5年に一度の中国共産党大会を経て、習近平総書記が異例の3期目入りを果たした。新たに発足した最高指導部には“習派”がずらりと並び、後継候補も見当たらないため、習氏への権力集中や超長期政権化が懸念されている。
今後の注目点のひとつが台湾をめぐる動きだ。今回の党大会では、初日の活動報告で習氏が台湾統一について「決して武力行使の放棄を約束しない。必要なあらゆる措置をとる選択肢を持ち続ける」と語り、台湾総統府が「私たちは主権問題で譲らない。民主主義と自由を守り抜く」と応酬した。
また、党の憲法とされる党規約に「『台湾独立』に断固として反対し抑え込む」という文言を盛り込む改正方針が決議され、ほかに「科技強軍」や「世界一流の軍隊を建設する」といった文言も盛り込まれるという。
異例の3期目入りを果たした習氏は、過去10年と同じように党トップの総書記、国家元首の国家主席、軍トップの中央軍事委員会主席の3ポストを務める。党大会後の中央委員会第1回全体会議では、24人の政治局員(指導部)と7人の政治局常務委員(最高指導部)が選ばれ、最高指導部では習氏が嫌うとされている共産主義青年団(共青団)の出身者が2人から0人となり、習派が6人を占めたことが波紋を呼んでいる。
一方で、王毅国務委員兼外相が政治局員に昇格し、外交を仕切る党中央外事工作委員会の事務局トップに就くとみられている。王氏はかねてから威圧的な言動で他国を牽制する「戦狼外交」を進めており、台湾侵攻をめぐっても、さらに緊張感が高まることが予想される。
習氏の3期目入りについて、「習近平の暴走を止められる勢力が壊滅し、軍事委員会は『台湾侵攻派』が勢揃いした。習近平3期目の特色は『暴走皇帝に無能側近、戦争推進軍人』。これで、台湾侵攻は早まる可能性が出てきた」と語るのは、中国情勢に詳しい評論家の宮崎正弘氏だ。
「軍事委員会の陣容は、副主席留任という異例の形になるのが老齢の張又侠。新たに、何衛東・前東部戦区司令員が副主席に起用された。張又侠は父も上将で『父子将軍』の家系、ほかに頼りにできる軍人がいないからだろう。何衛東・上将は主に偵察畑を歩き、軍の科学技術学校から南京軍区、2019年から東部戦区の司令員である。つまり、台湾侵攻の最前線にある。
新昇格組は、李尚福・装備発展部長(次期国防相に有力)と、劉振立・陸軍司令官だ。事前の下馬評で副主席昇格の噂があった苗華・政治工作部主任と、張昇民・軍規律検査委員会書記は留任した」(宮崎氏)
台湾をめぐる中国の動きには、米国も神経をとがらせる。11月にはインドネシアでG20首脳会議が開かれるが、そこで習氏とジョー・バイデン大統領との首脳会談が実現するかどうかが、ひとつの分水嶺となりそうだ。