道路交通法の改正により、4月1日から自転車利用者のヘルメット着用が努力義務化された。
これまでは保護者に対して、13歳未満の子供が自転車に乗る場合、ヘルメットをかぶらせるように努めなければならないという、規定があった。それが4月からは大人にも着用を求めつつ、自転車を運転する本人はもちろんのこと、同乗者にもヘルメットをかぶらせるように努めなければならなくなった。
とはいえ、あくまでも“努力義務”であって、違反しても罰則はない。だが、インターネット上で気になる指摘があがっている。それは、ヘルメット不着用の場合、ほかの違反で摘発された際に、罰則が重くなるというものだ。具体的に、「ヘルメット着用時に信号無視した場合は『警告』だけだが、不着用時に信号無視した場合は『赤切符』を切られる」と例示する向きもある。
実際にそのようなことがあるのだろうか。警察庁に問い合わせると、「特に統一見解はなく現場判断となるが、そもそもヘルメット不着用に罰則規定はないので、ほかの違反と合わさった場合でも加重罰則とはならないのではないでしょうか」と、否定的な見解だった。
交通ジャーナリストの今井亮一氏は、加重罰則があるかについて「定かではない」としつつも、「仮にそのような取り扱いがあれば、大々的に宣伝するはず」との持論を述べる。
「もしヘルメット未着用で、ほかの違反があった場合にペナルティが重くなるとすれば、それを大々的に宣伝し、ヘルメットを着用するように注意喚起の材料にするでしょう」(今井氏)
今回は努力義務化で罰則規定はないが、いずれは罰則規定のある完全義務化されるのだろうか。
「現在、原動機付き自転車と同じ扱いの『電動キックボード』が、7月1日の道路交通法改正によって規制が緩和され、ヘルメットは自転車と同じく努力義務となります。しかし、自賠責保険加入やナンバープレート装着は必須とされ、違反行為には反則金が課されるなど、自転車よりも厳しい規定があります。いずれはバランスを取るために、自転車も同様の取り締まりをするようになるかもしれません」(同)
努力義務といえば、自動車のシートベルトも努力義務から始まった。
「1971年、高速道路と自動車専用道路において、運転者は座席ベルトを装着し、同乗者(当該自動車に乗車している他の者)に装着させるように努めなければならない、とされました(当時の道交法第75条11)。努力義務であり、反則金のペナルティも違反点数もありませんでした。
1975年8月時点の、高速道路と自動車専用道路におけるベルト装着率は、『運転者9.7%』『助手席7.1%』で、一般道路では運転者も助手席も3.2%でした。ベルト装着は簡単なのに、なんのペナルティもなければ、そんなものなんですね。それが人間社会として普通なのだろうと思います。
自動車と自転車は危険度が違うので一概には比べられませんが、なんらかのペナルティがなければ、着用率は上がらないでしょう」(同)
令和4年中の交通事故死者数は2610人(前年比-26人、-1.0%)で、6年連続で過去最少を更新しているが、警察庁は2000人以下を目指している。そのうち、自転車乗用中の死者数は336人でこちらも過去最少だ。だが、ヘルメット着用時と不着用時における致死率は約2.6倍の差がある。ヘルメット着用によって、致死率が下がることは明白だ。
それでも、ヘルメット着用率は上がらないと、今井氏は見通しを述べる。
「ヘルメット着用は頭部を守るというメリットがありますが、実際にヘルメットによって頭・命を守られるという経験をすることは、一生に一度あるかないかでしょう。圧倒的に機会が少ないため、必要を感じる人は少ないと思います。
反対に、デメリットは多くあります。まず、ヘルメットを購入しなければなりません。比較的安い商品もありますが、安全性を考えると、それなりの出費になります。また、毎回着用するのは、とても面倒です。暑い夏にかぶるのは蒸れますし、髪型が崩れることを嫌う人もいるでしょう。さらに、ヘルメットを脱いだ後、持ち歩くのは邪魔ですし、籠に入れておくと盗難のリスクもあります」(同)
さらに今井氏は、将来的に義務化されていくとすれば、さまざまな利権と結びついていくだろうと推測する。
「現在の駐車違反の取り締まりと同じように、民間委託などによって新たな利権が生まれるでしょう」(同)
確かにこれまで、駐車違反の取り締まりを行う駐車監視員や、歩きたばこを取り締まる監視員など、警察から離れて民間で取り締まりを行う業務も生まれてきた。自転車乗用時のヘルメット不着用やイヤホン利用といった違反行為の取り締まりも民間委託されるようになる可能性はある。
ヘルメット着用が進むことによって死亡事故は減ってほしいが、罰則は歓迎したくはない。今後、どのように進展していくのか、注目したい。
(文=Business Journal編集部)