「これって、又貸しなんじゃないの?」
ドン・キホーテの店内と見まがうほど販売台の商品が密集しているのは、ある図書館の1階通路である。その館内スペースを、運営者が勝手に他社へ又貸しして儲けているのではないかとの疑惑が、ある界隈でしきりに話題になっている。
舞台は、全国で6番目の“ツタヤ図書館”として2020年6月、南海市駅前にオープンした和歌山市民図書館。同館を運営するのは、全国にTSUTAYAを展開しているカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)である。
同館内で、同社の経営する蔦屋書店とスターバックスの賃料(行政財産の目的外使用料)が、当初の想定額から9割引にされているというスキャンダルを、9月8日付当サイト記事『ツタヤ図書館、和歌山市が利益供与か…スタバと蔦屋書店の賃料9割引きのカラクリ』、および9月21日付記事『ツタヤ図書館は第2の森友学園?不自然に値引きされた賃料、裏で市長と癒着か』で報じた。
いったい和歌山市では今、何が起きているのか。市長とCCCの癒着が引き起こしたと囁かれる“疑惑の沼”の続報をお届けしよう。
下の写真は、今年3月10日に投稿された「水曜日のアリス」という有名雑貨ブランドのポップアップショップ(催事会場で期間限定営業する店舗)の公式ツイートである。
[水曜日のアリスオフィシャル] 水曜日のアリス POP UP SHOP 期間限定OPEN✨
— Alice on Wednesday[水曜日のアリス] (@official_AoW) March 10, 2022
♠️♥️
蔦屋書店 和歌山市民図書館
♣️♦️ 期間 : 3/10~4/24 場所: 和歌山市屏風丁17番地 時間: 9時~21時 図書館に現れた不思議の国に「アリス」の世界観をモチーフしたアイテムがいっぱい✨ 是非お越し下さいませ?? pic.twitter.com/wC5jCTrSxG
「水曜日のアリス POP UP SHOP 期間限定OPEN」とされた場所は、<蔦屋書店 和歌山市民図書館>だ。だが、この場所を和歌山市から借りているのは「水曜日のアリス」ではない。市民図書館の指定管理者を務めるCCCだ。つまり、和歌山市から破格値で借りているCCCが、「水曜日のアリス」に又貸していることになるのだが、和歌山市の使用許可書には、こう明記されている。
上記の目的以外に使用し、又は他人に転貸し、故意もしくは過失怠慢により荒廃させ、又は棄損し、その他許可の趣旨に反する行為をしたときには、許可を取り消す
「又は他人に転貸し」は、まさにこのケースに該当すると思われるものの、又貸ししていても、“故意もしくは過失怠慢により荒廃させ”ていなければ、セーフとも読める。
そこで筆者は和歌山市民図書館を管掌する読書活動推進課に、明らかな契約違反ではないのかと問い合わせたところ、同課からこんな意外な回答が返ってきた。
ポップアップショップは、蔦屋書店が「水曜日のアリス」から商品を仕入れて販売しているものであり、指摘されたようにCCCが自社が借りた通路部分を他社に又貸ししているわけではない。そのため、特に問題ない。
ところが、先ほどのツイートを見る限り、蔦屋書店の一角ではなく、「水曜日のアリス」の看板を掲げた店舗である。契約書など形式的には蔦屋書店の営業としているのかもしれないが、実態は“他店への又貸し”そのものではないのか。
しかも、この写真をみる限り、又貸しが疑われる部分は、CCCが予め和歌山市から使用許可を得ているスペースを明らかにはみ出ている。もしかしたら、CCCが賃料を払っていない通路部分でも営業しているのではないのかという疑いまで出てきた。
筆者は、これはおかしいと憤慨したものの、それ以上追及するネタがなかったため、しばらくそのまま放置していた。それから約半年が経過した先日、CCCが全国の蔦屋書店において、和歌山市民図書館内のポップアップショップと同じような“場所貸し”事業を展開していることがわかった。その賃料が2週間で200万円と、とんでもなく高額だったのだ。
もともとCCCが和歌山市に払っている目的外使用料は、ほとんどタダみたいな金額なのに、そのスペースを又貸しして大儲けしているのかと、筆者は絶句した。
ソースとなったのは、大阪万博に向けた県産品の販路拡大のために、岐阜県が委託者を募集したページである。大阪の梅田の蔦屋書店となんばマルイにおいて、県産品販売コーナーの運営委託者を募集するとして、そこに、梅田蔦屋書店の会場使用料が、2週間で200万円と明記されていたのだ。(縦横ともに1.2メートル、高さ75センチの平台2台)
なるほど、蔦屋書店を経営するCCCは、全国の系列店舗で、和歌山市民図書館内のポップアップショップと同じような“場所貸し”事業を展開しているのか――。そう思い、これに関するCCCの営業資料を取り寄せてみたところ、全国19の蔦屋書店とT-SITEにおける同サービスの料金表が掲載されており、そこには“平台展開”として“100万円~/2週間”と明記されているではないか。
和歌山市民図書館内の蔦屋書店は、この営業資料の店舗別価格一覧のリストには掲載されていなかったが、これが全国の主要店舗で展開している、CCCの販促サービスラインナップのひとつであることは間違いない。
和歌山でも、実際に蔦屋書店が通路で、ポップアップショップの貸出事業を展開している以上、決して安くない料金を、これら事業者からCCCは徴収しているのだろう。
では、CCCはその図書館内のスペースを、いったいいくらで借りているのだろうか。
上の写真で、同館の正面から奥へ伸びていく通路は、もともと図書館との共用部分。目的外使用の店舗は、販売棚単位で課金されていて、なぜか床部分は負担しなくてもいいとされ、賃料が激安になっていたはず。それなのに、その通路部分に、商品を派手に陳列したポップアップストアが密集しているのである。
この店舗画像を最初に見た昨年10月、「まさか、この通路にはみ出した部分のスペースはタダなのか?」と思い、和歌山市に情報開示申出を行ったところ、1年単位で出されているカフェと書店部分の定期申請とは別に、イベントが開催されるたびに、CCCからはみ出した部分について追加申請がなされていたことがわかった。
昨年10月1日付でCCCから出されていた申請が下の画像である。
「土地・建物14.68平方メートル」「広告物3.50平方メートル」について「令和3年11月1日~令和3年12月31日」の2カ月間の使用許可申請が行われており、10月28日付で正式に許可が下りている。気になる賃料は、2カ月で2万9152円。1カ月にすると1万4576円である。同社が全国の主要な蔦屋書店で展開している平台のセールスプロモーション価格(「100万円~/2週間」)の単位に合わせると、「7200円~/2週間」となり、原価は、138分の1以下になる計算だ(追加申請したスペースすべてを他の蔦屋書店と同水準の料金で貸し出した場合)。
これがどれほどの面積なのかを示したのが、下の図である。1.97平米の島什器が4台、やや大きめの3.28平米の島什器が1台、壁面に沿って横長に設置された0.82平米の什器が8台、1平米のサンプル商品がひとつで、計14.68平米。1日あたりの金額に換算すれば、どれも1台数十円にすぎない。平台のレンタル料や設置する人件費と比べたら、ほぼタダとみなしていいような金額といえる。
そうして激安で借りた図書館内のスペースを、CCCは冒頭で紹介した「水曜日アリス」のようなブランドショップに実質又貸しをしており、料金表の水準からして決して安くない料金(平台展開なら2週間で100万円以上)をもらっていると思われるのだ。
公共施設の指定管理者という優位な立場を利用して、安く借りたスペースを他社に高額で又貸しして稼ぐという行為は、果たして妥当といえるのだろうか。和歌山市教委は「又貸しではない。蔦屋書店が仕入れて販売」と釈明しているが、その証拠は明示されていない。
後日、「蔦屋書店が水曜日のアリスから商品を仕入れて販売していることをどうやって確認したのか?」と担当部署に問い質したところ、CCCに契約書等を提出させて事実確認したわけではなく、「担当課の職員が蔦屋書店に問い合わせたら、そう回答した」というだけのことだった。
よしんば、契約上は又貸しではなかったとしても、図書館内で他社から請け負ったセールスプロモーションを派手に展開することは、あきらかに目的外使用許可の対象外のはず。そのような行為を、和歌山市が平然と見逃しているのは、不可解としかいいようがない。
少なくとも、このような事実を和歌山市民は何も知らされていない以上、いったいどうなっているのかについて、市は説明する責任があるのではないか。
(文=日向咲嗣/ジャーナリスト)