昨年12月25日投開票の西東京市議会議員選挙でトップ当選を果たしたお笑い芸人の長井秀和氏が、創価学会から名誉毀損で提訴された。
長井氏は創価学会のエリート家庭で生まれ育ったが、現在は「(自分の家庭では)仏壇3基を2000万円で購入させられた」などと創価学会を批判している。また長井氏は12月19日の選挙演説で、朝木明代東村山元市議の転落死事件について、創価学会関与説に言及。
創価学会・公明党を批判していた朝木明代氏は1995年9月1日夜、西武鉄道東村山駅前のロックケープビルから転落した。警察は「衣服や身体に争った跡がない」「ビルの真下に落下した(突き落とされたとすれば放物線を描くはず)」「第一発見者が救急車を呼ぼうとしたら断った」等の理由から自殺と断定し、事件性はないとされた。
しかし、市議が死亡したのが創価学会に関するシンポジウムに出演する2日前だったことや遺書がなかったことから、遺族は創価学会が関与した他殺を疑い、当時のマスコミも創価学会が関与する他殺の可能性を報じた。
朝木氏の遺族・マスコミは創価学会に名誉毀損で訴えられ裁判になり、地裁・高裁共に創価学会が勝訴した。
この事件に関して長井氏は他殺の可能性を言及。創価学会は「他殺説は事実無根」「名誉毀損」であるとして、長井氏に対し1100万円の損害賠償を請求している。
そこで今回、筆者は長井氏に取材した。
――他殺であるとする根拠はなんでしょうか。
長井秀和氏「自殺として断定するには不十分な点、不可解な点があると思います。現場検証も不十分ななか、鑑識(司法解剖)をする前に自殺と断定されたのです。ご遺族が『鑑識をやってください』とお願いしたところ、ようやく鑑識が実行され、結果が公表されたのは事件から4年後でした。つまり、鑑識公表以前に裁判が始まったのです。鑑識の結果、遺体には腕に皮下出血の跡(原因は複数の可能性があるが、争った跡の可能性も否めない)がありました。『皮下出血があった』という事実を盛り込まないまま裁判が行われました」
――訴えられる以外に、創価学会から何か嫌がらせを受けたことはありますか。
長井氏「SNSでは、創価学会員らしき人から悪口を書かれたりしますね。選挙のポスターに関して『こんなの貼って、どうするの』というように言われたり、落選運動をされたり。“仏敵”と見られているのかもしれませんね」
――ところで、池田大作(創価学会名誉会長)さん死亡説がありますが、実際はどうなのでしょうか。
長井氏「人から聞いた話ですが、八王子の医療施設にいるとか。ただし、あまり健康状態は良くないと聞きます」
――長井さんはなぜ、創価学会を追及しようと思われたのですか。
長井氏「カルト問題が世間で問題視されるようになりましたが、創価学会に関する問題ってスポンサー絡みで大手メディアで報じられにくいので、私が声をあげるしかしかないと思ったのです。しかし、これだけ訴えても、私は創価学会の家庭に生まれ育ち、創価大学を卒業したので、『公明党から後援を受けているのでは』と疑念を持たれがちです」
――政治家として「政教分離」「カルト」の問題に、どう取り組まれますか。
長井氏「日本国憲法は政教分離に関してアメリカの憲法を参考にしていて、現行憲法では宗教団体による政治参加が認められています。しかし、ここで問題なのは、公明党などの『政治権力』が創価学会という宗教団体を利用して(資金の出入りの隠れ蓑にして)、『宗教活動』をしていることです。現行のルールだと宗教法人なら収支報告をしなくてよいため、他の自民党・立憲民主党・共産党などの政治団体も宗教団体を作って、全員が会員になって、政治活動を『宗教活動』ということにすれば、収支報告をせずにすんでしまいます。ここは『政教分離』をしないと、資金の出入りが『ブラックボックス』状態になるのです」
――ほかに政治家として取り組みたいことはありますか。
長井氏「西東京の地域を発展させていきたいですね。情報、金、物が行き来する中継地帯にしたいです」
池田大作氏の自宅、実は質素?学会員「文鮮明・韓鶴子とは違う」
一方、創価学会の信者で、池田大作氏と何度が会ったことがあるという信者(30代女性)に取材したところ、創価学会に関してまったく異なる見解を示した。
朝木明代村山市議事件については、他殺説を完全に否定する。
「(他殺説は)デマだと思います。そんなことをしても創価学会になんのメリットもありません。(遺族・マスコミは)すべての裁判で敗訴しています。個人的な推測にすぎませんが、議員さんは心労がたえない大変なお仕事ですので、もしかしたら睡眠薬や精神薬を飲み、副作用として衝動的な行動を起こしたのではないでしょうか。(処方した時から時間がたてば遺体から検出されないため、可能性は否定できない)」
創価学会の寄付金については、あくまでも信者の意思であり、強制ではないと強調する。
「創価学会は寄付を強制することはありません。『収入の1割寄付』の考え方はありますが、無理に寄付を強いられたり、統一教会のように恐怖を煽り寄付に仕向けることはありません。寄付をしている方々は好きでやっていて、お金は“社会の血液”ですから、私もそうですが、いずれは巡りめぐって自分のところに何か良いことが起きて返ってくると思います。創価学会に限らず、さまざまな社会活動・慈善団体もそう考えているのではないでしょうか。私は創価学会への入会に際して、事務手数料と仏壇込みで5000円だけ払いました。聖教新聞も勧められますが、強制ではありません。現世の利益を追求して良い、まず自分が幸せにならないと他人を幸せにできないという考え方なのです」(同)
また、池田大作氏については、その人柄を称賛する。
「さまざまな誤解、根も葉もない噂がありますが、池田大作先生は質素な昭和の家に住んでいます。特定されないようにインターネット上に写真は出していませんが。私は池田先生の家に伺ったことありますが、自分自身のことより他人や困っている人たちのことを考える気さくな方です。創価学会の公用車には乗りますが、プライベートでブランド品もあまり好みません。豪邸で贅沢三昧な文鮮明・韓鶴子(統一教会総裁)とはまったく違います。
私は創価大学の通信教育課程に在学していましたが、池田先生から一人ひとりに『頑張ってくださいね』ってアイスクリームやお菓子、ジュースが届いていました。同じようなことを海外の会員にもされています。会員が多い(創価学会によると海外に約280万人の会員)ので、このような一人ひとりに対する細やかな気遣いは認めるべきことではないでしょうか。そもそも、創価学会の考え方って、誰かを妄信するのではなく、皆が平等で『仏』なんですよ。お葬式も全員でお経を唱えます。ちなみに、池田大作先生がお亡くなりになった、というデマも流れているようですが、ご健在です」
事件についてはまったく主張が異なる両者だが、「池田大作氏は健在」という点では一致した。
「真相が闇に葬られた」27年前の事件について、新たな事実は明らかになるのだろうか。元警視庁刑事で警察ジャーナリストの北芝健氏に話を聞いた。
「確かに、事件現場は転落死するような場所ではありません。『(捜査を担当した)東村山警察に創価学会員がいた』という噂が流れていて、それは事実のようですが、捜査に影響するとは限りません。また、司法解剖の結果公表が4年後ということは普通、あり得ないことです。そんなことをしたら警察内部で大問題になりますよ。それは陰謀論だったりしませんか」(北芝健氏)
また、東村山警察署に電話取材したところ、「古い事件なので、申し訳ございませんが、詳細をわかる者がおりません。(一般的には)司法解剖の結果として、死因は公表しても詳細までは公表しないでしょう」との回答だった。
“皮下出血”について公表された経緯については詳細不明だった。昨年の安倍晋三元首相の襲撃事件以後、宗教と政治に関する注目度が増すなかで提起された今回の裁判。今後の経過に要注目だ。
(文=深月ユリア/ジャーナリスト)