「日本一人口の多い村(約4万人)」として知られる沖縄県読谷村が、全国でTSUTAYAを展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)を、図書館の運営者に選定していたことがわかった。議会で正式決定されれば、2020年12月に発表された熊本県宇城市、大阪府門真市に続いて全国で9番目の“ツタヤ図書館”が沖縄にできる見込み。
驚かされるのは、その事業期間が“2025年4月(予定)より2045年3月(予定)”となっていることだ。「20年もツタヤ図書館が存続するのか」と、早くも不安の声が渦巻いている。
読谷村が3年後に完成を予定している、図書館を核とした複合施設のプロジェクト(仮称・総合情報センター及びその周辺環境の整備事業)を、民間の資金やノウハウを活用するPFI方式(民間資金等活用事業)で実施すると発表したのは、昨年4月16日のこと。
その事業を一手に担う優先交渉権者の募集を開始したのが昨年7月。3者から応募があり、昨年12月22日にシナジーアセット(読谷村)を代表者とするグループが選定された。その構成員には、地元企業5社に加えて、県外からはCCCのみが参画していた。
この情報をつかんだ1月末、筆者はすぐ読谷村の担当部署に問い合わせたところ、構成企業のうち図書館運営の担当がCCC、つまりツタヤ図書館になる見込みであることを認めたのだ。
CCCが運営する通称・ツタヤ図書館は、これまで当サイトで繰り返し報じているように、不祥事や不正疑惑が後を絶たない。2013年4月からCCCによる運営を開始した佐賀県武雄市図書館・歴史資料館は、スターバックス・蔦屋書店併設のお洒落空間に「100万人来館する図書館」と喧伝して話題を集めた。
その一方、郷土資料廃棄問題から始まって中古本大量選書、装飾用ダミー高層配架、Tカード個人情報流出疑惑、独自の書店式分類による混乱と、それらに怒った市民によるたび重なる住民訴訟など、物議を醸した事件は文字通り枚挙に暇がない。
2015年の神奈川県海老名市以降、運営費は直営比で倍増しており「効率の良い官民連携事業」とはほど遠い実態が次第にあらわになっている。本業でも、3年前には基幹事業のTSUTAYAが景品表示法違反で消費者庁から1億円の課徴金を課せられる重大な法違反が発覚し、もはや公務を受託する資格がないと批判されていた。
そうした逆風のなか沖縄県読谷村では、CCCとしては初のPFI方式で長期契約を実現したのだ。いったい、その裏側には、どんな特殊事情があるのだろうか。
選定されたグループの提案によれば、鉄骨造平家建3791平米に、図書館と村史編纂室や青少年センターなどの公共施設を整備して運営。カフェや物販店舗、ホームセンターなどの民間収益施設7738平米を設置するという。
施設が完成する3年後の2025年から運営をスタートして、契約期間は20年。事業費は20年総額で34億円(税別)に上るものの、収益施設を運営する民間から総額6億円の地代収入(30年間)を見込んでいるという。
施設の運営だけ担う指定管理者制度なら契約期間は5年が一般的だが、設計から運営までを民間が共同出資した目的会社(SPC)に任せるPFI方式では、20~30年もの長期にわたって、より安定的に事業を遂行できることがメリットとされている。
不可解なことだらけの選定プロセス
この事業の選定プロセスは、不可解なことだらけだ。下の表は今回、優先交渉権者を選定した委員の顔触れで、7人中5人が役場の幹部職員。残り2人の外部委員も、PFIの専門コンサルタントと金融機関の幹部。通常は起用されるはずの図書館の専門家はひとりもいない。
採点基準も、提案価格を除いた85点のうち、もっともウェイトが高いのは「図書館運営に関する事項」(25点)で、そのなかでも特に重視されているのは「賑わいの創出・利用者増に関する計画」(12点)だった。
村民の声を反映した結果かと思いきや、それも違っていた。読谷村の担当部署によれば、今回のPFI事業に関してパブリックコメントを募集したり説明会を開催するなど、村民の意見を聞くことは一度も実施していないという。
大元になったのは、10年前に作成された図書館を含む総合情報センター基本計画であり、それ以降、教育委員会および付属の協議会等で、その中身が議論された形跡も見当たらなかった。図書館の運営を民間に委託することを知っている村民はほとんどいないという。
さらに、事業者の選定基準にはコンプライアンス(法令遵守)に関する審査項目はどこにもない。2019年2月にCCCの基幹事業であるTSUTAYAが虚偽広告を出していたとして景品表示法違反で1億円の課徴金を課せられたことを知っているかと担当部署に聞いたみたところ、「まったく知らない」という。まさに、浮世離れした選定である。
首長周辺が水面下でツタヤ図書館誘致に動いたのではないかと感じた筆者は、当事業を計画するにあたって視察に出掛けた際の復命書等を開示請求してみた。すると予感は的中。2018年以降、当事業に関連して同村が視察に出掛けていた図書館は、武雄市と和歌山市の2カ所のみだった。どちらもCCCが指定管理者となって運営しているツタヤ図書館である。
とりわけ2020年10月の和歌山視察は興味深い。5名の幹部職員を従えた石嶺傳實村長御一行は、昼前に那覇空港を飛び立ち、午後1時15分に関西空港到着。その足でレンタカー(担当者によれば6人で1台)を借りて和歌山入り。出迎えたのは和歌山市職員ではなく、CCC社員。6月にオープンしたばかりの和歌山市民図書館を2時間視察した後、和歌山市職員との意見交換は45分間だった。
2日めは、午前中に泉南市の「りんくう公園」を視察した後、京都に移動して民間施設を併設した御池中学校を視察して、初日と同じ関空近くのホテルにとんぼ返り宿泊。最終日の3日めは、午前に大阪府泉佐野市を視察すると、午後1時には早くも関空から那覇へと帰路に就いている。
視察のメインとなった初日の夜、「村長御一行」をCCCは接待しなかったのか。ほかの視察地はすべて関空から近いのに、わざわざ1カ所だけCCC本店・枚方市に近い京都まで出かけたのはなぜか。その夜はどこも接待しなかったのか。このように、さまざまな疑念が湧いてくる。
ツタヤ図書館ありきでPFI方式の図書館運営か
民間の資金とノウハウを活用して、施設の建設から運営までをトータルに任せるのがPFI。その方式で公共図書館を運営している事例としては、TRC(図書館流通センター)が全国初の取り組みとして注目された三重県桑名市や東京都府中市の事業がよく知られており、それぞれすでに15年、20年の期間を経ている。PFIによる図書館運営の成果を客観的に評価するにはもってこいのはず。
ところが、そういったPFI図書館は一切見ずに、あえてPFIではない、CCCが指定管理者制度のもとで運営しているツタヤ図書館だけを視察したのだから、この段階ですでに、CCCと図書館運営に選定する密約でも交わしていたのではないかとの疑いが頭をもたげてくる。
下の図は、募集要項が公表される直前の昨年3月議会での担当課長の答弁である。
「例えば図書館でコーヒーを飲みながら図書を見るとか、新しいライフスタイルの提案を図書館から求めるとか」と、担当課長が述べている。この発言は、CCCが2013年以後に打ち出したツタヤ図書館のコンセプトそのままである。
図書館を核とした総合情報センターをPFIで行う事業者グループの募集要項が公表されたのは、この翌月の4月30日。それなのに課長の発言は、もうこの時点でツタヤ図書館になることが決まっていたかのようである。
周辺自治体はどうなのかと調べてみると、沖縄県内でも数年前、読谷村と同じく図書館の民間委託を進めようとした自治体があったことがわかった。沖縄本島南部に位置する人口6万5000人の豊見城市(とみぐすくし)では、2019年に中央図書館の運営を民間指定管理者に移行する計画が進行していた。
2019年9月10日付沖縄タイムスの報道によれば、市立中央図書館の職員は23人中21人が非正規だったが、近く導入される会計年度任用制度に移行すると人件費が1.4倍に増えることから、この人件費を抑える目的で民間委託が進められることになったという。
ところが、議論が進むうちに次々と反対する議員が出てきた。2019年3月議会では、指定管理を導入するのであれば、運営の継続性や安定性、専門職の確保・育成をあきらかにするなどの条件をクリアするようにとの付帯決議をつけた議案を可決したものの、それでも反対の声は止まなかった。結局、同年9月議会において、一度決まっていた5年間で総額5億円の指定管理予算を廃止する議案を可決したのだった。
いったい、どういうことだったのか。豊見城市の関係者に話を聞いたところ、地元メディアでも報じられていない意外な話が続々と出てきた。
村民の声も議会も無視…突然、ツタヤ図書館への委託が決定
もともと推進派だったという関係者が、事の成り行きをこう振り返る。
「先に大手運営会社にやらせるということで話はほぼ決まりかけていたのですが、事業者先行で図書館をこれからどうするかという手続きがあまりにもおろそかにされていたので反対しました。付帯決議で図書館の民間委託導入のための条件を提示しました。われわれとしては、いきなり指定管理ではなく、まずは一部委託ということで話を進めたかったんです。すぐ指定管理にすると、市に図書館運営していく能力がなくなってしまうことが問題でした」
反対派の関係者も、民間委託への手続き無視を問題視する。
「(市長周辺から)いきなり図書館を指定管理にするという話が出てきたんです。豊見城市は、それまで図書館基本計画すら20年以上も作成していなかった。やるなら、まずその基本計画を策定したうえで新しい図書館像を描いて、進めるのはそれからにするべきであると反対しました。そのための議論には、地元のPTAなども加わって進めていきました。そのうちに市長が代わったことで、指定管理にするという話は無くなりました」。
この豊見城市の関係者に読谷村のPFI図書館事業について聞くと、次のように感想を述べた。
「契約期間が20年というのは、あまりにも長すぎると思います。私も全国のPFI事業、プールなどの施設をあちこち見て回りましたが、どこも問題山積です。補修工事の責任などが不明確ですし、20年のもの間、同じ事業者グループに任せるのは競争性が確保できないので、かなり不利だと思います。沖縄では、民間企業に図書館の運営を任せている自治体はあまりないはずです。直営では、非正規でもフルタイムに近い時間数働いて生活していた人が、もし民間となったら細切れのパートタイム雇用ばかりで、その給与では生活していけなくなってしまいます。ますます不安定雇用が増えるだけです」
豊見城市のケースは、施設の建設から運営までパッケージにしたPFIではなく、既存施設を民間運営に変える計画だった。そのため読谷村とは単純に比較できないが、読谷村議会では、20年もの長期にわたって村民にとって大切な図書館の運営を民間に任せていいのかという議論すらまったく起きないまま、ツタヤ図書館誘致が内定している。
今回、PFI方式で進めている図書館を核とした総合情報センターの整備は、地元紙のインタビューで石嶺村長が真っ先に掲げる肝入りプロジェクトだ。それだけに、村長の意向が色濃く反映されたものであることは想像に難くない。
奇しくも、任期満了に伴う村長選挙は今年2月8日に告示されたものの、現職で4期目をめざす石嶺村長以外に立候補の届け出がなく、無投票当選が決まったばかり。
なぜ執行部は、村民の意見を丁寧に聞き、自らの計画を説明しようとしないのか。ある村民は、ツタヤ誘致の政治的背景について、こう話す。
「読谷村は昔から革新の村政が続いているので、基地反対を掲げている候補が当選します。村長選は、今回で3期も無投票です。保守系も最初から負け戦には出馬できないという流れになっています。つまり、12年間村長と一体となった役場王国が出来上がっているということなんです」。
そう前置きしたうえで、石嶺村長は革新イメージと実像のギャップが大きいと指摘する。
「今の村長は、辺野古(の基地建設)に反対しているという点では、いわゆる“オール沖縄”ですが、ふたを開けてみると自民系と同じです。辺野古反対を掲げているのに、地元読谷村の基地にキャンプキンザーからの倉庫を受け入れたり、軍事整施設や武器装備品倉庫を容認したり、ハコモノばかりにお金をかけて福祉には予算をかけません」
なるほど、その流れで今回のPFI事業も進められたのだろう。それにしても、一度も村民の意見を聞かないままツタヤ図書館を誘致したことについて、議会はこのまま黙って追認するだけなのだろうか。
次回は、補助金ゼロなのに進められた、この読谷村のPFIの詳細をレポートする。
(文=日向咲嗣/ジャーナリスト)