8日付「文春オンライン」記事は、北海道日本ハムファイターズ監督の新庄剛志が現役プロ野球選手の頃、ドーピング検査を受けて陽性反応が出ていたとスクープした。「文春」によれば、「アンフェタミン系の薬物」が検出されたものの、覚醒剤取締法の規制対象薬物ではなかったため、公表されることはなかったというが、なぜ新庄はそのような疑いを持たれかねない薬物を使用していたのだろうか――。
まず、「文春」報道後の大手メディアや日ハムの反応について全国紙記者はいう。
「スポーツ紙に限らず一般紙やテレビも、この件については一様にスルーの姿勢で後追い報道をしていない。どの大手メディアにとっても“日ハム”“新庄”は数字の稼げる人気コンテンツであり、日ごろの取材活動もあり日ハムとの関係は非常に重要。日ハムのみならず当時情報を公開しなかったNPB(日本野球機構)もからむ、やっかいな話になってくるので、避けているのだろう。
新庄から検出された薬物が違法なものではなかったとしても、NPBが公式に実施したドーピング検査で陽性反応が出たという事実は重く、今、同じようなことがあれば当該選手は処分を受けるのは免れない。今回の報道を受けて球団がなんらかの対応を取る可能性は低く、現実的には有耶無耶にされたままで終わるだろうが、ドーピング検査は新庄が日ハム在籍時代の話であり、陽性反応が出た年に新庄は現役を引退しているため、ドーピング検査の結果と新庄の退団にどのような関係があったのか、そして新庄が過去に同検査で“ひっかかった”事実を把握しながら、それを公表せずに監督に就任させた責任をどう考えているのかについて、球団には説明責任はあるだろう。
球団としてしっかりとした説明を行わなければ、日ハム、そしてプロ野球界全体へのファンからの信頼が揺らぐことにつながる」
「うっかりドーピング」を防ぐ
「文春」によれば、新庄が服用していたのはアンフェタミン系の興奮剤「グリーニー」である可能性が高いとのことだが、薬剤師の小谷寿美子氏は次のように解説する。
「アンフェタミンは法律で取り締りがなされている“よくないもの”ということは、みなさんもご存知かと思います。日本の医療において禁止されている物質ですが、アメリカでは医療用医薬品として存在しています。これは脳内の神経に働いて、神経伝達物質を大量に放出させるという効果があります。普段は脳の指令によってこうした物質が出るのですが、それとは無関係にノルアドレナリン、ドパミン、セロトニンといった物質がアンフェタミンによって出てしまうのです。
ノルアドレナリンには交感神経興奮作用があります。これにより、心臓のポンプ機能を上げて血流量を増やします。筋肉がより動けるようにする効果もあります。ドパミンは別名『幸せホルモン』とも呼ばれていて、これがあることにより幸せな気持ちになります。つまり、アンフェタミンによって幸せな気持ちを強制的に作り出してしまうのです。
そしてセロトニンにはストレス軽減作用があります。脳内のセロトニンが減ると、気持ちが落ち込んでしまうのですが、アンフェタミンによってセロトニンの量を増やしてアゲアゲにしてしまうわけです。アスリートの場合は、心臓のポンプ機能を上げて血流量を増やすといった効果により、運動パフォーマンスを上げることになります。
極度の緊張でガチガチになることなく、幸せな気持ちで、なおかつ気持ちアゲアゲで試合に臨めるのですから、持っている能力を最大限に発揮できます。これでは競技として公平性を保つことはできません。トレーニングをした結果の“すごいパフォーマンス”を見たくて私たちはプロスポーツにお金を払うので、プロスポーツへの信頼が崩れてしまいます。
また、アンフェタミンは脳の指令と関係なく神経伝達物質を出してしまうので、人間が本来持つ“指令を出す能力”がなくなります。つまり、薬がないと神経伝達物質を出すことができなくなり、『依存性』と呼ばれるものになります。
アンフェタミンは口から入れると消化・分解されてしまい、体内で薬効を発揮しません。そのため、注射や鼻粘膜から、そのままの形を維持できるように体内に入れる方法をとります。今回話題となっている『グリーニー』はクロベンゾレックスという化学物質を含む錠剤です。つまり、飲めるのです。吸収の良い形にして飲んで、不要な部分を体内で切り離してアンフェタミンとして作用させることができます。クロベンゾレックスは法的に規制されていなかったため、さらには錠剤の形なので『サプリメントだから』と紹介されれば、気づかず飲んでしまいます。
トップクラスのスポーツ選手は自分が飲むものについて、とても神経をとがらせます。それにこたえるべく、私たち薬剤師も『うっかりドーピング』にならないように注意して薬を販売しています。一般的な風邪薬でもドーピング規制医薬品が含まれているので、一つひとつ丁寧に調べるようにしています」
(文=Business Journal編集部、協力=小谷寿美子/薬剤師)