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ツタヤ図書館は第2の森友学園?不自然に値引きされた賃料、裏で市長と癒着か

文=日向咲嗣/ジャーナリスト
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ツタヤ図書館は第2の森友学園?
和歌山市民図書館公式サイトより

 前回記事『ツタヤ図書館、和歌山市が利益供与か…スタバと蔦屋書店の賃料9割引きのカラクリ』

 いま、和歌山市民図書館の運営にまつわる“ある疑惑”が物議を醸している。ツタヤ図書館の集客の目玉ともいえる、館内に設置されたスターバックスと蔦屋書店の賃料決定をめぐって、市長がカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)に常識外れの便宜供与をしたのではないかと囁かれているのだ。

 CCCが指定管理者となって運営する市民図書館、通称“ツタヤ図書館”では、館内に同社経営のスターバックスと蔦屋書店が併設されているのが大きな特徴である。

 この民業部分で同社は収益を上げられるため、その分、ほかの図書館よりも運営費を安くできたり、自治体は店舗スペースを同社に貸し出すことで賃料収入を得られるのがメリットであると、一般的には思われている。

 ところが和歌山市では、現実に民業店舗のスペースを貸し出すことによって得られる賃料収入はたったの月19万円、年間235万円程度にすぎない。CCCに払う指定管理料年間3.3億円からすれば、運営負担圧縮には、ほとんど貢献していない。ちなみに、同じCCC運営で2018年に開館した山口県周南市の徳山駅前図書館の場合、同賃料収入は月額92万円で和歌山市の約5倍。

 民間企業に公共施設の運営を任せる指定管理者制度を導入することによって、公共施設の運営効率が飛躍的に向上すると、いまだに信じられているが、現実には和歌山市のケースのように、運営効率は良くなっておらず、特定事業者へのあからさまな利益供与になっている実態が浮かび上がってくる。

 とりわけ、和歌山市の事案がおかしいのは、賃料を2段階で設定していることにある。

 まず、2017年10月に公開された指定管理者募集要では、「応募者は市民図書館の1階を利用したカフェーサービス事業を自主事業として提案してください」としたうえで、行政財産の目的外使用として「現在の試算による使用料は、1年あたり3万1851円/平米」という目安を提示している。

ツタヤ図書館は第2の森友学園?不自然に値引きされた賃料、裏で市長と癒着かの画像2

「募集要項に明記された賃料は、あくまでも目安にすぎない」と思われるかもしれないが、事業者サイドからすると、募集時の予定賃料は重要な応募条件のひとつだ。

 平米当たり年3万円なら月の賃料は200万円に上るとみられるので、大して儲からない。そう判断して、和歌山市の指定管理者募集には応募しなかった事業者がいた可能性は否定できない。

 ところが、その後、指定管理者に正式にCCCが選定されて、いよいよ運営開始となったとたん、その賃料が想定の10分の1に下げられていたのである。息をのむような出来事とは、まさにこのこと。2016年に、大阪府豊中市の時価9億円の国有地を、ゴミ撤去費8億円分値引きされて1億円で払い下げを受けた森友学園の事件を彷彿とさせるような話ではないか。

 そんなにオトクな条件なら確実に儲かるわけで、応募したかった……。この事実を知った多くの事業者は、そう思ったはず。

和歌山市のツタヤ図書館と森友学園事件は似ている

 つまり和歌山市は、市民図書館の指定管理者を募集するにあたって、あまり多くの事業者が応募してこないような平凡な条件を出しておきながら、CCCが指定管理者に選定されて、いざ運営開始という段階で、賃料を常識では考えられないくらい劇的に下げているのだ。

 これが表沙汰になれば、和歌山市の市長か教育長がCCCという特定企業へあからさまな利益供与をしたのではないのかとの批判が、たちまち殺到しそうな事案である。

 問題の焦点は、森友学園がなぜ9億円の土地を1億円で国から払い戻しを受けられたのかと同じく、いったいどういう理由で、募集要項では「平米あたり年3万円」としていた行政財産の目的外使用料を、CCCは選定された後に3分の1に下げてもらえたのか。また、使用料の対象面積をテーブルや棚単位で線引きして対象面積を狭くするという、とんでもなく非常識な申請を、何ゆえCCCはすんなり許可してもらえたのか、にある。

 これだけの重要な事柄を決めるにあたっては、当然のことながら、担当者レベルでの詳細な試算があったはずで、その試算根拠が説明された文書を添付のうえ、起案された募集要項は決裁されたに違いない。また、実際に運営を開始する際には、行政財産の目的外使用許可書の起案で、正式に決定される賃料も事前になんらかの手続きがあって決裁されていないとおかしい。

 そこで、この不正疑惑が発覚した今年6月、市内の市民団体が、この値下げの経緯がわかる文書を和歌山市教委に開示請求した。

 すると、16枚の文書が開示されたものの、それらは2020年6月5日のオープン当日に決定された行政財産の使用料についての文書ばかり。肝心の2017年の募集要項に記載された平米あたり年3万円とした、目安賃料の根拠がわかる文書は1枚もなかった。

 もちろん、募集要項記載の金額から値下げされた経緯がわかるものもなく、和歌山市教委は、市民を煙に巻いているかのような対応に終始していた。

 そこで筆者自ら、市民団体と同じような内容で開示請求しつつ、「ない場合、不存在の回答文書を出してください」との依頼を8月9日に行ったところ、和歌山市の担当課は「値下げした経緯がわかる当時の公文書は作成されていないが、それに関連した文書なら出せる」として、「文書不存在」の証明を出すことは拒否している。 

「なんの根拠もなく目的外使用料を決めたのか」「説明責任を果たしていない」と批判されるのを恐れたのか、不存在の証明は出さず、市民が知りたいことは濁して、自己保身を優先する役所の悪い面が出たように感じた。

CCCへの賃料優遇、何が問題?

 では、具体的に、和歌山市が指定管理者CCCに対して行った賃料(目的外使用料)優遇のどこがどのように不適切だったのか。市民団体に開示された16枚の文書を詳しく見ていくと、興味深いことがわかった。

 最終的に賃料が決定されたのは、2020年6月5日。その決裁を得るために出された伺い文書(6月3日起案、6月4日決裁)には、賃料の計算根拠についての説明文書が添付されていた。

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開館2日前に起案された決裁伺いの文書には、書店とカフェの賃料(目的外使用料)の計算根拠が書かれた文書が添付されており、合議欄には担当課職員4名と監理員、副監理員2名が捺印。決裁欄には、教育局長を筆頭に4名の管理職が捺印していた。2017年10月の指定管理者・募集要項についても同様の決裁プロセスを経ているはずなのに、そちらに関しては1枚の文書も作成していないという。

 これらを精査すると、確かに条例で定められた通りに計算されており、その基になる固定資産評価についても、あらかじめ資産税課による査定結果が出ていて、条例にある料率が恣意的に変更された形跡もない。

 ということは、固定資産評価額を基に目的外使用料を算定すると、世間相場に比してかなり低い額になることは、あらかじめ想定済みだったのではないのかとの疑念が湧く。

 むしろ、おかしいのは、2017年の指定管理者の募集要項に明記されていた「平米当たり年3万円」のほうで、その金額をどのようにして導きだしたのかということである。その半年前に基本設計が発表されたばかりで、まだ建物の影も形もないなかで、目安賃料を出すための固定資産評価も困難だったに違いない。

 筆者の疑問に対して担当部署は、「2017年当時の目安賃料は、権利変換計画で提示された金額を基に算定した」と回答しているが、そちらに関しては1枚も公文書も開示されておらず、詳細は不明なままだ。

 一方で、賃料が安くなった最大の要因である、対象面積を極端に狭く線引きした件については、これまた1枚の資料も開示されておらず、さらには、開業準備期間の使用料を1円も徴収していない件にいたっては、周南市の前例を知らなければ誰も気づかないような扱いになっていた。

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 これらの点を検証できる開示文書は、オープン前にCCCから教育長宛てに出された「使用許可申請書」だけである。その申請書に記載された「使用開始日」は、オープン当日の6月5日。使用料(賃料)は、テーブルや棚の部分だけを細かく塗り潰した図面が添付されており、突っ返されてもおかしくないような非常識な内容なのに、起案の翌日にすんなり決裁が下りている

 コロナ禍の影響でオープンが予定よりも遅れ、申請書の提出日は1カ月半前の4月24日だったため、当然のことながら事前にCCCからの打診や担当部署との協議があったはずだが、それについての記録は何も残っていないのだ。

「CCCに便宜を図れ」が至上命令?

 和歌山市(許可者は教育長)では、いったいなぜ、こんな不透明な行為がまかり通っているのだろうか。

 第一に、専用のテーブルと棚単位で細かく線引きをして、賃料の対象を極端に限定している点については、行政財産の目的外使用に関する条例には、使用料の徴収範囲を定めた規定がどこにもみあたらない。そのため、市長(名目上は教育長)の裁量の範囲内で行われたのだろうか。条令では、公共的団体が公益事業を行う際に、市長は使用料の減額ができるとされているが、営利を目的とする民間企業については、そのような規定はない。

 また、公共施設内で、店舗を営業する場合、この条例(昭和39年)の規定を基に使用料を算定しているのだが、管財課によれば、条例が制定された昭和39年以来、土地についての料率は一度も改定されていない。建物についても、消費税導入前は5%だった料率が、導入後、税率が上がるたびにゼロコンマ数%ずつ改定されて、現在は5.5%になっているだけだという。

 ツタヤ図書館のように、指定管理者に派手に民業を展開させる事業であれば、この行政財産の目的外使用に関するルールも、実態に即した内容に改定しなければならないはず。ところが、大昔の条令をそのまんま適用することで、結果的に指定管理者に対する利益供与と指弾されかねないような安い使用料で公共施設内で営利事業を行わせることが可能になっているといえる。

 そうしたなかで、特定企業と癒着している市長が、その企業に有利になるように便宜を図っているのではないのかとの疑念が湧く。それに対して役所内では、市長の意向を忖度して記録を残さないことが常態化していて、もはや誰も市長に異議を唱えることすらできなくなっているのだろうか。

 筆者が開設しているブログ(「ほぼ月刊ツタヤ図書館」)のコメント欄には、市の関係者と思われる人物から、こんな不満の声が寄せられた。

「基本的に、CCC関連や本館移転の話には全面的に反対で、出来る限り市長や市議に考え直すように、資料を集めて上申していたんですよ。でも、市議の上の方も市長もCCCというかスタバを引き入れて賑わい創出しか頭になく、君たちの仕事は『つつがなくCCCに図書館業務を引き継ぐことで、それに沿うように便宜を図れ』だったので、基本、〇〇さんや他の職員の議事録も都合悪いのは正式には提出しない。(公文書が)残ってないのは、都合の悪いものを廃棄したからというより、正式文書として上がってないからだと思います。

 市長の決定有りきで、そうなるように資料をつくっていくので、矛盾や不都合が出るのも当たり前。『なんでそうなったの?』に対して『市長命令だったから』とは答えられないので、しどろもどろになったり、誤魔化したりになったんだと思います。なので、尾花(正啓)市長が市長でいる限りは絶対に確定的な資料は出てきません」

 特定企業に便宜を図ることを優先し、もはや誰も進言する者がいないのではと指摘されるなか、8月21日に再選して3期目に突入した尾花市政は、本当に市民本位の政策を実行できるのだろうか。

 なお現在、市民図書館の目的外使用料について、市内の市民団体が監査請求を行う準備を進めていることを付記しておく。

(文=日向咲嗣/ジャーナリスト)

日向咲嗣/ジャーナリスト

日向咲嗣/ジャーナリスト

1959年、愛媛県生まれ。大学卒業後、新聞社・編集プロダクションを経てフリーに。「転職」「独立」「失業」問題など職業生活全般をテーマに著作多数。2015年から図書館の民間委託問題についてのレポートを始め、その詳細な取材ブロセスはブログ『ほぼ月刊ツタヤ図書館』でも随時発表している。2018年「貧困ジャーナリズム賞」受賞。

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