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ツタヤ図書館、和歌山市が利益供与か…スタバと蔦屋書店の賃料9割引きのカラクリ

文=日向咲嗣/ジャーナリスト
ツタヤ図書館、和歌山市が利益供与か
和歌山市民図書館公式サイトより

「2期務めた現職は強いということでしょう。市民図書館のこと? 話題にも上らなかったですね。ご本人も、あまり実績としてアピールしていませんでした」

 そう話すのは、8月21日に市長選が行われた和歌山市のある市民だ。今回の市長選では、現職で3期目をめざす尾花正啓氏が、元市議会議長の吉本昌純氏に3万5000票以上の差をつけて当選した。

 2020年6月5日、全国でTSUTAYAを展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が運営する、いわゆる“ツタヤ図書館”が南海・和歌山市駅前にオープン。新市民図書館の開館後、今回が初の市長選とあって、現職の尾花氏はさぞや自らの実績としてアピールしたのではと思いきや、なぜか選挙戦で図書館のことは、ほとんど話題に上らなかったという。

 31.54%という低い投票率が物語っているのは、「どうせ誰が市長になっても同じ」という市民の諦めか、それとも市政への絶望的な無関心なのだろうか。

 そうしたなか、いま和歌山市民図書館の運営にまつわる“ある疑惑”が物議を醸している。ツタヤ図書館の集客の目玉ともいえる、館内に設置されたスターバックスと蔦屋書店の賃料決定をめぐって、尾花市長がCCCに常識外れの便宜供与をしたのではないかと囁かれているのだ。

 下の画像は、2017年10月に和歌山市が発表した、市民図書館の指定管理者募集要項の一部抜粋である。「行政財産の目的外使用」の項目に、こう記載されている。

「なお、現在の試算による使用料は、1年あたり31,851円/平米です」

ツタヤ図書館、和歌山市が利益供与か…スタバと蔦屋書店の賃料9割引きのカラクリの画像2

 新しい市民図書館に併設されるカフェ店舗の運営を指定管理者に任せることになっており、その賃料(行政財産の目的外使用料)の年額が、平米当たり約3万円。同館の1階部分は1650平米あるため、仮にその半分の800平米を民業店舗とした場合、指定管理者が和歌山市に払う賃料は年間2400万円になる見込み。月に直すと約200万円である(※ちなみに、2018年に開館した山口県周南市の徳山駅前図書館は、1階スペースの約6割がCCC店舗)。

 同館が入居する駅ビルの医療モールが、1平米当たり年4万円(月3300円)で、完成前にテナントを先行募集していたことからすれば、破格値ではあるものの、公共施設としては許容範囲といえなくもない。

 和歌山市は、民間企業に年間3億3000万円の指定管理料を払って図書館の運営を任せる。その代わり、市が所有する館内のスペースを民間に貸して賃料収入を得ることで、運営費負担を軽くできる仕組み。その賃料見込みが年間2400万円以上になる計算だ。

 ところが3年後、実際にオープンしたときの賃料は、なぜかこの金額とは掛け離れたものだった。

“行政財産使用許可書”と題された、令和2年6月5日付の教育長名の文書には、こう書かれていた。

「使用料は1,931,540(管理負担金は別途請求する。)」

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 許可期間は、令和2年6月5日から令和3年3月31日までの10カ月間のため、1カ月当たりの賃料に直すと19万円ということになる。

 募集要項に記載されていた単価からの試算では、少なくとも月200万円は下らないはずだった。それなのに実際にフタを開けてみたら、その10分の1になっていたのだから、これは、ただごとではない。

 いったい、何をどうしたら、こんな安い金額になるのか。筆者が、この間の経緯を詳しく調べていったところ、次々とおかしな事実が浮かび上がってきたのだった。

スタバ&蔦屋書店の賃料が異常に安いカラクリ

 CCCが和歌山市に申請していた使用許可は、2020年6月5日の市民図書館オープン当日に下りていた。その行政財産の使用許可書で、真っ先に目につくのが使用面積である。

 許可物件の“カフェ、書店・物販・文具販売、自動販売機1台”の使用面積は“220.91平方メートル”とされている。

 先の試算を思い出してほしい。1650平米ある市民図書館の1階部分について、少なめに見積もっても800平米程度は賃料の対象になるはず。しかし実際には、その4分の1ほどの200平米ちょっとしか賃料の対象になっていないのだ。

 いったい、なぜそうなっているのか。図面を見てみると、そのカラクリが判明した。

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 カフェの専用テーブルやカウンター、書店の棚など店舗が使用する部分のみをピンポイントに対象としていて、床や通路などはすべて“共用部分”として使用料の対象からきれいに外れている。賃料を1円でも安くするためなのか、厳密な線引きがなされていたとしか思えない。

 1階部分は8割以上がカフェと書店スペースに見える。高い位置に祭り上げられた高層書架など、ほんの一部が図書館スペースになっているにすぎない。あとはすべてCCCの店舗なのに、この使用料申請では、それとは真逆に、ほとんどが「共有スペース」の扱いで、賃料の対象となる民業店舗は、ほんの一部だけ。賃料対象部分を意図的に狭くする操作が行われていたことが、誰の目にも明らかだろう。

 賃料が安くなったもうひとつの要因は、使用料単価の値下げだった。使用申請書にあった10カ月で193万円の使用料(年間231万円)を、許可申請面積である220.19平米で割ると、オープン後の実際の単価は、1平米当たり年間約1万円。募集要項の平米あたり年3万円の3分の1になっていることがわかる。

 つまり、使用料の対象とする面積を極限まで狭くしたうえに、単価も当初設定した金額の3分の1に下げることで、月19万円という破格値を実現していることになる。

 平米当たり年1万円という単価を一般の賃貸住宅にあてはめてみると、20平米のワンルームの月額家賃が1万6000円になる計算。築50年の風呂なし木造アパートですら、今どき、そんな家賃では借りられない。それが県庁所在地のターミナル駅に新築された超一等地だというのだから、何か特別な政治的パワーでも発動されない限り、これほどまでの激安賃料が適用されることはありえないだろう。

非常識すぎる和歌山ツタヤ図書館の賃料

 では、同社が運営するほかのツタヤ図書館ではどうなっているのだろうか。

 和歌山市と同じく、駅前にCCC運営の賑わい創出型の徳山駅前図書館を新築した山口県周南市のケースを調べてみたところ、意外な事実が判明した。

 徳山駅前図書館のカフェ・書店スペースを借りているCCCが周南市に払った2018年度の賃料(行政財産の目的外使用料)は、年間1110万8000円だった。月額に直すと92万5666円であり、和歌山市の月19万円の約5倍である。

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 人口36万人を擁する県庁所在地・和歌山市よりも、人口14万人の周南市のほうが賃料が5倍も高いのである。

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 一体、なぜそんなに差が出るのか。使用許可書に記載された「面積」の部分を見たら、その理由は一目瞭然だった。

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 周南市の使用許可の対象面積は、903平米となっており、和歌山市の220平米の4.1倍。つまり、通路も含めて1階の大半のスペースと2階の書店部分が賃料の対象となっていて、和歌山市のような、棚とテーブルのみピンポイントに賃料発生という屋台方式ではない。この点をみただけでも、いかに和歌山市が非常識かがよくわかる。

 平米当たりの単価を計算してみると、年間1万2000円程度と、周南市も和歌山市の1万円とほぼ同水準であることから、この賃料対象の線引きの違いが賃料5倍の差に大きく貢献していることがわかる。

 さらに、周南市の徳山駅前図書館の“目的外使用”が和歌山市と大きく異なる点が、もうひとつ見つかった。

 下の表は、周南市が開示した、徳山駅前図書館における行政財産の使用料に関する57枚の文書の内容を項目別に整理したものだ。

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 赤線で囲んだ部分を見ると、同市には新図書館がオープンする2018年4月1日よりも前から、行政財産の使用申請がCCCによって行われていた。

 館内の内装工事が完了した後、商品や什器、機材などを搬入したり、スタッフの研修を行ったりする開業準備は、どんな店舗でも必要である。周南市の徳山駅前図書館では、その準備期間として、オープン前4カ月にわたって、店舗スペースを市から借り受けて賃料を払っていた。その額はトータルで357万円。

 和歌山市はどうかというと、行政財産の使用許可が出たのはオープン当日の2020年6月5日となっており、筆者が以前、和歌山市に請求して出てきた図書館の目的外使用に関する文書には、開業準備期間についての申請はどこにも見当たらない。

 和歌山市では、どの程度、開業までの準備期間を要したのかは不明だが、その間の使用料をCCCは、和歌山市に1円も払っていないのだ。いったい全体、どうなっているのか。

(文=日向咲嗣/ジャーナリスト)

日向咲嗣/ジャーナリスト

日向咲嗣/ジャーナリスト

1959年、愛媛県生まれ。大学卒業後、新聞社・編集プロダクションを経てフリーに。「転職」「独立」「失業」問題など職業生活全般をテーマに著作多数。2015年から図書館の民間委託問題についてのレポートを始め、その詳細な取材ブロセスはブログ『ほぼ月刊ツタヤ図書館』でも随時発表している。2018年「貧困ジャーナリズム賞」受賞。

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