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マフィン食中毒:「食品添加物の不使用・オーガニック」礼賛の虚妄と危険性

文=Business Journal編集部、協力=西島基弘/実践女子大学名誉教授、阿部尚樹/東京農業大学教授
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Honey×Honey xoxoのInstagramアカウントより

 11、12日に開催された『デザインフェスタ』に出店した焼き菓子店「Honey×Honey xoxo(ハニーハニーキス)」が販売していたマフィンを食べた客が相次いで体調不良を訴えている問題で、厚生労働省は16日、当該マフィンをリコール対象とし、「喫食により重篤な健康被害または死亡の原因となり得る可能性が高い場合」とする「CLASS Ⅰ」と認定した。同店は防腐剤と添加物の不使用、市販の焼き菓子の半分以下の砂糖の量での製造、オーガニック食材の使用などを謳っているが、今回の問題を受け、昨今の「添加物不使用の礼賛」や「オーガニック志向」に疑問の声が広まる事態となっている。

 問題が起きたのは、東京ビッグサイト(江東区)で開催されたアートイベント『デザインフェスタvol.58』(以下、デザフェス)。ハニーハニーは「栗マフィン」や「チョコチップマフィン」などを販売していたが、同店の商品を食べた客から嘔吐や下痢などの健康被害を訴える声が続出。SNS上では「納豆のような匂いがする」「糸を引いている」といった報告も相次ぎ、店側はInstagram上で次のように呼びかけた。

<今回、販売致しておりました和栗(4件)とチョコチップ(1件)、スイートポテト(1件)のマフィンから納豆みたいな匂いがするというご報告をいただきました。もし、納豆のような匂いがしたら食べずにすぐにLINEでご連絡をお願い致します>

<保管場所は18℃以下を保っておりましたが、外気温が高かったため何個か傷んでしまった可能性がございます。検品はしていたのですが、気付かず販売してしまい申し訳ございません>

 これを受け厚労省は、販売された約3000個、計9種類のマフィンをリコール対象としたが、16日付「集英社オンライン」記事によれば、製造から販売まで5~6日たっていた商品もあり、店主が一人で6日間かけて一日あたり500個、毎日朝7時から夜22時まで手づくりで製造していたという。実践女子大学名誉教授の西島基弘氏はいう。

「腐敗菌や食中毒菌などの菌は存在しなければ増殖しないため、この菓子店の作業環境が不衛生だったことが原因だと推察されます。大手メーカーの食品で食中毒の発生が少ないのは、衛生管理が徹底された環境で製造しているからです」

 また、飲食店店主はいう。

「かなり小さな店舗のようなので、状況からみると、製造した商品を適切な環境で保管していなかった可能性が高い。糸を引いたり、納豆のような匂いを発するというのは、かなり腐敗が進んでいた証拠で、製造時点から陳列直前まで商品をきちんと冷蔵していなかったと考えられる。消費者には『手づくり』というキーワードが好まれるが、製造側にとっては非効率な面が生じる。一人で一日15時間もかけてこれだけの数をつくっていれば、材料の保管や製造後の商品の保管などに無理が生じてもおかしくはない。マフィンに使う果物や乳製品などの材料にしても、成型して焼く前の段階で長時間にわたり常温の場所に置いてしまったりしていれば、その間にも劣化が進む。『手づくり=安心・美味しい』というのは思い込みにすぎない」

<無添加だから安全、オーガニックだから安全は幻想です>

 この事案をめぐり議論を呼んでいるのが、ハニーハニーが防腐剤・添加物の不使用やオーガニック志向をウリにしていた点だ。一般的に消費者の間では「添加物や農薬を使用していない食品は健康的で体に良い」というイメージが広まっているが、今回の件を受けて、そうした風潮に疑問を呈する声が続出。たとえば人気料理研究家・リュウジ氏はSNS・X(旧Twitter)上に

<食品添加物は「積極的に使え」とは言わないけど衛生的観点から「適切に使ったほうが下手な無添加食品より安全」という認識は広がった方が良いと思う 無添加だから安全、オーガニックだから安全は幻想です>

と投稿。実業家の堀江貴文氏はYouTubeチャンネル上で

<これまで人間たちが積み上げてきた知見とか知識、知恵が、ヤバいやつらに全部台なしにされてるっていうのが、マジで怒りを覚える。なんのために保存料があるんだと。スイーツって砂糖をたくさん入れることで日持ちがしたりするんで、それを半分にするとか、アホか。食品添加物に対する怖がり方がハンパない>

<『食品添加物を使わないことが安心なんだ』みたいに。逆じゃん。子どもがこのマフィン食って食中毒になったら、ヘタすりゃ死ぬよ>

 食品添加物の使用をめぐっては、過去に大手メーカーが詳細な見解を発表し、業界および消費者に一石を投じたこともある。大手製パン企業の山崎製パンは2019年3月、「『イーストフード、乳化剤不使用』等の強調表示について」というリリースを発表し、次のように述べた。

<「イーストフード、乳化剤不使用」等の強調表示のある食パンや菓子パンは、イーストフードや乳化剤と同質、あるいは同一の機能を有する代替物質を使用して製造された食パンや菓子パンであり、添加物表示義務は回避できますが、実際はイーストフードや乳化剤を使用して製造された食パンや菓子パンと何ら差のあるものではありません>

<お客様が「イーストフード、乳化剤不使用」等の強調表示をご覧になると、実際にはイーストフードや乳化剤の機能を持つ代替物質を使用しているにもかかわらず、この食パンや菓子パンにはイーストフードや乳化剤はその代替物質を含め一切使用されていない、もしくは一切含まれていないと誤解し誤認される恐れがあります。更には、安全性が国際的に公認され、国が科学的根拠をもって安全性を評価し、広く使われているイーストフードや乳化剤に何か問題があり、「不使用」強調表示がされている食パンや菓子パンが、食品安全面、健康面で、あたかも優位性がある商品のように誤認される恐れがあり適切な表示とは言えません>

 ヤマザキは中央研究所における詳細な分析結果も公表したが、結局、同年には日本パン工業会が「イーストフード、乳化剤不使用」等の強調表示の自粛を決定するに至った。

食品添加物を使用しないことによるリスク

 では、食品添加物は体に害を与えるのか、また、使用しないことのリスクはあるのか。前出・西島氏はいう。

「食品添加物が体に害だというのは嘘です。食品添加物は、食品安全委員会の評価に基づき厚生労働省が厳重に審査したうえで『絶対に安全』と判断したもの、かつ、使用することによって消費者が恩恵を得ると認められたものしか、使用は認められていません」

 東京農業大学応用生物科学部食品安全健康学科の阿部尚樹教授はいう。

「ある食物を食べる際にゼロリスクであるということはあり得ません。大多数の人にとってリスクがない食物でも、その食物にアレルギー反応を示す人が少量でも食べればアナフィラキシー反応などの危険な反応が生じます。食品の安全性を考えるとき、『食品添加物は体に害』と決めつける言い方は正しくありません。食品添加物は、消費期限が伸びたり、腐りにくくなったりといった『使うメリット』がないと、使ってはいけないことになっており、国が科学的根拠を基に定めた使用基準や食品衛生法が遵守されていれば、食品添加物が健康被害を生じるリスクは極めて低いといえます。

 商品のイメージを良くするために『食品添加物不使用』を謳うメーカーもあるでしょうが、添加物が使われていなければ消費期限が短くなったり、より厳密に保存に注意を払う必要が生じたりし、食中毒のリスクが高まります。添加物不使用の食品を選んでそのようなリスクを背負うのか、添加物が使われていることのリスクを気にするのか、どちらのリスクをとるのかを判断するのは消費者個人の責任です。『添加物を使用していないから体に良い』と単にイメージで判断するのではなく、使用していないことによるリスクを十分に理解する必要があるといえるでしょう」

 では、一部でブームの「オーガニック志向」はどうみるべきか。前出・西島氏はいう。

「農薬を使用しないで栽培した食材を美味しいと感じる人は、食べてよいでしょう。農薬の使用については、品目ごとに国が非常に厳しい基準値を設定しており、その基準値も『それ以下であれば絶対に健康被害はない』というレベルの数値です。また、使用違反がないかどうかについては、各自治体の衛生研究所等が日々、抜き出し検査を行っています。ですので、基本的には、市販されている作物は安全だと考えてよいです」

(文=Business Journal編集部、協力=西島基弘/実践女子大学名誉教授、阿部尚樹/東京農業大学教授)

●西島基弘/実践女子大学名誉教授

薬学博士。1963年東京薬科大学卒業後、東京都立衛生研究所(現:東京都健康・安全研究センター)に入所。38年間、「食の安全」の最前線で調査・研究を行う。同生活科学部長を経て、実践女子大学教授に。日本食品衛生学会会長、日本食品化学学会会長、厚生労働省薬事・食品衛生審議会添加物部会委員などの公職を歴任。

阿部尚樹/東京農業大学教授

阿部尚樹/東京農業大学教授

85年北海道大学農学部卒、87年同大学院農学研究科修士課程を修了し、サッポロビール医薬開発研究所に入所。94年グレラン製薬開発研究センター研究員、その後、静岡県立大学食品栄養科学部食品学科助手を経て2002年東京農業大学応用生物科学部栄養科学科助教授、准教授、08年同教授、同大学院農学研究科指導教授兼務のまま14年から現職。
著書『食をめぐるほんとうの話』(講談社現代新書)など
阿部尚樹氏のプロフィール(東京農業大学のHPより)

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