大手作業服販売チェーンで知られる「ワークマン」が、カジュアル衣料販売へと進出して久しい。従来、男性作業員向けに機能性を重視した作業着、安全靴、レインウェアなどを取り扱ってきたワークマンだが、2018年にスタートしたブランド「ワークマンプラス」をきっかけにカジュアル衣服へと本格参入。作業服販売で培った高い機能性に加え、低価格であること、さらに一般客にもウケやすいデザインから評判を集め、一気に人気ブランドへと成長した。2020年からはレディース向けの業態「ワークマン女子」をスタートさせ、従来の顧客層には少なかった女性客の獲得にも乗り出している。
新規事業の好調、顧客層の拡大により、業績もうなぎ上りだ。10年前の2013年3月期は営業総収入(売上高)が451億円、営業利益が73.9億円だったが、19年から徐々に増収増益の状況が続き、23年3月期には営業総収入1283億円、営業利益241億円。13年比でそれぞれ約2.8倍、約3.3倍の成長を遂げている。今年9月からは新業態である「ワークマンカラーズ」を銀座に出店し、ファッション性を前面に押し出したコンセプトにより、カジュアル衣服でさらなるシェア獲得を狙う見込みだ。
商品の質や魅力が下がった…女性客の心が掴めていない
コストパフォーマンスの高い商品が人気を博し、順風満帆に見えるワークマンだが、一方でネット上では最近の動向について以下のように不満を訴える声もある。
<ほかのカジュアル衣服ブランドに比べたら品質は微妙……>
<商品の在庫切れが多く、ほしいときに購入できない>
<以前と比べて商品の魅力が落ちている気がする>
あくまで上記の声は一例でしかない。しかし、ファッション企画会社「ココベイ」の代表取締役社長でありファッションビジネス・コンサルタントの磯部孝氏によると、ワークマンの業界内の位置づけや近年の事情を踏まえると、ネットの声はそれほど的外れでもないという。
「ワークマンが評価されている理由は、高いコストパフォーマンスに尽きます。品質面でずば抜けて他社よりも優れているワケではありませんが、『安めの価格帯でこれだけの機能性やファッション性を実現している』という点に注目が集まり、評価を得ているブランドです。作業服販売から始まった企業ですからメンズウェアの評判はよく、特に耐暑性、耐寒性に優れたアウトドア系のジャケットなどは高評価。何より丈夫で、耐久性や機能性も優れているので、一定の支持を集めています。
ただし、ワークマンは基本的にブルーカラー層をメインターゲットにしているので、おしゃれ目的というよりは作業用の衣服を目的とする客が多くなります。作業用となると、通年着るのではなく、1シーズン、数カ月単位で買い替えることになる。したがって、ワークマンとしては、手軽に買い替えられるよう価格を抑えて提供しなければならないため、一部の衣服のクオリティも若干低めになりがちなのだと考えられます」(磯部氏)
ワークマンが男性客のみならず、次なる客層獲得のためにスタートしたワークマン女子は、「カコクな365(日常)日をステキに変える」をコンセプトにSNSマーケティングなどの広告展開を大胆に実践しているが、磯部氏は弱点を指摘する。
「商品ラインナップを見てみると、女性客の心をくすぐるファッション性のある衣服が少ないです。ワークマンには作業服のノウハウがあるので、作業服から派生した普段着や部屋着のバリエーションは豊富なのですが、コーデを考えたり、直感的にかわいいと思えたりするおしゃれなアイテムはまだまだ足りていません。ワークマンの同価格帯のライバルとしてよく挙げられる『しまむら』『GU』のほうに女性客を取られている印象がありますね」(同)
ちなみにネット上にはワークマンと「ユニクロ」を比較する声もあるが、ユニクロは生地の品質などにこだわっている分、ワークマン、しまむら、GUと比較すると価格帯がワンランク上となっているので直接の競合とはいいがたい。磯部氏によると、女性客獲得において、価格帯が近いしまむら、GUに遅れを取っている明確な理由があるという。
「ワークマンが女性客の確保に難航しているのは、女性社員の割合の低さがあるといえます。23年3月時点での女子社員の割合は14.2%であり、なかでも管理職となると1.4%とさらに数を減らしており、かなり少なめ。ユニクロ、GUを擁するファーストリテイリングの女子社員比率が68.7%(2022年8月時点)、管理職が43.7%(22年度時点)であることを考えると、社内コントロールをほぼ男性だけが握っている状況は女性客戦略においてかなり痛手であることがわかります。ワークマンも女性インフルエンサーとのコラボを図ってはいるものの、ほかならぬ女性の声が行き届かない社内構造のままだと、女性客の心を掴む商品展開はかなり難しいのではないでしょうか」(同)
値上げしないことがアダに? 在庫も全然ないとの噂も
アパレル業界では円安、原料高、輸送費高騰などの影響などにより、商品の値上げを行った企業が多い。しかし、ワークマンは今年8月まではプライベートブランドの主力継続商品の価格を据え置くことを宣言。ワークマンとしても苦渋の決断だったとのことだが、この出来事がかえってブランドの質低下が囁かれる遠因になった可能性があるという。
「現状、日本のアパレル業界の商品は97%近くがインポートですから、為替の影響をモロに受けることになります。今や1ドル150円の時代ですから、単純計算で昔よりも仕入れ価格が跳ね上がっているんです。そのため本来であれば、企業努力やコスト吸収といった次元で価格を維持できる問題ではないのです。ユニクロは過去に値上げをして客離れを引き起こし、価格設定には慎重なほうなのですが、それでも値上げするぐらい今の為替状況は企業にとって不利です。実際の製造環境は明らかになっていませんが、ワークマンは価格を据え置くという経営判断の影響で、商品の質が下がったと疑われても仕方ないとは思います」(同)
在庫問題に関しても、ワークマンならではの事情があるそうだ。
「ワークマンは、基本的に在庫を嫌う企業だと推測できます。そもそもアパレル企業では、在庫が経営のネックであるので、できるだけ早く売り尽くしたいという事情があります。そのうえ、ワークマンは店舗のほとんどがフランチャイズなので、店舗間での在庫移動がしにくく、融通が利きづらい。また製造を外部に任せる仕入れ型のビジネスを展開しており、ファーストリテイリングのようなSPA(企画から製造、販売まで一貫して行うビジネスモデル)ではないので、受注分の製造が終わったら追加で生産することはほとんどなく、打ち止めになりやすいのです。結果、客の意見や要望を取り入れることよりも、製造分を確実に売り切ることを優先する方針になっているのでしょう」(同)
このままの状況が続けば、客は競合他社のブランドにどんどん流れるリスクは高まっていく。ワークマンは今後どんな戦略を打ち立てていくべきか。
「やはり女性の集客に向けたブランドづくり、ラインナップの充実が急務になるでしょう。男性客だけでは収益の増加は見込めず、やはり女性客を増やすことで収入の柱を形成するべきなので、『ワークマン女子』や『ワークマンカラーズ』に注力していくという方向性自体は間違っていないと思います。
またカップル層、ファミリー層では、夫の衣服を妻が購入する代理購買という現象がよく見られますが、ワークマンはこうした客層もきちんと拾っていくべきです。そのためには、店舗デザインもカジュアルに仕上げていくべきでしょう。現状のワークマンの店舗は、職人向けという言葉にふさわしい少々殺風景なつくりになっているので、女性も来店しやすい店舗づくりを整える必要がある。そして、女性の好む商品を増やしていければ、積極的な来店動機を形成でき、女性客増を見込めるのではないでしょうか」(同)
(取材・文=文月/A4studio、協力=磯部孝/ファッションビジネス・コンサルタント)