラスは原油価格の下落を回避するため追加減産を余儀なくされるのではない」と発言したが、筆者もその可能性が高いのではないかと考えている。

 OPECプラスが追加減産を実施すれば、米国政府が反発することが懸念される。「原油価格の安定」を至上命題に掲げるサウジアラビアへの米国側の苛立ちが募れば、中東地域の地政学リスクは高まるだろう。プレゼンスが低下しているものの、当該地域の安全を保障しているのは米国だからだ。ロシアのウクライナ侵攻のせいで日本の原油の中東依存度は95%と過去最高になっている。中東地域の動向にもこれまで以上に注意を払うべきではないだろうか。

(文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー)

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

1984年 通商産業省入省
1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)
1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)
1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)
2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)
2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)
2016年 経済産業研究所上席研究員
2021年 現職
独立行政法人 経済産業研究所

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